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26-3 トオル

 それが仮(かり)にも、永遠(えいえん)の愛を誓(ちか)った配偶者(はいぐうしゃ)に対する、正しい態度(たいど)か。それでもお前は俺を祀(まつ)る覡(げき)か。  怠(なま)けすぎやねん、俺を拝(おが)むのを!  満(み)ち欠(か)けしてんで、あいつの愛は。波(なみ)があるんやで。  海の桃太郎(ももたろう)の子孫(しそん)やからかな。  犬も可愛(かわい)いなあ、雉(きじ)(きじ)も可愛(かわい)い、お猿(さる)さんも可愛(かわい)いなあって、誰(だれ)にでもキビ団子(だんご)くれてやる。  鬼退治(おにたいじ)するんやけど、ついてくるかて誘(さそ)って、行く行く言うたら、どんな奴(やつ)でも連れて行こうとする。そういう男や、アキちゃんは!!  水煙(すいえん)と、犬とラジオ居(お)るから、亨(とおる)は帰れということか。  むかつく。極(きわ)めて胸(むね)がムカムカいたします。  モヤッモヤする。俺も腹(はら)になんか溜(た)まっとる。  腹蔵(ふくぞう)虫や。アキちゃんトイレで吐(は)いてたやろ。なんかな、黒くてモヤモヤした、百足(むかで)みたいなやつや。  あんなもん腹(はら)に飼(こ)うてたんか。引くわ! ドン引き!  何をどんだけ我慢(がまん)したら、あんなん出来(でき)るんや。  というかやな、お前が一体、何をどんだけ我慢(がまん)できたというんや。全然(ぜんぜん)我慢(がまん)なんかできてへんやないか。  水煙(すいえん)ともやったんや。そうに違(ちが)いない。  証拠(しょうこ)はないんやで。ただの勘(かん)やねん。  亨(とおる)ちゃんの第六感(だいろっかん)やないか。神様やからな、第六感(だいろっかん)くらいあるんやで。ただの勘(かん)やけどな。  あいつは昨夜(ゆうべ)、何かの一線(いっせん)を越(こ)えた。水煙(すいえん)と。  それが何かは知らん。どうせ気持ちのええことや。  そうでないなら、何か猛烈(もうれつ)に、萌(も)え萌(も)えするような事や。  もしくはその両方や。アキちゃんが、もうあかんて、メロメロんなるような、辛抱(しんぼう)堪(たま)らん何か。  何をしたんや、水煙(すいえん)は。わからへん。  でも、どうせ、エロに決まっている。  エロやろ? そうやろ? そうやったやろ?  皆(みな)はもう、知ってんのやろ? ちょっとでええし、教えてえな。  ……教えへんのか、こん畜生(ちくしょう)。他(ほか)になにがあるねん。どうせエロ!  俺はな、未(いま)だに知らん。何もかも過(す)ぎた後になっても、アキちゃん結局(けっきょく)、教えてくれへんかった。  だんまりや。水煙(すいえん)由来の、必殺技(ひっさつわざ)。石より硬(かた)い、鉄(てつ)の沈黙(ちんもく)やで。  夫婦(ふうふ)に秘密(ひみつ)なんかあってええの? あかんやろ?  でもな、教えてくれへんねん。  水煙(すいえん)かて当然、黙(だんま)りや。  あいつの黙(だんま)りなんて、今に始まったことやない。言いたいことしか喋(しゃべ)らへん。都合(つごう)悪なったら剣(けん)やしな、太刀(たち)やから、口きかへんて、それで終(しま)いやで。  そんなん理由になるかやで。  俺かて蛇(へび)やん。どこに喋(しゃべ)る蛇(へび)が居(お)るねん。  いや、ここに居(お)るけどやな、俺がそうなんやけども、話ややこしなるから、今はツッコミ入れんといてくれるか。  ずるいんや、水煙(すいえん)兄(にい)さんは。都合(つごう)ええ時だけ可愛(かわい)いふりやねん。  ほんまにあいつが可愛(かわい)いような珠(たま)かよ。秋津(あきつ)家の代々(だいだい)の若当主(わかとうしゅ)を、育ってきたなと思う傍(そば)から、唾(つば)つけてたような淫(みだ)らなお方やで。  アキちゃんのおとんの事かて、蔵(くら)の古道具で遊んでるようなチビの頃(ころ)から、唾(つば)つけとったんやないか。  若(わか)い方がええなあって、舌(した)なめずりして見てたんやんか。  何が違(ちが)うの、俺と。  あの男、美味(うま)そうやなあって、涎(よだれ)出そうになる点で、俺と水煙(すいえん)は何も違(ちが)わへん。同じ外道(げどう)や。  せやのになんで、水煙(すいえん)様は、高貴(こうき)な至高(しこう)の御方(おんかた)で、俺はアホやの。淫(みだ)らな蛇(へび)か?  どこが違(ちが)うんや、俺と水煙(すいえん)。  教えて。マジで。  どこか直して、あるいは、この際(さい)、あざとい演技(えんぎ)でもええわ。それでアキちゃんが亨(とおる)もイケてると、美しいなあ惚(ほ)れそうやって、また思い直してくれるんやったら、なんでもするよ、俺は。  めちゃめちゃ惨(みじ)め。  心の広い振(ふ)りなんて、せえへんかったらよかった。  もともと心の狭(せま)い、蛇(へび)で悪魔(サタン)の水地(みずち)亨(とおる)やのに。アキちゃん好きやで、独占(どくせん)したい。それを他人とシェアなんて、絶対(ぜったい)イヤやが本音(ほんね)やったのに。  ええ格好(かっこう)したんかな、俺も。  神様みたいになりたいって、頑張(がんば)り過(す)ぎちゃった?  そんなことして、馬鹿(ばか)を見たな。お前は神やと信じてる目で俺を見る、アキちゃんの気持ちに、ストレートに答えすぎたか。  純情(じゅんじょう)やってんなあ、俺も。  真面目(まじめ)に神様やってる隙(すき)に、水煙(すいえん)に男をぶんどられてるとは。  アキちゃんはまるで、水煙(すいえん)のこと、愛してるみたいやった。  好きやていう目で見てた。  そんな目して、うっとり虜(とりこ)になったように見つめる相手は、俺やないとあかんのに。それがこの世の法則(ほうそく)のはずやったのに。  なんでそんな目して、水煙(すいえん)を見るんやろ。  俺のこと、もう飽(あ)きたんか。とうとう飽(あ)きたか。  そんな日が、来たらどないしようって、俺は内心(ないしん)ずっと恐(おそ)れていた。  アキちゃんが、この蛇(へび)はもう要(い)らん、飽(あ)きたわって、俺をぽいっと道ばたに捨(す)てていく。そんな悪夢(あくむ)のような瞬間(しゅんかん)が、いつか来るんやないかって、どこかでビクビクしてた。  だって、そういう子なんやろ。  アキちゃんを知っている大学の連中も、そんな話しとったで。  本間は飽(あ)きる時は一瞬(いっしゅん)やてな。  鬼(おに)やねん、亨(とおる)ちゃんもフラれんように気つけやって、皆(みな)言うてたわ。

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