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26-7 トオル

 水煙(すいえん)がどんな顔してんのか、見たいみたいに、(おぼろ)様は(わき)から(のぞ)いて、じろじろ冷やかす目になった。  それにも水煙(すいえん)は、フンて感じで()を向けていたけど、ええかげんにしてくれやった。  ()っこさせられてるほうの身にもなれ。いくら軽いいうても、俺はお前の乗り物やないんや。さっさと()りろ。  アキちゃんと(ちご)て、俺はお前をずうっと()っこしてたい(わけ)やないんやぞ。 「それはそれは、ご期待(きたい)どおりに行かずで、()まんことやったなあ」  ツンツン答え、水煙(すいえん)(はよ)風呂(ふろ)に行けというふうに、ぐいぐい俺の首を()()っていた。  馬か、俺は。 「(とおる)ちゃん……油断(ゆだん)しとったらあかんで。昔聞いた(かぎ)りでは、こいつのケツにはなあ、()みつきなるような機能(きのう)があるみたいなんやで。ほんまに(あな)ないの? どないしてやるんや……」  セクシャル・ハラスメントやで、(おぼろ)様。ひとつ屋根の下に()んだら、水煙(すいえん)は、怜司(れいじ)兄さんにえげつない(いや)がらせされるでって、信太(しんた)が笑って言うていたけど、ほんまやな。ほんまやった。  俺が思ってたようなのとは(ちが)うけど、(たし)かに(いや)がらせといえば、そうかもしれへん。水煙(すいえん)(いや)がってたから。  怜司(れいじ)兄さん、どうしても気になるんかな。また、おもむろに、水煙(すいえん)様のケツを(つか)んでいた。  うわあ、ええのか。たぶん神聖(しんせい)なケツやのに。  アキちゃん見てたら、気絶(きぜつ)する。 「あ……阿呆(あほ)ッ。(さわ)るな言うてるやろ!」  ちょっと(ふる)えちゃうみたいな声で言い、水煙(すいえん)様は全身ビクッとしてた。  どこ(さわ)ったんや、怜司(れいじ)兄さん。  やめてえ、俺が()っこしてる時に、いきなりそんな行為(こうい)(およ)ばんといてくれ。俺まで参加してるっぽくなるやん。 「助けろ、水地(みずち)(とおる)」  ()げろって俺に命令してきて、水煙(すいえん)はなんかを(こら)えてるような顔してた。  ははぁん、なんやろ。(とおる)ちゃん、わっからへん。 「(とおる)ちゃんは俺の味方(みかた)やろ? 助けてやる義理(ぎり)なんか、何もないよな?」  にやにや俺ごと(いだ)いてきて、青い宇宙人(うちゅうじん)をサンドイッチにしている(おぼろ)様は、耳元に(ささや)く声で、それを(たし)かめた。  うん、まあ、無いな。(たし)かに無いけどな。  でも俺、こういう趣味(しゅみ)もないな。  宇宙人(うちゅうじん)に、悪戯(いたずら)しちゃう趣味(しゅみ)はない。 「気持ちいい? ほんまに(あな)無いな。どなしてやったんや、暁彦(あきひこ)様と。()げても無駄(むだ)やで、俺は位相(いそう)(わた)れる神や。気に食わん(やつ)には(さわ)らせへんて、そういう(わけ)にはいかんのやで」  ねちっこいなあ、(おぼろ)様。ごそごそしてる。  水煙(すいえん)ちょっと、太腿(ふともも)が、わなわなしてる。  なんかちょっと、変な気分になってくる。  エロいなあ、(おぼろ)様。こんなんして(せま)られたら、(たし)かにアキちゃんみたいな初心(うぶ)な(やつ)なら、いちころか。 「やめてくれ……お前なんか(きら)いや」  (こら)えたような小声で、水煙(すいえん)はそう言うていた。  いつも深遠(しんえん)な黒い目が、ちょっと(うる)んで見えてたわ。  (えら)そうに言うてみたところで、水煙(すいえん)は、足腰(あしこし)()()えの神。自分では()げられへんのや。  相手が自分の霊威(れいい)(おそ)れないんやったら、されるがままで、どうしようもない。  (あわ)れやなあ。助けへんかった俺が悪いんか、水煙(すいえん)兄さん、(おぼろ)様に、さんざん()ずかしい目に()わされちゃったみたい。 「俺、いっぺんお前のこと、肥溜(こえだ)めに()てたったことあったよなあ。ごめんなあ。こんな可愛(かわい)いケツなんやて知ってたら、そんな(ひど)いことしいひんかったのに。もっと(うれ)しく泣けそうなこと、いろいろしてやったのになあ。ええ気味(きみ)やろなあ、お前がひいひい(あえ)ぐの見られたら」  青いほっぺに、ちゅう、と音するキスをして、(おぼろ)様はおイタをやめた。  にやにやしていた。楽しかったらしい。 「感度(かんど)ええで? ツボはある。変やなあ、なんで(あな)はないんやろ」  しみじみ不思議(ふしぎ)そうに言うて、怜司(れいじ)兄さんは興味津々(きょうみしんしん)みたいやった。  宇宙人(うちゅうじん)、好きなん? ラジオUFO特集(とうくしゅう)か。  水煙(すいえん)は、よっぽど屈辱(くつじょく)やったんか、(おこ)った顔して、わなわな来ていた。  もう怒鳴(どな)る地点を(とお)()ぎてんのか、ぐっと(こら)えて、口もきかへん。  えー。ちょっと、可哀想(かわいそう)やったかな。()がしてやればよかった?  いやいや、つい静観(せいかん)してもうた。なんか見たくて。えへっ。 「今度、三人でしよか。(とおる)ちゃんのも()めたるよ。気持ちええでえ、どんなのが好き?」  耳に息のかかる近さで、怜司(れいじ)兄さんに(ささや)かれちゃって、ちょっぴりモジモジしちゃったよ。  えー、どんなんが好きかなあ……って、前向きに検討(けんとう)してる場合やないな。  俺はぶるぶる首を()ってた。  拒否(きょひ)したというより、(おのれ)のエロエロ煩悩(ぼんのう)()(はら)ってただけ。 「せ、せえへん……やめといて。チーム秋津(あきつ)健全(けんぜん)やから!」 「そうなん? つまらんなあ……気持ちええのに。本間(ほんま)先生より俺を愛しちゃうくらいやで?」  にこにこ悪気(わるぎ)なさそうに言う怜司(れいじ)兄さんは、本気みたいやった。  ええよ言うたら、本気でいっとくっぽい。  俺は(あせ)って、ますます首ふるふるしてた。

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