541 / 928
25-41 アキヒコ
ふっ。どうしよ。俺はどないしてこの責任をとるつもりなんや。
この、女顔 美少年 みたになっちゃった水煙 様を、今後どうやってお祀 りしていったらええんやろ。
亨 になんて言い訳 しよう。説明のしようがない。
こんなキラキラになった水煙 が、普通 に立って走り回ったり、怪力 なったりしていたら、何があったんやって、絶対聞かれる。
呪 いが解 けるような、何をしたんやって、きっと訊 かれるやろう。
何をしたんや、俺は。ただ抱 いただけ。めちゃめちゃ悦 くしてやっただけのはず。
それが効果的 やったんか、呪 いを解くのに。エロが有効 ?
「違 う……愛やないか。ひどいこと言うなあ、お前は。好きになった相手と、心底 ほんまに愛し合えたから、呪 いが解けたんや。お前の愛が、暁彦 の呪詛 に、打ち勝ったんやで?」
恥 ずかしいやら情 けないやら。水煙 に泣きそうな声して言われ、俺は打ちのめされた。
そうやな。それも、よう聞く話や。お伽話 で。
呪 いでカエルになった王子様がお姫様のキスで人間に戻 るとか。野獣 が王子にとか。とにかく真 の愛には、呪 いを解 く力があるらしい。
真 の愛か……。気まずすぎて亨 には説明でけへん。
「それに、まだ……歩かれへん。顔のほうはな、俺が自分にかけてた呪 いや。長年かけて、あんまり強くかけすぎて、自分でも解 かれへんようになっていたんや。歩かれへんのとか、非力 なのとか……あるもんが無いのとかはな、俺の呪 いではない。暁彦 がやったんや。あいつが俺を呪 い続けている限りは、そう簡単 には解 けへん」
解 けてへんのや! 微妙 !
嬉 しいような、哀 しいようなやで。
だって、お姫様抱 っこはいまだにできるが、穴無 し続投 。
そ、そうか……そうなんやな。世の中にそんなウマい話はないということや。
「ごめんな……足手 まといで。俺に、あいつの呪詛 を振り払 うだけの力があればええんやけど、哀 れでできへん。あいつは、いずれ月へ帰ろうとする俺が、恨 めしかったんやろう。捕 らえておこうと必死 でいた。それも無理ない、あの子には、親 しく頼 れる相手は俺しかおらんかったんや」
俺が痛恨 の表情やったのが、水煙 には、歩かれへんのが迷惑 やからやと思えたらしい。
なんという誤解 。読み筋 に穢 れがなさすぎ。さすがは月から来た、もと清童 や。なんか根が清 い。
それに水煙 はあの怨霊 のことを、憎 んではいないようやった。
むしろ今でも愛 しく思うてやっている。守ってやってた我 が子やと、今でも思うてる。
燃え上がるような激 しい恋愛 は消えても、その温かい情愛 は、胸 の奥 の埋み火 のように、今でも燃えてる。
ほんま言うたら水煙 が、結局 、月へは帰らずに、ずっと地上に留 まっていたのは、そのせいやないか。
可愛 い我 が子と、その血に連 なる秋津 の子らが心配でたまらず、血筋 に取り憑 く神として、ずっと居残 っていた。
ありがたいご神刀 として崇 められつつ、それでも秋津 に仕 える式神 やった。
それは水煙 が、うちの血筋 の始祖 やったからなんや。
初代 の男はたぶん、無理矢理 犯 すやなんて、そんな荒事 に及 ばなくても、ただ頼 めばよかった。
ずっと居 てくれと、水煙 様に、お縋 りして頼 めば良かっただけなんや。
そしたら水煙 はきっと、いつまでも傍 に居 てくれたやろう。そういう、情 け深い神さんやから。
「呪 いなんて、かまへん。そんなの。それもいつかは解 けるんかもしれへんし。お前が、解 きたいんやったら」
受けた呪 いもひとつの縁 やと、それを拒 まず受け入れてきた、水煙 の情愛 が分かる気がして、俺もその怨霊 を、力業 ではね除 けようとは、思わへんかった。
「穏便 に解 けるもんなら、解 きたいな……。解 いて、アキちゃんと、もっと気持ちええことしたい」
うっとり恥 ずかしそうに、水煙 は好色 そうなことを言うた。
ほんまにもと清童 か。好きなんか、水煙 。そんなに悦 かったか。どないしよ。
俺が青ざめてると、水煙 はくすりと、皮肉 なような、自嘲 したような笑い方をした。
「俺も亨 と大差 なしやな? したいしたいで、なりふり構 わずや。お前が好きで、たまらへんのや……恥 ずかしい」
顔を隠 すためやろう。水煙 はいかにも恥 ずかしいふうな、なよやかな仕草 で、俺の胸 にまた、やんわりと抱 きついてきた。
その柔肌 の抱 き心地 は、まさしく天にも昇 るような、ふわりとした甘 さ。
どうしよう。ほんまに大差 なしやったら。二匹 の蛇 さんに欲 しい欲 しいて迫 られたら、俺、生きていけるやろか。
大丈夫 かな、俺は。大丈夫 か。
これを拒 めるのか……。それとも、拒 めるわけもなく、二股 かけようとでもいうんか。まさか。
そんな心配、生きてられた場合だけにしろやな。
これから戻 って、水地亨 にぎったんぎったんにされて、二度と悪さでけへんような呪 いを、下の人にかけられるかもしれへんのやしな。
あいつも神やで。やるときゃやるかもしれへんで。
ともだちにシェアしよう!