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26-4 トオル

 ケッ。余計(よけい)なお世話(せわ)やで。  アキちゃんにとって俺は、特別なんやから。  フラれるわけないよって、強がってみてもな、その可能性(かのうせい)が、一ミリでもある(かぎ)り、いつも不安で(せつ)ないねん。  アキちゃん俺を(はな)さんといて、ずっと()いてて、毎晩(まいばん)一緒(いっしょ)に、()いて()てくれ。  お願い、ずっと俺だけを、愛しててくれって、(すが)()いて(たの)みたくなる。  そんなことしても、無駄(むだ)やねんけどな。  ()きてもうたら、それまでや。  愛してくれって(たの)まれたかて、それで愛せる(やつ)なんか、()るわけない。  恋愛(れんあい)て、自発的(じはつてき)なもんや。アキちゃんが自発的(じはつてき)に、俺を好きやと思われへんようになってもうたら、それでアウト。もう、どうしようもない。  それで消えてもうてたら、俺はほんまにアホな(へび)さんやなあ。  もっとがっちりアキちゃん(つか)まえておけば良かったよ。  水煙(すいえん)なんか()っといたらよかった。  あいつが死のうが、(のろ)われて苦しもうが、俺には関係なかったはずや。  でも、なんでやろ……。  良かったなあみたいにも思う。  (のろ)いを()いてもらえて良かったなあ。  アキちゃんお前に、好きやて言うてやってたか。それで満足したんか、水煙(すいえん)。お前も(むく)われたか。  なんか、えらい(なご)んだような顔をして、水煙(すいえん)は朝早く、俺をゆさゆさ()()こしてきた。  太刀(たち)やない。人型(ひとがた)(もど)っていた。  うとうとしていた俺は、ビクッとしたよ。  だってベッドに()(さお)宇宙人(うちゅうじん)おるねんで、びっくりするよ。  しかもそれが、(ねむ)りこけてるアキちゃんの(むね)に、のんびり(はだか)でおくつろぎやねんから、ギョッとするよ。  てめえ、いつのまに人型(ひとがた)なってたんや。気がつかんかった。  いつのまに俺は(ねむ)ってもうてたんや。  (あわ)てて、がばっと身を起こし、(らた)めて(なが)めてみたら、すごい光景(こうけい)やった。  ベッドは血の海や。昨夜(ゆうべ)、犬が食うていたアキちゃんの首筋(くびすじ)のあたりから、(まくら)()()()()げて、ものすごい出血(しゅっけつ)やった。  これで死なんのは普通(ふつう)ではない。  アキちゃんはもう、普通(ふつう)やないんや。  実はいっぺん死んで、生き返ってるだけかもしれへんで。  だって人間は、体重の半分くらい、約二リットルの血を失うと、失血死(しっけつし)するようにできている。  ペットボトル四本分やで。おおよそやけども、そんだけ出血すると、人は肉体を維持(いじ)できんようになり、その(たましい)は、冥界(めいかい)の神々のものとなる。  その時のベッドは、ペットボトル四本分以上の血をぶちまけたような有様(ありさま)やった。  狂犬(きょうけん)頸動脈(けいどうみゃく)()みきられたんやからな、それは死ぬ。  アキちゃん実は、ものすご(いた)くて、しんどかったんやないか。  途中(とちゅう)で俺が、催眠(さいみん)かけてやらへんかったら、きっともっと苦しんだやろ。  そんな苦痛(くつう)()えて、犬に食われようというのは、勝呂(すぐろ)瑞希(みずき)への罪滅(つみほろ)ぼしか。それとも、ただの、愛情(あいじょう)か。  犬は満足したようやった。アキちゃん食いたい、そんな(よく)懊悩(おうのう)に、さんざん苦しんできたけども、それがとうとう満たされたんや。  本音(ほんね)言うたら、(ほね)まで食いたい、そんな(せつ)ない気持ちやったやろけど、そこまでやってもうたらなあ。  いくらアキちゃんが不死人(ふしじん)やというても、(よみがえ)れるかどうか(あや)しいしな。やめといてくれて、正解(せいかい)やった。  とにかく、たらふく血を()うた。それだけやない、先輩(せんぱい)好きやて、ありったけ(かじ)()いてた。そうやって(あさ)ましく血を(すす)り、(つか)れて(ねむ)ってもうたわけ。  ()きついたら殺すって言うといたのに、がっちりアキちゃんに()きついて、おねんねや。  勘弁(かんべん)してくれやで、ほんまにもう。俺が()きつくとこ無くなるやないか。  イヤやねん、なんで犬とアキちゃんの(むね)をシェアせなあかんねん。  ていうか、それを言うなら水煙(すいえん)もやしな。  犬と水煙(すいえん)()っこされてるとこに、俺も()きつけいうんか?  侮辱(ぶじょく)だわ。(とおる)ちゃん、そんなんせえへんから。プライドあるのよ、これでも。  今夜くらいは、(ゆず)ってやるわ。もう一(ばん)あるんやし。  明日(あした)はてめえら出ていけよ。俺はアキちゃんと、ふたりっきりで()るしな、がっつりやるで。最低三回くらいはやる。  だって翌朝(よくあさ)にはもう、(なまず)様やら(りゅう)やらが(あらわ)れて、下手(へた)ぶっこいたら、熱き血潮(ちしお)のある身では、もう永遠(えいえん)()()うことのない()()に、あうかもしれへんのや。  せやしや、やり(おさ)め。  いっぱいやるでえ。(とおる)ちゃん、もうあかんてなるまで、アキちゃんにご奉仕(ほうし)させるから。  俺が気を失うまでやってもらうで。  いっぱい愛して、アキちゃん。死ぬほど()いて。  いやあん、ほんまに死んだらどないしよう! 平気やで、(とおる)ちゃん、:不死(アンデッド)(けい)やから! 死んでも平気!  めちゃめちゃやってもかまへんのよ! 情熱的(じょうねつてき)にお願いします!!  ……って、そんなプランやったんやけどな。  …………徹夜(てつや)?  不寝番(ふしんばん)やて?  なに、それ? ()ないの、今夜?  えっ、じゃあ……ということは、俺とアキちゃんの、夫婦(ふうふ)水入(みずい)らずのめくるめく夜はというと……えー……と。……どないなる予定?  無しやで。

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