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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-10 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-10 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
584 / 928
26-10 トオル
一応
(
いちおう
)
、心配はしてる。
一応
(
いちおう
)
は
仲間
(
なかま
)
やという
口調
(
くちょう
)
で、
水煙
(
すいえん
)
は
横目
(
よこめ
)
にちらりと
朧
(
おぼろ
)
を見ていた。 そこはそれ、男を
巡
(
めぐ
)
ってドツキ合おうが、ケツに
悪戯
(
いたずら
)
されようが、チーム
秋津
(
あきつ
)
のメンバーやから。同じ
釜
(
かま
)
の
飯
(
めし
)
を食う
仲間
(
なかま
)
や。 この場合、
飯
(
めし
)
ってアキちゃんやけどな。 「俺もついてくよ。
本間
(
ほんま
)
先生にやないけど、
霊振会
(
れいしんかい
)
に
頼
(
たの
)
まれてる仕事があるから」 「どんな仕事や。こっちにも
段取
(
だんど
)
りがある。
秋津
(
あきつ
)
に
戻
(
もど
)
ったというなら、ちゃんと手はずは
連絡
(
れんらく
)
していけ」 つんけん言うてる
水煙
(
すいえん
)
様にも、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは気を悪くしたふうもなく、そうやなあと、うんうん
頷
(
うなず
)
いていた。 「
鯰
(
なまず
)
がどこへ出るやらわからへん。あたりはつけてるけども、
結局
(
けっきょく
)
は、その時が来るまで分からんのやしな。
祭壇
(
さいだん
)
を
築
(
きず
)
くのは、
実際
(
じっさい
)
に
鯰
(
なまず
)
が
現
(
あらわ
)
れてからという計画なのや。俺はここからその場所までの、
移動
(
いどう
)
用の
位相
(
いそう
)
を
探
(
さが
)
して、最短コースを
造
(
つく
)
ってやる予定。いわばバイパス工事やな」 「
工兵
(
こうへい
)
か、お前は」 「
通信兵
(
つうしんへい
)
もするよ。
霊振会
(
れいしんかい
)
の
皆
(
みな
)
さんどうしの
連絡
(
れんらく
)
から、
一般人
(
いっぱんじん
)
の
皆
(
みな
)
さんの
避難
(
ひなん
)
誘導
(
ゆうどう
)
まで。
八面六臂
(
はちめんろっぴ
)
のご
活躍
(
かつやく
)
よ。
忙
(
いそが
)
しいわあ。
茂
(
しげる
)
ちゃんも
式使
(
しきづか
)
い
荒
(
あら
)
い」 モク
中
(
ちゅう
)
やねんなあ。ちょっと話す間も
我慢
(
がまん
)
でけへんのか、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは
煙草
(
たばこ
)
を取りだし、
銜
(
くわ
)
えたそれに、
蜻蛉
(
とんぼ
)
の
飾
(
かざ
)
りのついてるライターで、火を入れた。
独特
(
どくとく
)
のお
香
(
こう
)
みたいな
匂
(
にお
)
いが
香
(
かお
)
って、
水煙
(
すいえん
)
はその
煙
(
けむり
)
と、それ
越
(
ご
)
しに見える
朧
(
おぼろ
)
の手が、いかにも大事そうにライターを
仕舞
(
しま
)
うのを、じっと
眺
(
なが
)
めていた。 「気をつけろ。
茂
(
しげる
)
は昔からお前が
欲
(
ほ
)
しいんや。あいつはアキちゃんの持ってるもんは何でも
欲
(
ほ
)
しがる。ごうつくな、
商人
(
あきんど
)
の子やねんからな。お
登与
(
とよ
)
を
寄越
(
よこ
)
せというたのも、あれがアキちゃんの妹で、
想
(
おも
)
い
合
(
お
)
うとると
察
(
さっ
)
したからやないか」 「そうかもしれへんな。
複雑
(
ふくざつ
)
なとこやで。
憎
(
にく
)
いあん
畜生
(
ちくしょう
)
やけど、
茂
(
しげる
)
ちゃんは
暁彦
(
あきひこ
)
様とはけっこう、
仲
(
なか
)
は良かった。なんだかんだで
連
(
つる
)
んでいたし、
戦
(
いくさ
)
がなければ、
茂
(
しげる
)
ちゃんも
案外
(
あんがい
)
あのままずっと
秋津
(
あきつ
)
に
居
(
い
)
ついて、ええコンビになっとったんやないか。チーム
秋津
(
あきつ
)
で
鬼退治
(
おにたいじ
)
。
暇
(
ひま
)
な時には
絵描
(
えか
)
いて、
祇園
(
ぎおん
)
で遊んで。ええ時代もあったやんか」 それが
懐
(
なつ
)
かしいみたいに言うて、
朧
(
おぼろ
)
は
伏
(
ふ
)
し
目
(
め
)
になって
床
(
ゆか
)
を見ていた。 きっと
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、そのまま時が止まってくれてたら、よかったのになあと思うてんのやろ。 「昔の話や。
茂
(
しげる
)
もえらい
爺
(
じじい
)
になってもうて。アキちゃん見てたらトシ
忘
(
わす
)
れるけども、それももう、
半世紀
(
はんせいき
)
以上前のことやで、
朧
(
おぼろ
)
。もはや今さらや」 「あれ。
暁彦
(
あきひこ
)
様って、
爺
(
じじい
)
やないのか」 あっさり言うてる
水煙
(
すいえん
)
の話に、
朧
(
おぼろ
)
はびっくりしたふうに、目を
瞬
(
またた
)
いていた。 おとん
大明神
(
だいみょうじん
)
が
人並
(
ひとな
)
みに
老
(
ふ
)
けてると思うてたらしい。 「なんも変わっていない。いっとき少々
老
(
ふ
)
けたけど、
精々
(
せいぜい
)
四十路
(
よそじ
)
くらいかな。俺は、あれはあれで、ええ男ぶりやと思うてたけど、本人はくよくよしていたな。
若
(
わか
)
いままがよかったとかで」 なんでや、おとん。ええトシして、なんでそんな
若作
(
わかづく
)
りなんや。
秋津
(
あきつ
)
のおかんといい、なんでこの
血筋
(
ちすじ
)
のやつらは、トシとるのを
怠
(
なま
)
けるやつらばっかかりなんや。 「でも、その後ジュニアが
若
(
わか
)
い
頃
(
ころ
)
のアキちゃんの絵を
描
(
か
)
いて、それを足がかりに
若返
(
わかがえ
)
りを
果
(
は
)
たしたんで、にこにこしていた。えらい
若作
(
わかづく
)
りやで。実の
息子
(
むすこ
)
と同い年のようや」 「ほんなら
若
(
わか
)
いの?」 「
出征
(
しゅっせい
)
した
頃
(
ころ
)
のままやな」
水煙
(
すいえん
)
が、それを教えてやると、なんでか
怜司
(
れいじ
)
兄さん、ちょっとトキメいちゃったみたいやった。目が泳いでた。
胸
(
むね
)
がドキドキしちゃったみたいやった。
乙女
(
おとめ
)
か、
兄
(
にい
)
さん。おとん
若
(
わか
)
いくらいでソワソワせんといて。
水煙
(
すいえん
)
のケツ
触
(
さわ
)
ってたくせに。 「変わってないんや……」 「それが、お前になんの関係があるんや」 むっとしたみたいに、
水煙
(
すいえん
)
は冷たい声で言い、
朧
(
おぼろ
)
様のトキメキをぶち
壊
(
こわ
)
していた。
焼
(
や
)
き
餅
(
もち
)
か、
水煙
(
すいえん
)
。
二股
(
ふたまた
)
かけるのやめへんか。今はジュニアやろ。 それとも、おとん
争奪戦
(
そうだつせん
)
にカムバックする気になってくれたんか。 それでもいいよ、俺は。
大歓迎
(
だいかんげい
)
よ。 「関係、ないけど……別にええやん。ちょっと思い出すくらい」 じとっと言うてる
朧
(
おぼろ
)
様に、
水煙
(
すいえん
)
はものすご、ふんっ、て言うてた。 「別にええよ。思い出すだけとは言わず、よりを
戻
(
もど
)
したければ、
戻
(
もど
)
せばいい。
保証
(
ほしょう
)
はせんけどな、あの子がお前をまだ相手にするかどうか、そんな
脈
(
みゃく
)
があるか、俺にはさっぱりそうは思えへんけどな。お前にも当たって
砕
(
くだ
)
ける
権利
(
けんり
)
くらいはあるやろな」 「
砕
(
くだ
)
けんの!? ぎょ、
玉砕
(
ぎょくさい
)
か、俺は……」 本気で受け取ってんのか、
朧
(
おぼろ
)
様、
顔面蒼白
(
がんめんそうはく
)
やったで。 マジにするだけアホやのに。
水煙
(
すいえん
)
、イケズで言うてるだけやのに。 それも分からんくらい必死なんか。おとん関連では。 おもろいなあ、
怜司
(
れいじ
)
兄さん。
可愛
(
かわい
)
いとこあるやん。
水煙
(
すいえん
)
のケツ
触
(
さわ
)
ってたくせに。
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椎堂かおる
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