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26-2 トオル

 神官たちは、よう頑張(がんば)った。  (あら)ぶる(へび)調伏(ちょうぶく)していた。  月齢(げつれい)をもとにした(こよみ)を作り、星も見たりして、川がいつ氾濫(はんらん)するかを予知(よち)していた。  そして高い(とう)のような神殿(しんでん)(きず)き、そこに非常食量(ひじょうしょくりょう)備蓄(びちく)しておいて、すわ洪水(こうずい)となったら、その高台(たかだい)へ、(たみ)避難(ひなん)させたんや。  昔々の、(へび)(あが)めた異国(いこく)(げき)のお話やな。  ちなみにその、避難所(ひなんじょ)になった高層(こうそう)建築(けんちく)のことを、現地(げんち)の人らは高き峰(ジッグラト)()んでいた。  これがキリスト教の聖書(せいしょ)に出てくる、バベルの(とう)の元ネタや。  あれはシュメール王国の、バビロンという(みやこ)にあった、高き峰(ジッグラト)のことやねん。  ヤハウェを初期に崇拝(すうはい)していた(たみ)は、戦争に負けて捕虜(ほりょ)になり、バビロンに()らえられていたんや。  坊主(ぼうず)(にく)けりゃ袈裟(けさ)までって言うけども、国(やぶ)れて虜囚(りょしゅう)の身になり、(うら)んで見上げた高き峰(ジッグラト)は、悪いもんに見えたんやろな。  畜生(ちくしょう)コノヤロウ、なんやねんあの目障(めざわ)りな高い(とう)は。むかつくわ。悪党(あくとう)どもの建てたもんやし、ぜったい悪いもんや。きっと俺らの神さんが、いつかぶっ(こわ)してくれるやろって、そう思ったんちゃうか。  ヤハウェは結局、その(いの)りに答えたんか。バビロンは(ほろ)びた。  けどそれは、ヤハウェの神威(しんい)ではない。  バビロンを(ほろ)ぼして、ヤハウェの(たみ)解放(かいほう)したんは、ペルシャ人やで。  (やつ)らの神はヤハウェではない。アフラ・マズダーという火の神やった。  この、アフラ・マズダー様は、世界の終わりに(あらわ)れて、善悪(ぜんあく)(さば)く、最後の審判(しんぱん)を行うと信じられていた。  キリスト教にも、最後の審判(しんぱん)ネタはあるけど、これが元ネタちゃうか。なんせヤハウェは、虜囚(りょしゅう)(たみ)守護神(しゅごしん)として、ペルシャ人の()()せてきたバビロンで、(やつ)らの神アフラ・マズダー様と遭遇(そうぐう)しているはずなんや。  実はいろいろパクってんのやな、ヤハウェはな。  俺の教義(きょうぎ)唯一(ゆいいつ)絶対(ぜったい)(ほか)のは全部(うそ)やて、居丈高(いたけだか)なんやけども、その(うら)では、イケてるもんはイケてると、がんがんイタダキしてきた神や。  やり手やで。美味(おい)しいネタはもらっとく。  ネタだけやない。後々(のちのち)(たた)()げの苦労が(みの)り、(ほか)の神やら(たみ)征服(せいふく)し、支配(しはい)するような立場になってからも、その地にイケてる神や精霊(せいれい)がいたら、それかてもらっといたんや。  もしも俺が(へび)でなく、(へび)(ぎら)いのヤハウェと仲良(なかよ)うあんじょうやれてたら、今ごろ(とおる)ちゃんかて、天使やで。  ヤハウェ様の随神(ずいじん)や。  そうやねんで、キリスト教って。一神教やて言うてはるけどな、実はかなりの、神様()()所帯(じょたい)やねんで。  神は俺だけ、あとはみんなヒラやて、ヤハウェが()(もち)焼くもんやから、神やのうて天使とか、聖人(せいじん)てことになってるけどな、結局、神やろ、それは。  天使もな、全裸(マッパ)でケツ丸出しの、赤ちゃんに羽根(はね)生えてますみたいな、ちびっこーいのしか知らん人もいてるやろけど、それは(した)()や。下も下の使(つか)()レベル。  その階層構造(ヒエラルキー)の上の上のほうを見たら、お前らどう考えても神やろみたいな、ものすごいエゲツナイのかていてるんや。  もはや人界(じんかい)には降臨(こうりん)でけへんみたいな、強大なパワーを持った天使どもやで。そんじょそこらのチッポケな神さんに(くら)べたら、よっぽど本格的(ほんかくてき)に神やで。  もしも日本に()ったなら、名のある天使なんて、神の部類(ぶるい)や、神社できてる。  実際(じっさい)、キリスト教の世界にも、特定の天使や聖人(せいじん)を、(たた)えるための教会はある。ヤハウェが主神(しゅしん)で、他はその伴神(とものかみ)やねん。  せやけどな、最高神(しゃちょう)が、神は俺だけ、お前はちがうて言うてはんのや、さようです、ははあ、天使(ヒラ)でいいです、貴方(あなた)こそが唯一無二(ゆいいつむに)の神、至高(しこう)御方(おんかた)て、頭下げとくしかないわ。  それが序列(じょれつ)ってもんや。どんな強くても、社長に(つか)えて働く時には、部下は部下。  いかにチッポケでも、自分で社長やってる独立自営(フリー)の神さん連中(れんちゅう)とは、立場が(ちが)う。  どんな世界でもあるなあ、序列(じょれつ)って。どっちが(えら)いとか、俺がナンバーワンやとか。そんなんばっかりやんか?  俺もアホやで、つくづく()りへん。  せっかくナンバーワンの()につきながら、また()()かれるんか。水煙(すいえん)に!  かつてマルドゥークにええとこ持って行かれたように、テスカトリポカのえげつなさに、してやられたように、そしてアフラ・マズダーに勝たれへんかったように。俺の負け!?  あいつが至高(しこう)御方(おんかた)で、俺はナンバー・ツーか。  その()か、俺は、筆頭(ひっとう)やのうて。  むかつく。あの(その)先生かて、その一(はじめ)やのに。ある意味、(その)先生以下か、俺は。  (くや)しい! (くや)しいてたまらへん!!  アキちゃん俺に、先帰っとけ言うてたで。聞いた?  アキちゃんその部分、カットせずにちゃんと話してたか?  そう言うたんやで、(とおる)()らんし出町(でまち)帰っとけ。生きてたら俺も帰るわ。ほなさいなら言うてたでえ!!

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