574 / 928
25-74 アキヒコ
それでも信太 は確信 していた。
あの赤い鳥さんが、ほんまもんの不死鳥 なんやと。
なぜなら最初に神戸 に降 り立 った時、赤い鳥をとりまく大地に、無数 のひまわりが咲 き乱 れた。
それは瓦礫 の中にたまたま落ちていた種 が、寛太 の霊威 に煽 られて、芽吹 いて育っただけの、偶然 やったんやろけど、信太 には再生 能力 を暗示 する意味深い光景 に見えた。
お前こそ、愛 しい俺のフェニックスと、囁 き続 けて二十余 年。
それは、ほんまになったのか。それを確 かめる時が、とうとうやってきたんや。
信太 はこう考えていた。
鳥がほんまに俺を愛してて、ほんまに不死鳥 なんやったら、鯰 様に命を食われて、黄泉 に隷属 する羽目 になった俺の魂 を、我 が身 の霊威 によって、現世 に呼 び戻 そうとするやろう。
なぜなら寛太 は永遠 に生きる。死なれへんのやから、彼岸 と此岸 に分かたれてもうた恋人 と、再 び抱 き合 いたければ、死んでるほうを黄泉 がえらせるより他はない。
それは、一世一代 の大博打 やな。
死んだ自分が死んだままなら、それは、寛太 がただの鳥やったということ。
あるいは、死に別れた信太 の兄貴 が、死んだままでも、まあええかと、鳥がそう思う程度 にしか、自分を愛してくれてなかったということや。
それなら、それで、しょうがない。
しかし、もしもこの賭 に、勝つことができたなら、それこそ起死回生 の、逆転 満塁 ホームランやで。
信太 は鯰 から神戸 を救 い、そして不死鳥 までもこの街に与 えてやることができる。
大地震 からの救済 、そして再生 。それはこの二十年余 、信太 が願い続けた悲願 でもあったし、神戸 を守る巫女 としての、蔦子 さんの悲願 でもあったんや。
籤 の水占 に顕 れる神は、果 たして信太 を選ぶんやろか。
それは信太 の運命やろか。
運命の川筋 は、一体、どっちに向かって流れていってるんやろか。
聞いてみての、お楽しみやな。
ばたんと部屋 の扉 は閉 じた。俺は水煙 の車椅子 を押 して、エレベーターのあるほうへと、ヴィラ北野の華麗 な廊下 をゆっくり行った。
赤い絨毯 に、窓 からの日射 しが、四角く切り取られた光の泉 のようになって、くっきりと明るく、揺 らめいていた。
日輪(にちりん)の時間や。神戸 はまだ、真昼 やった。
亨 が追ってくるかと、俺は後 ろ髪 を引かれる思いで、水煙 とふたり、下階 へと降 りるエレベーターに乗 り込 んだ。
チン、と軽快 なベルの音が鳴り、滑 るように扉 は閉 じた。
それはこれから俺を待ち受けていた戦いの儀式 の、始まりを告げる音やった。
――第25話 おわり――
ともだちにシェアしよう!