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三都幻妖夜話(3)神戸編 25-69 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
25-69 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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25-69 アキヒコ
亨
(
とおる
)
は俺と
結婚
(
けっこん
)
しかたもしれへんけど、俺の家と
結婚
(
けっこん
)
したわけやない。
結婚
(
けっこん
)
言うても
真似事
(
まねごと
)
だけやん。別に
籍
(
せき
)
入れた
訳
(
わけ
)
やない。法的には赤の他人や。日本は
野郎
(
やろう
)
同志
(
どうし
)
で
結婚
(
けっこん
)
できるほど、
理解
(
りかい
)
のある国やないからな。 あいつ
戸籍
(
こせき
)
があるねんで。信じられへん。どこのアホが
蛇
(
へび
)
に
戸籍
(
こせき
)
を作ってやったんや。
下僕
(
げぼく
)
にもほどがある。 都市部の川に出てきた海のほ
乳類
(
にゅうるい
)
に、
住民票
(
じゅうみんひょう
)
作ってやるのとは
訳
(
わけ
)
が
違
(
ちが
)
うねんで。
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
は
選挙権
(
せんきょけん
)
を持っているんや! なんて
怖
(
こわ
)
い話や。まさしくオカルト・ホラーやで。 あいつの
清
(
きよ
)
き
一票
(
いっぴょう
)
で、
市会議員
(
しかいぎいん
)
とか
府知事
(
ふちじ
)
とかが
当選
(
とうせん
)
してまうかもしれへんなんて。 人間の人はもっと
投票
(
とうひょう
)
に行ったほうがいい。だって
亨
(
とおる
)
はちゃんと
選挙
(
せんきょ
)
に行っている。
物珍
(
ものめずら
)
しいかららしいで。人間ぽいやろフフンみたいな、
外道
(
げどう
)
ならではのステイタスを
覚
(
おぼ
)
えるかららしいで。
誰
(
だれ
)
に
投票
(
とうひょう
)
するかは、もちろん顔で選んでるんや。
政策
(
せいさく
)
やら
公約
(
こうやく
)
やら関係ない。
選挙
(
せんきょ
)
演説
(
えんぜつ
)
なんか聞いてへんのやから。 あのオッサン、イケてそう。いっぱい金持ってそう。けっこう好み
系
(
けい
)
とか、
選挙
(
せんきょ
)
ポスターの赤色が好きとか、そういう理由で
投票
(
とうひょう
)
してんのや。 何も考えてへん。
亨
(
とおる
)
は
人間界
(
にんげんかい
)
とは
無関係
(
むかんけい
)
なんやから! そんな
適当
(
てきとう
)
な
奴
(
やつ
)
が、なんで
人界
(
じんかい
)
に
尽
(
つ
)
くして死ぬ目に
遭
(
あ
)
わなあかん理由があるんや。 こいつも神や。
尽
(
つ
)
くしたってかまへんのやけど、今まで
悪魔
(
サタン
)
でも
無事
(
ぶじ
)
やったんやろ。これからもそれでええやん。 お前が
悪魔
(
サタン
)
でも、俺はかまへん。それでも愛してる。
無事
(
ぶじ
)
なほうがええやんか。
君子
(
くんし
)
危
(
あや
)
うきに
近寄
(
ちかよ
)
らずやで。 「
亨
(
とおる
)
……お前、ひとりで帰れるやろ。先、帰っとけ」 俺は
水煙
(
すいえん
)
の
座
(
すわ
)
る
車椅子
(
くるまいす
)
の、ハンドルに手を
載
(
の
)
せたまま、ぼんやりとそう言うてた。 何かに
縋
(
すが
)
ってないと、くらくらバタンて行きそうな気分やった。ものすご
萎
(
な
)
えてた。かなりフラフラやった。
亨
(
とおる
)
の目を見る
気合
(
きあ
)
いもなかった。そやから、どんな顔をされてたのか、その
瞬間
(
しゅんかん
)
の
亨
(
とおる
)
のリアクションを、俺は知らへん。 「アキちゃん……」
哀
(
あわ
)
れっぽい、
掠
(
かす
)
れた
小声
(
こごえ
)
が、俺を
呼
(
よ
)
んでた。ベッドの上から。 いつもやったら、
甘
(
あま
)
く
囁
(
ささや
)
くような声で、そこから俺を
呼
(
よ
)
んでいる。 アキちゃん
抱
(
だ
)
いて。アキちゃん、ふたりで、気持ちええことしようよと、うっとり
幻惑
(
げんわく
)
するような声して、俺を
誘
(
さそ
)
う。そんな
怖
(
こわ
)
くて
可愛
(
かわい
)
い
蛇
(
へび
)
さんやのに、今はなんでか、ただの人みたい。 それは俺のよく知る声やった。俺にふられた女の子たちが、俺を
呼
(
よ
)
ぶ時の声。
本間
(
ほんま
)
君。それ、どういう意味なん? ウチのこと、もう、好きやないの? 別れるの? なんで? なんでウチのこと、もう愛してへんの? 「アキちゃん……
水煙
(
すいえん
)
に、何されたんや。どんな
悦
(
え
)
えことされたんや。そんなん俺が……してやるやん」 なんか泣きべそかいてるような、
湿
(
しめ
)
っぽい声で、
亨
(
とおる
)
がひっそり
訊
(
き
)
いてきた。 「何を言うてんのや、お前は。
破廉恥
(
はれんち
)
な。一
晩
(
ばん
)
、
寝
(
ね
)
ないで
見張
(
みは
)
っていたんやろ。何もしてへん」 けろりと
平静
(
へいせい
)
に、
水煙
(
すいえん
)
は
嘘
(
うそ
)
をついていた。 いや、
嘘
(
うそ
)
ではないかもしれへん。
確
(
たし
)
かに何もしてない。
現世
(
げんせ
)
では。 ただ同じ
夢
(
ゆめ
)
を見ていただけや。それは
普通
(
ふつう
)
ではない
出来事
(
できごと
)
ではあるけども、たとえ
誰
(
だれ
)
かと同じ
夢
(
ゆめ
)
を見たからといって、それもやっぱり
現実
(
げんじつ
)
ではない。
夢
(
ゆめ
)
は
夢
(
ゆめ
)
。そういうことになるんやろか。
目覚
(
めざ
)
めた後に、お
互
(
たが
)
い
憶
(
おぼ
)
えてなければ、そうかもしれへん。
憶
(
おぼ
)
えてないだけで、実は
皆
(
みな
)
も
夢
(
ゆめ
)
ん中で、
友達
(
ともだち
)
とか
彼氏
(
かれし
)
とか、死んだお
婆
(
ばあ
)
ちゃんとかに、
会
(
お
)
うてんのかもしれへんで。 その
可能性
(
かのうせい
)
は無いではない。
通力
(
つうりき
)
しだいや。
水煙
(
すいえん
)
と、
昨夜
(
ゆうべ
)
なんもなかったとは、俺は
亨
(
とおる
)
に
断言
(
だんげん
)
できひん。何かはあった。それは、
亨
(
とおる
)
には言うに言えへんような何かや。 「ほな、たった今したんか。バスルームでしたのか。アキちゃん……なんとか言うてよ!」 強く
呼
(
よ
)
ばれて、俺はやむなく
亨
(
とおる
)
を見つめた。 顔
真
(
ま
)
っ
青
(
さお
)
やった。もともと白い
肌
(
はだ
)
した顔が、紙でできてるみたいに、真っ白に血の
気
(
け
)
を失っていた。 今
触
(
ふ
)
れたら、きっと
亨
(
とおる
)
は氷みたいに冷たいんやろう。
寂
(
さび
)
しい時、
亨
(
とおる
)
はいつも冷たくて、アキちゃん寒いと
甘
(
あま
)
えてくる。それを
甘
(
あま
)
えられるまま
抱
(
だ
)
いてると、だんだん熱く
燃
(
も
)
える。 その
燃
(
も
)
えるような手で、
亨
(
とおる
)
も俺を
抱
(
だ
)
く。 そんな
甘
(
あま
)
いような
回想
(
かいそう
)
も、今は青ざめて思い返すような、
過去
(
かこ
)
の
出来事
(
できごと
)
に思えた。
亨
(
とおる
)
は
爛々
(
らんらん
)
と光るような目で、俺を見つめ返してきた。
怒
(
おこ
)
ってはいない、
哀
(
かな
)
しそうな、強い目やった。 「約束したよな、お前は。
呪
(
のろ
)
いを
解
(
と
)
くだけやって。ほんで
謝
(
あやま
)
るだけなんやろ? そういう事で
許
(
ゆる
)
したんやったよな? そやのに、なにこれ? どないなってんねん、アキちゃん。
亨
(
とおる
)
は
要
(
い
)
らんし帰れやと? お前は俺をなんやと思うてんのや……」 そうやない。
要
(
い
)
らんから帰れなんて言うてへん。それは
誤解
(
ごかい
)
やで。 お前に何かあったら
嫌
(
いや
)
やし、家で待っとけいうだけの話やで。 それとも俺は
亨
(
とおる
)
が
邪魔
(
じゃま
)
なのか。気まずいからか。あっちいっとけいう話なんか。
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椎堂かおる
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