579 / 928
26-5 トオル
な・し。
な・し?
な・し……?
って、どないなっとんねん!
ふっざけんな。なんでアキちゃんの今生 のラスト・エッチのお相手 が、水煙 様やねん。
俺やろ普通 ! ヒロインやねんから!
亨 ちゃんがやるとこやないんですか!?
おっかしい……なに風呂 入っとんねん、この青い人。
なんで可哀想 な俺が下僕 のごとく、この包丁 を風呂 に入れてやらなあかんねん。
俺からラスト・エッチ権 を奪 ったらしい、この、えげつない鬼 にご奉仕 して、風呂 までお姫様 抱 っこしてやらなあかん、どんな理由が俺にある?
そんなもんあるわけあるかい。行きかがり上や。
あたかも当然のごとくに、水煙 様が、ゆさゆさ俺をお起こし遊 ばし、亨 、亨 、風呂 入りたいから湯を張 ってくれ、温 いほうがええなあ、と言わはりましたもんで、ええ、なんで風呂 、と寝 ぼけつつ、うっかりご奉仕 しちゃったのよ。
見たとこ、水煙 の体には、呪 われてるような形跡 はなかった。
綺麗 さっぱり、ぷにぷにのお肌 やった。
青いから、特に何とも思わへんけど、肌色 やったら絶対 エロい。
確 かにケツも華奢 で可愛 い。
アキちゃん好 みか……。
しかし、勿論 やけども、その時点では何かこう、何かしちゃったような形跡 は、なんもなかったんやで。
汗 一つかいてるわけでなし。
ただ、水棲 で、水に浸 かってると和 むから、風呂 入りたいだけみたいやった。
ほんなら風呂 ぐらい入れたろかと思うたんや。
そして寝 こけてる犬とアキちゃんをベッドに残して、水煙 を横抱 きしてやな、風呂 に連 れ込 もうとしていたら、部屋 のドアがバーンと開いて、ものすご怒 ってはる怜司 兄さんがご登場やった。
ざけんな先生、誰 か貸 せと、妙 なる美声 で怒鳴 り込 んできはってな、兄 さん、音にびっくりしたんか、反射的 に俺に抱 きついてた水煙 と、それを抱 っこしている俺を、愕然 みたいに見てた。
ほんまに十五秒くらい、お口開 いてた。ものすご気まずい静止 画像 やった。
「なにしてんの、亨 ちゃん。水煙 と、やるの?」
愕然 のまま、怜司 兄 さんはマジとしか思えない口調で訊 ねてきて、ものすご水煙 のケツをガン見していた。
若干 、戸惑 ってはるようやった。
これ美味 しいのかな、みたいな、そんな戸惑 い方やけどな。
俺はふるふる首を振 って、ちがいますとお答えしていた。
そんなわけない、俺は怜司 兄さんとは違 うから。
下ではするけど、上ではいい仕事せえへんのやで。
ツッコミ入れへん。俺は基本 、ボケやから。
それに恋敵 とやる趣味 もない。宇宙人 ともや。
お前もなんとか言え、水煙 。むかつく誤解 やろ。否定 しろ。
しかし水煙 は、朧 を見るのも嫌 なんか、知らん顔のお澄 ましで、俺に抱 きついていた。
お高いような神さんやけども、運ばれるのは慣 れてるらしい。
誰 かに抱 きかかえられるのを、恥 やと思うてない。駕籠 (かご)か輿 (こし)にでも、乗ってるようなつもりらしいで。
「早 う風呂 行け、水地 亨 。目障 りなモンが来た」
つんと澄 まして愛想 ない、水煙 様の全身を、怜司 兄さんは眉間 に皺寄 せて、しげしげと見て言うた。
「お前、ちゃんと足もケツもあるんやなあ。あの、下半分が蛇 みたいなのと、どないしてやるんかと、実は悩 んでたんや」
余計 なお世話や。怜司 兄さん、本気で悩 んでたみたいな顔で言うてた。
「でも、ケツはあっても穴 無しなんやで」
もっと悩 ませたろと思って、俺は教えてやった。
それには水煙 が、ぎょっとしていた。
「余計 なこと言わんでええねん、このアホが!」
水煙 が俺の耳元 に怒鳴 っていた。
キイキイうるさいような、水中対応 の超音波 みたいなのまで、ぎゃんぎゃん怒鳴 っていた。
蛇 やし聞こえる、俺かて耳ええんやから、そんなに怒鳴 らんといてくれ。
「えっ、マジで無いの? ちょっと見せてみろ」
知的 好奇心 かなあ。そう言うて、ずかずか近寄 ってきた怜司 兄さんが、いきなりケツに触 ったもんやから、水煙 はキャアアアアアっ、て、イルカみたいな悲鳴 を上げてた。
怜司 兄さん、びっくりしていた。
びっくりしたで俺も。まさか水煙 が、そんな悲鳴 上げられるやなんて。
いつもお高くとまってんのに、まるで襲 われた女みたいやないか。
いやん。ちょっと可愛 いな、お前。
そんなん俺に思わせんといてくれ。変な気起きたらどないすんねんな。
「触 るな、阿呆 っ。何しに来たんや、この淫売 がっ」
蹴飛 ばせるもんなら蹴 りたいと、そんな目付きで、水煙 は怜司 兄さんを睨 み付 けていた。
でも若干 、涙目 やった。
なんで泣いてんのや。何を泣くようなことがあったんや。
怜司 兄さんはそれに睨 まれ、ますます愕然 みたいな顔をして、水煙 に触 れた手を、宙 に浮 かせていた。
「なんや、このケツ。ぷにっぷにやないか、気持ちよすぎ!」
真面目 に叫 ぶような話やなさすぎ……。
ともだちにシェアしよう!