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25-35 アキヒコ
「やめんといて……お願 いやから。逃 げんといてくれ」
汗 の浮 く顔の涙目 で、俺は水煙 に見つめられた。
何かそれに、どきっとした。泣いてるみたいに見えたんや。痛 くて泣いてんのかと思って、正直焦 った。
入るわけない。入るとこないんやもん。もうやめよう。
別にただ、抱 き合 うて一晩 過 ごすだけやったらあかんのか。
それでもええよ俺は。それでいい。もう、そうしようかって、口に出しかけた時に、水煙 の喉 が、くっ、と短い苦痛 の声をあげた。
ゆるゆる呑 んでた腰 つきが、急に覚悟 を決めたみたいに、本気を帯 びたように思えた。
ぷつりと弾 けるような感触 がした。その、呑 み込 まれようとする接点 で。
そしてその次の瞬間 、急激 に、俺は呑 まれた。ものすごく熱い、吸 い付 くような、激 しい愉悦 の隘路 の中へ。
思わず悲鳴 が漏 れるような悦 さやった。咄嗟 すぎて我慢 もきかへん。
でもその声は、自分の耳にも聞こえはしいひんかった。それより鋭 い苦痛 の声を、水煙 が上げたので。
「ああ……っ!」
喉 からほとばしるような悲鳴 やった。どこか裂 けてる。そんな感触 やったで。
それでも堪 えるふうな表情 で、水煙 は俺の肩 を掴 んでいた。逃 がさへんというように。
まるでこっちが襲 われてるみたいや。
苦痛 を堪 えてんのは水煙 のほうで、俺はめちゃめちゃ気持ちいいのに。まるで、その逆 みたい。
正直、悦 かった。じいんと痺 れてくるくらい。
病 みつきなりそう。ひたりと吸 い付 くような、熱い感触 やった。
形が合 うてるとか、そういうレベルの話やないから。たぶん、今まさに開けてる穴 なんやから。
穿孔式 ですよ。アキちゃん専用 ですよ。そんなんが気持ちよくないわけがない。
気まずいくらい、悦 い。こんなん初めて。もう漏 れそう。理性 が吹 っ飛 びそう。ほぼ吹 っ飛 んでる。
水煙 が、痛 いんでなければ、たぶんもうとっくに吹 き飛 んでいる。
「嬉 しい……気持ちええか、アキちゃん」
はあはあ苦しそうな涙目 で、水煙 は俺を見て、淡 く笑った。
「悦 いけど……あかん、やめよう。血が出てる」
滑 りのある熱い血が、だらだら流れ出てるのが、見なくても分かった。
見ようという勇気も出えへん。無茶苦茶すぎて怖 い。
萎 えそうやった。精神的 には。でも肉感的には、ものすごく悦 い。欲 と理性 の鬩 ぎ合 いやで。
でも、負けたくない。情欲 に負けて、このまま蹂躙 するというのは、俺にはちょっと、無理やねん。勘弁 して。
「俺ではだめか、アキちゃん。燃 えへんか……?」
頭上から、泣きそうな声で言われて、俺は動揺 した。
水煙 はほんまに泣いてた。大きな黒い目から、ぽろぽろと、大粒 の涙 がこぼれ落ちてた。
痛 いから、泣いてんのかと、そう思いかけ、水煙 があんまり哀 しそうな顔をしているのに気がついて、どうしてええか分からんようになった。
俺はやめたい。このままやりたくない。でも、やめてもうたら、傷 つくんやないか、水煙 は。
どっちの傷 のほうが痛 いんやろ。今、耐 えてるほうの痛 みと、お前とは、俺はやれへんて、俺が萎 え萎 えなって逃 げてもうたら、水煙 はそっちのほうが、痛 いんやろか。
「ほんなら燃 えへんでもええねん。最後までして。できるやろ」
皆 、したんやで。当主の義務 や。ご神刀 と契 る。熱い精 を与 えられて、もう一度灼熱 し、新しい当主 の太刀 として、打ち直されるんや。そういう儀式 なんやで。
それによって前の相手を、忘 れられる。今はこれが自分の主 やと思えるようになる。これは、そういう呪 いや。
お前のものにしてくれ。心だけでなく、鋼 でできてる、この肉体も。
泣いてる目をして、水煙 は、俺にそう言うた。
それは懇願 でもあるし、命令でもあった。俺を支配 している神の声。俺に支配 されようとしている神の声。
涙 の雫 が、はらはらと胸 に降 り懸 かってきた。熱い涙 やった。
「……キスしよか、水煙 」
俺が誘 うと、水煙 はまだ、ぽろぽろ泣いてる顔のまま、ゆっくり頷 いて答えた。
そのまま、がっくり項垂 れるようにして、胸 に抱 きついてきた青い体を、俺は砂地 に横たえて、求 めるように開かれた水煙 の唇 に、身を屈 めてキスをした。
必死やったで。キスなら気持ちよくなるんやって、それを信じて必死でやった。
前もそうやった、水煙 は。舌 を絡 めて、熱い口腔 を撫 でるうちに、だんだん悶 えて、切 ないみたいに喘 いでた。
この時も、そうやった。水煙 は、触 れあう唇 の合間 から、切 なげに甘 く喘 ぎ、俺が逃 げへんように、華奢 な青い両脚 を、俺の体を抱 くように絡 みつかせていた。
それを抱 き返してやって、強く抱 いたら壊 れそうな、ぐんにゃりしてる水煙 の体にも、俺は愛撫 の指を這 わせた。
だけど、困 った体やで。だって地球人の掟 を守ってへんのやもん。
わからへん、宇宙人 の性感帯 なんて。
わかるわけない。レベル高すぎ。
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