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三都幻妖夜話(3)神戸編 25-62 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
25-62 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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25-62 アキヒコ
頼
(
たの
)
もしい俺を
言祝
(
ことほ
)
ぐような
誇
(
ほこ
)
らしさで言うて、
水煙
(
すいえん
)
はいかにも、満足げやった。 長い年月をかけて
練
(
ね
)
り上げた、
秋津
(
あきつ
)
の
血筋
(
ちすじ
)
の
裔
(
すえ
)
に、とうとう生まれた
不死人
(
ふしじん
)
に、
心底
(
しんそこ
)
満足しているようやった。 それと
連
(
つ
)
れ
添
(
そ
)
うご
神刀
(
しんとう
)
や、
水煙
(
すいえん
)
は。 それは決して、
甘
(
あま
)
いような関係やない。 切れ味
鋭
(
するど
)
い
白刃
(
はくじん
)
を
振
(
ふ
)
るう、その
技
(
わざ
)
の
極
(
きわ
)
みに、
一瞬
(
いっしゅん
)
だけ
現
(
あらわ
)
れる
愉悦
(
ゆえつ
)
に満ちた
和合
(
わごう
)
。その一時(ひととき)だけが、俺とお前の
逢瀬
(
おうせ
)
やと、じっと見つめる
水煙
(
すいえん
)
の、強い目が語りかけていた。 それはもう、
定
(
さだ
)
まった道や。
水煙
(
すいえん
)
はそう、
覚悟
(
かくご
)
を決めている。 俺がどう泣きつこうが、
揺
(
ゆ
)
らぐような弱い決意ではない。
惚
(
ほ
)
れた
腫
(
は
)
れたと
醜
(
みにく
)
く争い、身
悶
(
もだ
)
えるような
無様
(
ぶざま
)
を、
水煙
(
すいえん
)
はもう
晒
(
さら
)
したくないんやって。 そんなんするくらいなら、
潔
(
いさぎよ
)
く身を引くわと、
水煙
(
すいえん
)
様はそう言うていた。 それに俺が、どう
逆
(
さか
)
らえるやろ。
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
って、
従
(
したが
)
うしかない。 自分も
無様
(
ぶざま
)
を
晒
(
さら
)
したくないならば。
一夜
(
いちや
)
限
(
かぎ
)
りの
夢
(
ゆめ
)
やったと、
全
(
すべ
)
て
堪
(
こら
)
えて引き下がるしかないわ。 「水浴びて、
汗
(
あせ
)
を流していけ、ジュニア。それは水
占
(
みずうら
)
に
顕
(
あらわ
)
れる、
姿
(
すがた
)
なき天地(あめつち)の神への
礼儀
(
れいぎ
)
や。
禊
(
みそ
)
ぎして、
浄
(
きよ
)
めた体で
運命
(
うんめい
)
の声を
聴
(
き
)
け」
導
(
みちび
)
く
師匠
(
ししょう
)
の声で言う
水煙
(
すいえん
)
の
指図
(
さしず
)
に、俺は
黙
(
だま
)
って
頷
(
うなず
)
いた。
他
(
ほか
)
になんも、することないしな。
確
(
たし
)
かに
大汗
(
おおあせ
)
かいていた。 シャワーでも、浴びようか。まさか
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
い
水煙
(
すいえん
)
様のいる
風呂
(
ふろ
)
に、俺もいれてと言う
訳
(
わけ
)
いかへん。 俺は
拒
(
こば
)
まれた。
代々
(
だいだい
)
の
当主
(
とうしゅ
)
がそうやったように、俺も
水煙
(
すいえん
)
に、
拒否
(
きょひ
)
されていた。 そやのに
慣
(
な
)
れ
慣
(
な
)
れしくするわけには、いかへんやろ。 それで
大人
(
おとな
)
しく服
脱
(
ぬ
)
いで、俺は頭から冷や水を浴びた。 冷たい水やった。
灘
(
なだ
)
(なだ)の宮水(みやみず)や。
怖
(
おそれ
)
ろしく
清
(
きよ
)
い。 今さら
水煙
(
すいえん
)
に、
裸
(
はだか
)
見られて
恥
(
は
)
ずかしいとは、ちっとも思えへんかった。何もかも
晒
(
さら
)
してもうた後や。
全
(
すべ
)
て今さら。
隠
(
かく
)
しても
無駄
(
むだ
)
やもん。 ただ、ものすごく、
肩口
(
かたぐち
)
にある
傷
(
きず
)
に、水が
染
(
し
)
みた。
灼
(
や
)
けた鉄でも
押
(
お
)
しつけられたような、
燃
(
も
)
えた指で
縋
(
すが
)
り
付
(
つ
)
かれたような、そんなひりつく
傷痕
(
きずあと
)
やった。 おかしいなあと、俺はぼんやり思っていた。 あれは
夢
(
ゆめ
)
やろ。
夢
(
ゆめ
)
のはずや。 俺に
抱
(
だ
)
かれて
水煙
(
すいえん
)
が、必死で
縋
(
すが
)
り
付
(
つ
)
いてた、あれは
夢
(
ゆめ
)
なんやろう。 そやのになんで、
現世
(
げんせ
)
にある俺の
背
(
せ
)
に、その時
食
(
く
)
い
込
(
こ
)
むようやった、
水煙
(
すいえん
)
の指の
痕
(
あと
)
が残っているんやろう。
確
(
たし
)
かにあれは
夢
(
ゆめ
)
やけど、俺は
忘
(
わす
)
れたくない。あの時の
抱擁
(
ほうよう
)
の、
痛
(
いた
)
いほどの強さを。きっとそれを、一生
憶
(
おぼ
)
えてる。
呪
(
のろ
)
われた、深い
傷痕
(
きずあと
)
のように、ずっとこの身に
憶
(
おぼ
)
えているままやろう。
水煙
(
すいえん
)
はその
傷
(
きず
)
を見ているようやった。 それでも何も言うてはくれへんかった。ただじっと、何考えてんのか分からん、心も
感情
(
かんじょう
)
もないような目で、俺を見ているだけで。 そして
水垢離
(
みずごり
)
を終えた俺が、体
拭
(
ふ
)
きつつ
突
(
つ
)
っ
立
(
た
)
っているのを
眺
(
なが
)
め、
水煙
(
すいえん
)
は言うた。 「いよいよやなあ。また
二人
(
ふたり
)
で、熱く
燃
(
も
)
えようか。死の
舞踏
(
ぶとう
)
が始まれば、
斬
(
き
)
らなあかん
鬼
(
おに
)
は、
掃
(
は
)
いて
捨
(
す
)
てるほどいる。こないだの船の
比
(
ひ
)
やないで。
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
りまくれ」
淡
(
あわ
)
い
微笑
(
びしょう
)
の
浮
(
う
)
かぶ、青白い顔で、
水煙
(
すいえん
)
はバスタブから俺を見上げていた。 美しい神やと俺には思えた。
湯縁
(
ゆべり
)
にくつろぎ、
戦意
(
せんい
)
に
燃
(
も
)
えてる
淡
(
あわ
)
い
水煙
(
みずけむり
)
をまとった
姿
(
すがた
)
は、とても美しい。 「どないなるか、わからへん。
準備
(
じゅんび
)
は
万端
(
ばんたん
)
、整えたけども、運命とは気まぐれなもんや。何かのちょっとした
手違
(
てちが
)
いで、
突然
(
とつぜん
)
、流れが変わることもある。気をつけなあかん。死の
舞踏
(
ぶとう
)
と戦う者の中には、死者も出る。お前がそうならんとも
限
(
かぎ
)
らへん。
油断
(
ゆだん
)
はするな。生きて
祭壇
(
さいだん
)
まで
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
け」 「
一緒
(
いっしょ
)
に行くんやろう、お前も」 まさかそれも
反故
(
ほご
)
やないやろ。
夢
(
ゆめ
)
の中では、お前が俺にそう
頼
(
たの
)
んでたんやないか。 自分も連れて行ってくれ。
捨
(
す
)
てるのは、その戦いが終わった後にしてと、お前が俺に
懇願
(
こんがん
)
していた。 なんで
逆
(
ぎゃく
)
になってんの。俺はいかにも気弱みたいな、お
縋
(
すが
)
りモードやったわ。 「
一緒
(
いっしょ
)
に行く。それとももう、
他
(
ほか
)
の
武器
(
ぶき
)
でも
調達
(
ちょうたつ
)
したんか」 意地悪そうな口調で、
水煙
(
すいえん
)
は
訊
(
たず
)
ねてきた。 そんなもん、あるわけないと知ってるふうな
口振
(
くちっぷ
)
りやった。 「俺に使われるのは、もう
嫌
(
いや
)
か?」 そうやって言われたらどうしよう。俺は
相当
(
そうとう
)
、
惨
(
みじ
)
めっぽい顔でもしてたんか。
尋
(
たず
)
ねた俺に、
水煙
(
すいえん
)
は
困
(
こま
)
ったような顔で
微笑
(
ほほえ
)
んでいた。 「そんなわけないやろう。どうしたんやジュニア。俺はお前の
太刀
(
たち
)
なんやろう。お前が
当主
(
とうしゅ
)
で、俺はその守り刀や。何に
替
(
か
)
えてもお前の身を、守ってやる」 「俺はお前に守られたかった
訳
(
わけ
)
やない。お前のことを、守ってやりたかったんや」 おかしいなあ。なんで
過去形
(
かこけい
)
なんやろ。 俺がしょんぼりそう言うと、
水煙
(
すいえん
)
はほんまに、
困
(
こま
)
ったような、
哀
(
かな
)
しいような顔をして、俺から目を
逸
(
そ
)
らした。
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椎堂かおる
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