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25-37 アキヒコ

 もう()てなあかんて、決心をして、そうするつもりで行ったのになあ。全然あかん。  結論(けつろん)から言うて、この、一夜かぎりで(あきら)める作戦(さくせん)も、百パーセント失敗(しっぱい)に終わった。  苦痛(くつう)をこらえて、俺を愛撫(あいぶ)する水煙(すいえん)の、泣いてる顔が(いと)しくてたまらへん。なんかもう(むね)がぎゅうぎゅう()め付けられてる。  (ほか)のところも()()けられてるけど。それが(あい)まって、もうたまらん。あまりの(せつ)なさで、気が(くる)う。  可愛(かわい)いすぎるねん、水煙(すいえん)。無理やから。どないして(あきら)めんのか、さっぱり見当つかへんのやから。  (こま)ったなあって思うけど、どう考えても愛してんのやから。(とおる)の次やで。(とおる)の次。それは確実(かくじつ)にそうなんやけど。ほんまに次かな。  並列(へいれつ)? 俺ってちょっと、人格(じんかく)分裂(ぶんれつ)してんのやないか。  神さんの手で()()かれてるような苦痛(くつう)があってな、いつも、しんどいしんどいって思うてたんや。(いた)(いた)い。心が二つに、三つに、四つに、五つに……それは多すぎか。とにかく、()()かれそう。そう思えて、死にそうにつらいねんけども。  ほんまに()けてきてるんとちがうか?  この夜、初めてそう思うたわ。分身(ぶんしん)しかけてんのやない? 俺って。  だってな。世界一好きやと思った。水煙(すいえん)のこと。宇宙(うちゅう)いち好き。愛してる。ずっと俺のものでいてくれ。永遠(えいえん)(はな)さへん。(はな)したくない。(だれ)にも(わた)したくない。ずっと一心同体(いっしんどうたい)でいたい。俺の神様!  畜生(ちくしょう)、なにが怨霊(おんりょう)や。  向こうは海から生まれた半神半人(はんしんはんじん)かもしれへんけどな、こっちも外道(げどう)や。なんやら、とんでもない規模(きぼ)の力に目覚めてもうた。  今は蛇口(じゃぐち)()めてあるけどな、水煙(すいえん)()めてくれたんやけど、やろうと思えば、大開放(だいかいほう)にもできるんやで。アキちゃん最大出力も、ありなんやで。  負けへん。俺のほうが強い。何が初代(しょだい)暁彦(あきひこ)や。  こっちは末代(まつだい)や! 俺の後にはもうアキちゃんおらへん。  三百年も水煙(すいえん)独占(どくせん)しとったくせに、何が不満なんや。俺なんかまだ一年()ってへん。  そやのに俺は水煙(すいえん)をちょっとは幸せにした。キスして愉悦(ゆえつ)のお味見(あじみ)をさせた。  それで終わりと思うなよ。まだまだ行ける。三百年かけても進歩なかったお前とは、俺は出だしからして(ちが)うんや。  水煙(すいえん)様に(のろ)いなんかかけやがって。俺も二回かけたけど。ちゃんと()いといた! ごめんて言うといた。水煙(すいえん)、かまへんて言うてくれてた。  俺のことを愛してんのや。初代(しょだい)やない。末代(まつだい)のほう! ()()初代(しょだい)。俺のほうがいい。意地(いじ)でも。俺のほうがふさわしい、水煙(すいえん)様には。  俺がずっと、幸せにしてやりたい。水煙(すいえん)のことを。  (たし)かに俺も(せつ)ない。水煙(すいえん)がいつも、(かな)しいような微笑(ほほえ)みで、俺を見るのがつらいんや。  にっこり幸せそうに、笑っていてほしい。  たとえ異形(いぎょう)の神やと、人が(おそ)れ、()(きら)っても、そんなんかまへん。俺は愛してる。わからへん(やつ)がアホなんや。目が(くさ)ってる。  水煙(すいえん)のことは、俺に(まか)せろ、ご先祖(せんぞ)様。成仏(じょうぶつ)しろ。もう帰れ。  すでに死人(しにん)分際(ぶんざい)で、生きてる俺から式(しき)を()ろうやなんて、(あま)いんや。  お前はセックスが下手(へた)。それだけでもダメ。  (おぼろ)様にボロクソ言うてもらうぞ。めちゃめちゃ(きず)つくぞ。俺なんか、あと一歩で再起(さいき)不能(ふのう)やった。(きず)つかんうちに去れ。  リベンジ来るなら(むか)()つ。  (たし)かに水煙(すいえん)様は、執着(しゅうちゃく)するに()る神や。(やさ)しいし。健気(けなげ)やし。そして可愛(かわい)い。俺の神様。好きや。めちゃめちゃ愛してる。  ほんま言うたら俺は(うれ)しい。お前が俺のことを、愛してくれてて。ずっとそのままでいてほしいんや。ずっと永遠(えいえん)に、そのままでいて。俺の水煙(すいえん)様でいて。愛してる。愛してる。お前が好きやねん。ずっと()きやった。我慢(がまん)して、(こた)えてただけ。その(おも)いに、(おぼ)れへんように。  でももう無理や。我慢(がまん)でけへん。我慢(がまん)、したくない。もう、無理や。お前を(はげ)しく愛したい。(おぼ)れたいねん、お前の中で。 「いきそうや……」  もう(くずお)れそうな水煙(すいえん)の、(ふる)える青い柳腰(やなぎごし)(いだ)いて、俺はそれを教えた。  こっちも少々、(ふる)えが来てた。()まり切れへん、つらさもあって。  あかんわ、もう、体のほうが正直で。めちゃくちゃ気持ちいい。この()具合(ぐあい)普通(ふつう)やない。(たましい)()われてるような感じがする。  じっとしてられへん。我慢(がまん)できへん。理性(りせい)がブチブチ途切(とぎ)れてきてる。まさに夢中(むちゅう)や。頭真っ白なってきてる。 「()いてもええか。急いでやるから」  そんなんしたらあかんて言うてる理性(りせい)の声が、頭の片隅(かたすみ)で聞こえたけども、俺は夢中(むちゅう)でそう(たの)んでた。  あかんあかん、理性(りせい)の声が消音(しょうおん)モードに。 「好きにしてええよ。(たの)しんで……中に出してな、アキちゃん……そういう、儀式(ぎしき)なんやしな」  熱を持った手で、(うなず)く俺の(ほお)()れてきて、水煙(すいえん)(うれ)しそうに笑い、それでもぐったりとして、俺に()(たお)されていた。 「キスしよか……俺は一緒(いっしょ)にいきたいんや」  せめてお前も気持ちよくなってくれ。自分だけ()ければいいというもんではないねん。愛やから。

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