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26-1 トオル
アキちゃん、ほんまにもう、ええかげんにせえ!
もう、やめてえ。ほんま頼 むわ、俺もうマジでキレそうやしな、マジでキレるで。
俺が本気でキレたらどないなるか、てめえ分かってんのやろな。
神様なんやぞ。むしろ悪魔 か。ただで済 むとは思うなよ!
なんかもう、聞いてえな。
俺って最近、ずうっと怒 ってへんか。内心ずうっと怒 ってんねん。
しゃあないなあアキちゃん、これが血筋 の定 めというやつか、しょうがないしょうがないって、理解 したろうとは思うんやけどな。
そんなん、理解 できるわけあるか!
俺は水煙 様とは違 うんや。海よりも広い心やないで。
精々 、川やから。
水地 亨 は淡水 の蛇 なの。水蛇 さんなんやで。
メソポタミアの、チグリス・ユーフラテス川流域 発祥 やって言うてるやろ。皆 も高校の世界史で習ったやろ。
メソポタミア文明やで。忘 れたか。
寝 とったんか、世界史の時。ちゃんと聞いといてえな。俺の故郷 の話やないか。
しょせん多神教 か。日本人は。
俺の生まれた土地の奴 らも、そうやったわ。神様いっぱい居 るねん。
大体 初めは、ひとつの街に一柱 やったりするんやけどな。
街ていうても、都市国家 やで。村が町になって、都市国家 になるんや。
近所に住んでる奴 らどうしでコミュニティ作って、必要とあれば武装 もするしやな、必要とあれば戦争かてする。
その時、都市を守護 する神様が要 るやんか。せやし最低でも一柱 は居 るんや、その都市の、守護神 が。
ほんで戦争するやんか。そしたら、どっちかが負けてもうて、勝った方の支配 下に入るやろ。そん時、負けたほうの神さんは、どないなるのや?
負けて消滅 する神もいてるわ。きれいさっぱり消えてもうて、元から居 らんかったことになる。
あるいは、勝った方に食われて、吸収合併 される神もいる。
そこまで荒事 にならへん場合はな、勝った方の神に仕 える神になるんや。
例 えば日本では、そういうのを、随神 とか、伴神 と呼 んでいたりする。
わかったわかった、お前のほうが強いということで、序列 をつけて、仲良 うあんじょうやっていくという事やな。
そのほうが人間にとっても都合 がええわ。
味方 につけて、守護 してもらえる神さんなんて、多いに越 したことないやろ。
俺かてずっとナンバー・ワンの最高神 やったわけやないで。どっちか言うたら微妙 かな。
亨 ちゃん、詰 めが甘 いのよ。なんでかいつも、二番か三番なのよ。
メソポタミア時代にもいたよ。エア様より偉 い、マルドゥーク様とかな。
南米時代にも微妙 やったよ。
ケツァルコアトルは確 かに強い神やったけど、キレ度 の点で、双子 の蛇神 やったテスカトリポカに一歩及 ばずの感はあった。
ええ線いってた時代もあったが、なんせ向こうは人間の生 け贄 をバリバリ食いよるねん。
生きたままの生 け贄 の、心臓 抉 (えぐ)って、それを食うねんで?
怖 いよう……。テスカちゃん邪神 すぎなのよ。
そんな怖 い強烈 な神さんに、亨 ちゃん勝てる?
極 めて微妙 よ。
俺こそ万物 の創造主 、至高 の神やてドツキ合う、そんな怖 い兄弟ゲンカには勝たれへんねん。
どっちでもいい、誰 が創造主 でも、みんなが平和に暮 らせれば、そのほうがええやん。
その弱腰 が、俺の弱点 なんやなあ。
せやけど、結果な、海の向こうから、ヤハウェが突然 現 れて、このケンカに水注 した。
俺が万物 の創造主 や、いいや俺が万物 の創造主 や言うてる蛇 に、いきなり横から蹴 り入れてきやがって、お黙 り、俺が万物 の創造主 やと怒鳴 ったわけや。
そして勝手に他人の土地に教会とか建ててもうて、神聖 なる太陽神殿 はぶっ壊 すしやな、ほんま滅茶苦茶 。
そして俺も双子 の兄弟テスカトリポカも、悪魔 ということになったんや。
ほんま、かなわん話やで。もう昔々 の事やけどな。
蛇 って大概 、ヤハウェには酷 い目に遭 わされている。
それってどうも、ヤハウェ様のメソポタミア文明ごろの下積 み時代に、蛇神 を主神 として崇 める連中 に、酷 い目に遭 わされたとか、そういう幼年期 トラウマっぽいねんで。
もともと、あそこらへんの出身やねん、ヤハウェ様は。
あちらさんの聖書 には、洪水 伝説とか出てくるらしいねんけど、それも元を辿 れば、おそらくチグリス・ユーフラテス川流域 の民話 や。
洪水 、大変やったんや、あそこらへんの人らにとっては。
いつ起きるかわからへん、怖 ぁい大災害 で、せっかく作った畑やら家やら、全部あかんようになってまうしな、人々は洪水 を恐 れ、それをなんとかして調伏 しようとしていた。
それで蛇神 なんやで。
荒 ぶる大河 を支配 したいという、切実 な願いの現 れや。
のたうつ大河 を彷彿 とさせる、水蛇 の神を崇 めて、それをお祀 りした訳 やな。
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