580 / 928

26-6 トオル

 そうなん? 水煙(すいえん)のケツって、気持ちええんか。  そんなん俺、触(さわ)ったことないもん。  姫(ひめ)抱(だ)っこするとき、太腿(ふともも)までは触(さわ)るけど、ケツまでは触(さわ)らへんもん。  確(たし)かに太腿(ふともも)もむにゅっとしてて気持ちええねんけど、ケツもそうなんか。  どんなんやねん。触(さわ)りたい衝動(しょうどう)に駆(か)られるから、言わんといてくれ。 「一発やろか、水煙(すいえん)? 穴(あな)なしでもいい、何かテクい方法を、考えるから」  変な気起きたんか、怜司(れいじ)兄さん。  ほんましょうがない人やあんたは。節操(せっそう)がない。  さすがは蛇(へび)の眷属(けんぞく)や。 「考えんでええねん! 何か用があって来たんやないのか! アキちゃんやったら、まだ寝(ね)てる。出直(でなお)せ、朧(おぼろ)」  顔真(ま)っ白(そろ)なって、水煙(すいえん)様は俺の首をぐいぐい絞(し)めてた。  力あったら首ねじ切られてる。そんな気のする、八(や)つ当(あ)たりめいた抱(だ)きつかれ感やった。微妙(びみょう)に苦しいよう。 「誰(だれ)でもええんやな、怜司(れいじ)兄さん。てめえの仇(かたき)の青色(あおいろ)宇宙人(うちゅうじん)でもええんや」  感嘆(かんたん)して、俺は褒(ほ)めた。褒(ほ)めてるんやで。  怜司(れいじ)兄さんは、それに力強く頷(うなず)いてくれた。 「誰(だれ)でもいい。ケツ可愛(かわい)ければ、とりあえず入れてみる、それが宇宙(うちゅう)の法則(ほうそく)や。ラブ&ピースやで亨(とおる)ちゃん。それで全宇宙(ぜんうちゅう)が平和になれる」  どこまで本気かわからへん。  どこまでも本気やったら、どないしよ。  亨(とおる)ちゃん、思わず上(うわ)ずった笑い声やった。  だって、どないすんねんな。 「全宇宙(ぜんうちゅう)の平和もええけど、とりあえずは犬にしといてくれへんか。水煙(すいえん)を怜司(れいじ)兄さんにレイプされたら、うちのアキちゃん発狂(はっきょう)すると思うから、犬で我慢(がまん)しといて。あいつもケツは可愛(かわい)い」  俺は説得(せっとく)した。  怜司(れいじ)兄さんは、そうやなあって、素直(すなお)に頷(うなず)いてくれてた。  話のわかる人や。 「そういやワンワン、どないなったんや。腹(はら)減(へ)って死んだか、発狂(はっきょう)してへんか?」 「してへんよ。昨夜、アキちゃんバリバリ食うて、血吸(す)うて、すやすやネンネしとったわ。もう元気なってんのとちゃうか」  ぷんぷんしてる水煙(すいえん)に、首を絞(し)められながら、俺はトホホ顔(がお)で答えてた。 「ああ、そうなんか。良かったなあ、ワンワンも餌(えさ)もらえて。本間(ほんま)先生も、我慢(がまん)プレイにもほどがある。それも心配しとったんや」  そう言うて、にこにこしている怜司(れいじ)兄さんは、ほんまにホッとしたようやった。  水煙(すいえん)・龍神様(りゅうじんさま)モードと、どないしてやるか悩(なや)むついでに、それも心配してくれてたんか、怜司(れいじ)兄さん。  案外(あんがい)、優(やさ)しいんやなあ。  エロと、おとん大明神(だいみょうじん)以外のことも、考えてる時あるんや。 「ほなワンワン、もう大丈夫(だいじょうぶ)なんやろ。ちょっと俺に貸(か)して。仕事手伝(てつだ)わせたいんや」  俺に犬を貸(か)すとか貸(か)さんとかいう、許可(きょか)を与(あた)える権利(けんり)があるんか。  怜司(れいじ)兄さんは俺に訊(き)いていたけども、お答えのしようがなかった。 「貸(か)せ言われてもなあ……アキちゃん寝(ね)てるし、わからへん」 「何言うてんの。お前が筆頭(ひっとう)の式(しき)やないんか?」  怪訝(けげん)な顔して、怜司(れいじ)兄さんは俺を見下ろした。  俺が筆頭(ひっとう)の式(しき)ならば、勝手(かって)にワンワン貸(か)してええんや。知らんかった。そんな権力(けんりょく)を手にできるとは。 「こいつは解放(かいほう)されたんや。もう秋津(あきつ)の式(しき)ではない」  俺に抱(だ)きついたまま、水煙(すいえん)が偉(えら)そうにぶつぶつと口を挟(はさ)んだ。  それでも朧(おぼろ)に背(せ)を向けて、目も合わせとうないという態度(たいど)ではいた。 「なんや。そんなら、まだまだ、水煙(すいえん)様は健在(けんざい)か」  チッとあからさまな舌打(したう)ちをして、朧(おぼろ)は伏(ふ)し目(め)になっていた。  淡(あわ)い鳶色(とびいろ)の目が、じいっと水煙(すいえん)の青い背(せ)を、見つめていた。 「俺はワンワンより上? 下? どっちやねん、水煙(すいえん)様」 「……お前のほうが上でいい。あの犬は、経験(けいけん)の面でお前に劣(おと)る。いろいろ教えてやれ」 「いろいろ教えてやるわ」  ものすご含(ふく)みのある艶(つや)めいた口調(くちょう)で言うて、朧(おぼろ)はにやにやしていた。 「ほな、序列(じょれつ)的には、水煙(すいえん)様、俺、可愛(かわい)いワンワンということで」 「そういうことや。今後もし、式(しき)が増(ふ)えたら、お前が面倒(めんどう)をみろ」  俺にしがみついたまま、水煙(すいえん)様は朧(おぼろ)に指図(さしず)した。  そうするのが当たり前みたいな、慣(な)れた口調やった。  そういえば怜司(れいじ)兄さんは、昔も一時期、秋津(あきつ)の式神(しきがみ)やったわけやから、実はほんまに慣(な)れてんのやろ。  蔦子(つたこ)さんの式(しき)としても、はっきりせえへんなりに、喚(よ)ばれたら出向(でむ)いていく程度(ていど)には、仕(つか)えていたんやしな。  フリーダムみたいに見えて、これでも式神(しきがみ)キャリアのある人なんやで。  でも秋津(あきつ)家では合わず、水煙(すいえん)様に嫌(きら)われて、追い出されたんやろ。  見たとこ、確(たし)かにラブラブの二人(ふたり)には見えへんけどもな、でも、そう険悪(けんあく)にも見えへん。  オシゴトですからって、割(わ)り切(き)って付き合うぐらいなら、やっていけそうやけどなあ。  なんせ、もう、水煙(すいえん)様はおとんユーザーではない。  同じ男を取り合って、メラメラ燃(も)える必要は、もうないんやしな。 「俺はお前がランク落ちして、ヨソモンの蛇(へび)にこき使われるところが見られんのかと、ちょっと期待してたんやけどなあ」

ともだちにシェアしよう!