537 / 928

25-37 アキヒコ

 もう捨(す)てなあかんて、決心をして、そうするつもりで行ったのになあ。全然あかん。  結論(けつろん)から言うて、この、一夜かぎりで諦(あきら)める作戦(さくせん)も、百パーセント失敗(しっぱい)に終わった。  苦痛(くつう)をこらえて、俺を愛撫(あいぶ)する水煙(すいえん)の、泣いてる顔が愛(いと)しくてたまらへん。なんかもう胸(むね)がぎゅうぎゅう締(し)め付けられてる。  他(ほか)のところも締(し)め付(つ)けられてるけど。それが相(あい)まって、もうたまらん。あまりの切(せつ)なさで、気が狂(くる)う。  可愛(かわい)いすぎるねん、水煙(すいえん)。無理やから。どないして諦(あきら)めんのか、さっぱり見当つかへんのやから。  困(こま)ったなあって思うけど、どう考えても愛してんのやから。亨(とおる)の次やで。亨(とおる)の次。それは確実(かくじつ)にそうなんやけど。ほんまに次かな。  並列(へいれつ)? 俺ってちょっと、人格(じんかく)が分裂(ぶんれつ)してんのやないか。  神さんの手で引(ひ)き裂(さ)かれてるような苦痛(くつう)があってな、いつも、しんどいしんどいって思うてたんや。痛(いた)い痛(いた)い。心が二つに、三つに、四つに、五つに……それは多すぎか。とにかく、引(ひ)き裂(さ)かれそう。そう思えて、死にそうにつらいねんけども。  ほんまに裂(さ)けてきてるんとちがうか?  この夜、初めてそう思うたわ。分身(ぶんしん)しかけてんのやない? 俺って。  だってな。世界一好きやと思った。水煙(すいえん)のこと。宇宙(うちゅう)いち好き。愛してる。ずっと俺のものでいてくれ。永遠(えいえん)に離(はな)さへん。離(はな)したくない。誰(だれ)にも渡(わた)したくない。ずっと一心同体(いっしんどうたい)でいたい。俺の神様!  畜生(ちくしょう)、なにが怨霊(おんりょう)や。  向こうは海から生まれた半神半人(はんしんはんじん)かもしれへんけどな、こっちも外道(げどう)や。なんやら、とんでもない規模(きぼ)の力に目覚めてもうた。  今は蛇口(じゃぐち)閉(し)めてあるけどな、水煙(すいえん)が閉(し)めてくれたんやけど、やろうと思えば、大開放(だいかいほう)にもできるんやで。アキちゃん最大出力も、ありなんやで。  負けへん。俺のほうが強い。何が初代(しょだい)・暁彦(あきひこ)や。  こっちは末代(まつだい)や! 俺の後にはもうアキちゃんおらへん。  三百年も水煙(すいえん)を独占(どくせん)しとったくせに、何が不満なんや。俺なんかまだ一年経(た)ってへん。  そやのに俺は水煙(すいえん)をちょっとは幸せにした。キスして愉悦(ゆえつ)のお味見(あじみ)をさせた。  それで終わりと思うなよ。まだまだ行ける。三百年かけても進歩なかったお前とは、俺は出だしからして違(ちが)うんや。  水煙(すいえん)様に呪(のろ)いなんかかけやがって。俺も二回かけたけど。ちゃんと解(と)いといた! ごめんて言うといた。水煙(すいえん)、かまへんて言うてくれてた。  俺のことを愛してんのや。初代(しょだい)やない。末代(まつだい)のほう! 引(ひ)っ込(こ)め初代(しょだい)。俺のほうがいい。意地(いじ)でも。俺のほうがふさわしい、水煙(すいえん)様には。  俺がずっと、幸せにしてやりたい。水煙(すいえん)のことを。  確(たし)かに俺も切(せつ)ない。水煙(すいえん)がいつも、哀(かな)しいような微笑(ほほえ)みで、俺を見るのがつらいんや。  にっこり幸せそうに、笑っていてほしい。  たとえ異形(いぎょう)の神やと、人が畏(おそ)れ、忌(い)み嫌(きら)っても、そんなんかまへん。俺は愛してる。わからへん奴(やつ)がアホなんや。目が腐(くさ)ってる。  水煙(すいえん)のことは、俺に任(まか)せろ、ご先祖(せんぞ)様。成仏(じょうぶつ)しろ。もう帰れ。  すでに死人(しにん)の分際(ぶんざい)で、生きてる俺から式(しき)を盗(と)ろうやなんて、甘(あま)いんや。  お前はセックスが下手(へた)。それだけでもダメ。  朧(おぼろ)様にボロクソ言うてもらうぞ。めちゃめちゃ傷(きず)つくぞ。俺なんか、あと一歩で再起(さいき)不能(ふのう)やった。傷(きず)つかんうちに去れ。  リベンジ来るなら迎(むか)え撃(う)つ。  確(たし)かに水煙(すいえん)様は、執着(しゅうちゃく)するに足(た)る神や。優(やさ)しいし。健気(けなげ)やし。そして可愛(かわい)い。俺の神様。好きや。めちゃめちゃ愛してる。  ほんま言うたら俺は嬉(うれ)しい。お前が俺のことを、愛してくれてて。ずっとそのままでいてほしいんや。ずっと永遠(えいえん)に、そのままでいて。俺の水煙(すいえん)様でいて。愛してる。愛してる。お前が好きやねん。ずっと好(よ)きやった。我慢(がまん)して、堪(こた)えてただけ。その想(おも)いに、溺(おぼ)れへんように。  でももう無理や。我慢(がまん)でけへん。我慢(がまん)、したくない。もう、無理や。お前を激(はげ)しく愛したい。溺(おぼ)れたいねん、お前の中で。 「いきそうや……」  もう頽(くずお)れそうな水煙(すいえん)の、震(ふる)える青い柳腰(やなぎごし)を抱(いだ)いて、俺はそれを教えた。  こっちも少々、震(ふる)えが来てた。極(き)まり切れへん、つらさもあって。  あかんわ、もう、体のほうが正直で。めちゃくちゃ気持ちいい。この締(し)め具合(ぐあい)。普通(ふつう)やない。魂(たましい)吸(す)われてるような感じがする。  じっとしてられへん。我慢(がまん)できへん。理性(りせい)がブチブチ途切(とぎ)れてきてる。まさに夢中(むちゅう)や。頭真っ白なってきてる。 「突(つ)いてもええか。急いでやるから」  そんなんしたらあかんて言うてる理性(りせい)の声が、頭の片隅(かたすみ)で聞こえたけども、俺は夢中(むちゅう)でそう頼(たの)んでた。  あかんあかん、理性(りせい)の声が消音(しょうおん)モードに。 「好きにしてええよ。愉(たの)しんで……中に出してな、アキちゃん……そういう、儀式(ぎしき)なんやしな」  熱を持った手で、頷(うなず)く俺の頬(ほお)に触(ふ)れてきて、水煙(すいえん)は嬉(うれ)しそうに笑い、それでもぐったりとして、俺に押(お)し倒(たお)されていた。 「キスしよか……俺は一緒(いっしょ)にいきたいんや」  せめてお前も気持ちよくなってくれ。自分だけ悦(よ)ければいいというもんではないねん。愛やから。

ともだちにシェアしよう!