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25-74 アキヒコ

 それでも信太(しんた)確信(かくしん)していた。  あの赤い鳥さんが、ほんまもんの不死鳥(ふしちょう)なんやと。  なぜなら最初に神戸(こうべ)()()った時、赤い鳥をとりまく大地に、無数(むすう)のひまわりが()(みだ)れた。  それは瓦礫(がれき)の中にたまたま落ちていた(たね)が、寛太(かんた)霊威(れいい)(あお)られて、芽吹(めぶ)いて育っただけの、偶然(ぐうぜん)やったんやろけど、信太(しんた)には再生(さいせい)能力(のうりょく)暗示(あんじ)する意味深い光景(こうけい)に見えた。  お前こそ、(いと)しい俺のフェニックスと、(ささや)(つづ)けて二十()年。  それは、ほんまになったのか。それを(たし)かめる時が、とうとうやってきたんや。  信太(しんた)はこう考えていた。  鳥がほんまに俺を愛してて、ほんまに不死鳥(ふしちょう)なんやったら、(なまず)様に命を食われて、黄泉(よみ)隷属(れいぞく)する羽目(はめ)になった俺の(たましい)を、()()霊威(れいい)によって、現世(げんせ)()(もど)そうとするやろう。  なぜなら寛太(かんた)永遠(えいえん)に生きる。死なれへんのやから、彼岸(ひがん)此岸(しがん)に分かたれてもうた恋人(こいびと)と、(ふたた)()()いたければ、死んでるほうを黄泉(よみ)がえらせるより他はない。  それは、一世一代(いっせいいちだい)大博打(おおばくち)やな。  死んだ自分が死んだままなら、それは、寛太(かんた)がただの鳥やったということ。  あるいは、死に別れた信太(しんた)兄貴(あにき)が、死んだままでも、まあええかと、鳥がそう思う程度(ていど)にしか、自分を愛してくれてなかったということや。  それなら、それで、しょうがない。  しかし、もしもこの(かけ)に、勝つことができたなら、それこそ起死回生(きしかいせい)の、逆転(ぎゃくてん)満塁(まんるい)ホームランやで。  信太(しんた)(なまず)から神戸(こうべ)(すく)い、そして不死鳥(ふしちょう)までもこの街に(あた)えてやることができる。  大地震(だいじしん)からの救済(きゅうさい)、そして再生(さいせい)。それはこの二十年(あまり)信太(しんた)が願い続けた悲願(ひがん)でもあったし、神戸(こうべ)を守る巫女(みこ)としての、蔦子(つたこ)さんの悲願(ひがん)でもあったんや。  (くじ)水占(みずうら)(あらわ)れる神は、()たして信太(しんた)を選ぶんやろか。  それは信太(しんた)の運命やろか。  運命の川筋(かわすじ)は、一体、どっちに向かって流れていってるんやろか。  聞いてみての、お楽しみやな。  ばたんと部屋(へや)(とびら)()じた。俺は水煙(すいえん)車椅子(くるまいす)()して、エレベーターのあるほうへと、ヴィラ北野の華麗(かれい)廊下(ろうか)をゆっくり行った。  赤い絨毯(じゅうたん)に、(まど)からの日射(ひざ)しが、四角く切り取られた光の(いずみ)のようになって、くっきりと明るく、()らめいていた。  日輪(にちりん)の時間や。神戸(こうべ)はまだ、真昼(まひる)やった。  (とおる)が追ってくるかと、俺は(うし)(がみ)を引かれる思いで、水煙(すいえん)とふたり、下階(かかい)へと()りるエレベーターに()()んだ。  チン、と軽快(けいかい)なベルの音が鳴り、(すべ)るように(とびら)()じた。  それはこれから俺を待ち受けていた戦いの儀式(ぎしき)の、始まりを告げる音やった。 ――第25話 おわり――

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