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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-17 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-17 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-17 トオル
忘
(
わす
)
れよう、そんなん俺の
被害
(
ひがい
)
妄想
(
もうそう
)
や。 アキちゃんが俺を
捨
(
す
)
てるわけない。 アキちゃんは俺のことが好きやねん。世界一好きやねん。ずっと
永遠
(
えいえん
)
に俺のツレやて、
誓
(
ちか
)
ってくれた。
結婚
(
けっこん
)
までしたんやで。 せやし、
結局
(
けっきょく
)
最後はいつだって、俺んとこに
戻
(
もど
)
ってくる。
戻
(
もど
)
ってきてくれるはずや。 それを待てばいい。たとえそれが、何百年、何千年の後でも。俺は待つ。ずっとお前を信じて、待ってるから。
戻
(
もど
)
ってきてアキちゃん。もういっぺん俺を、強く
抱
(
だ
)
きしめて。お前が好きやって、
甘
(
あま
)
く
囁
(
ささや
)
いて。
照
(
て
)
れ
屋
(
や
)
のお前がやれるぐらいの、ほんのり
程度
(
ていど
)
の
淡
(
あわ
)
い
甘
(
あま
)
さでもいい。
亨
(
とおる
)
、好きやって、また
囁
(
ささや
)
いて。 その、ひとかけらの
甘
(
あま
)
さで、俺は幸せになれるねん。それで千年生きられる。 そこに本当の、お前の深い、
心底
(
しんそこ
)
からの愛があれば。 しかしアキちゃんは、俺が好きとは
囁
(
ささや
)
かへんかった。
抱
(
だ
)
きしめもせえへんかった。 さっさと行けと
水煙
(
すいえん
)
様に
急
(
せ
)
かされて、とっとと出かける
支度
(
したく
)
して、
神事
(
しんじ
)
があるとかいう
会議室
(
かいぎしつ
)
に、俺のことなんかほったらかしで、
車椅子
(
くるまいす
)
押
(
お
)
して出ていったよ。 ほんまにもうブッコロス。 俺の
切
(
せつ
)
ない
胸
(
むね
)
のうちを、お前はほんまに、はっきりくっきり言うてやらな、意味わからへんのやな?
鈍
(
にぶ
)
い。というかアホ。というか
鬼
(
おに
)
。
悪魔
(
あくま
)
。くそったれ。
憎
(
にく
)
いアキちゃん、
憎
(
にく
)
いあん
畜生
(
ちくしょう
)
やで。 ずうっと
傍
(
そば
)
にいたいのに、俺だけのもんでは、いてくれへん。
後
(
あと
)
を追いかけまわして、なあなあアキちゃん、
一緒
(
いっしょ
)
にいてえなって、オネダリせえへんかったら、
一緒
(
いっしょ
)
にも
居
(
い
)
られへん。そんな
憎
(
にく
)
い男やで。 俺はこれを
永遠
(
えいえん
)
に、続けんのかな。トホホ。トホホですよ、ほんまに。 それでもしゃあないから、俺はアキちゃんを追っかけることにして、とっとと
身支度
(
みじたく
)
しまして、とっとと
適当
(
てきとう
)
な服着といた。 この
際
(
さい
)
、
格好
(
かっこう
)
なんか
構
(
かま
)
ってられるかやで。
会議室
(
かいぎしつ
)
はヴィラ
北野
(
きたの
)
の一階や。 前に
餅
(
もち
)
みたいな
神父
(
しんぷ
)
と
初顔合
(
はつかおあ
)
わせの
会合
(
かいごう
)
やったのが、その
部屋
(
へや
)
やったはず。 俺も場所は知ってるわ。
部屋
(
へや
)
についてる
館内
(
かんない
)
マップに
載
(
の
)
ってたもん。 その場所を、どこやったっけと頭ん中で思い出しつつ、
亨
(
とおる
)
ちゃん思わず、走ってもうたよ。 あかんあかん、
美青年
(
びせいねん
)
は
必死
(
ひっし
)
こいて走ったりしたらあかんのに! いつも
優雅
(
ゆうが
)
に歩いとかなあかんのにさ。めっちゃ走ってたよ。 だって俺がおらん
間
(
ま
)
に、重要イベント
終了
(
しゅうりょう
)
してたら、
嫌
(
いや
)
やん? 俺がヒロインなんやで。
水煙
(
すいえん
)
ちゃうで? 俺です、俺。
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
がこの物語の、ヒロインなんやんか。 そんな重要キャラ
抜
(
ぬ
)
きで、ストーリー進めてもろたら、
困
(
こま
)
るんですよ。 ほんまにもう、よう言わんわ。 俺が
会議室
(
かいぎしつ
)
に
到着
(
とうちゃく
)
した
頃
(
ころ
)
には、うっかりストーリー進みかけてた。ギリギリセーフやった。
会議室
(
かいぎしつ
)
の戸を開くと、そこには、でかい
洗面器
(
せんめんき
)
をじっと見つめている、
霊振会
(
れいしんかい
)
の人らが、ぞろぞろ何人かと、アキちゃんもいた。
水煙
(
すいえん
)
も。
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
と
狐
(
きつね
)
もいた。 そして
朧
(
おぼろ
)
と
虎
(
とら
)
もいた。
蔦子
(
つたこ
)
さんも。
皆
(
みんな
)
、えらい
真剣
(
しんけん
)
な顔して、
青銅
(
せいどう
)
でできてるらしい、古びたデカい
盥
(
たらい
)
みたいなもんを、じっと見下ろしていた。 中国からの
渡来
(
とらい
)
モンかな。
盥
(
たらい
)
の
側面
(
そくめん
)
にある古い
文様
(
もんよう
)
は、のたうつ
龍
(
りゅう
)
か、水の流れを
意匠化
(
いしょうか
)
したもんのように見えた。 それを木組みの
台座
(
だいざ
)
に
据
(
す
)
えて、水を
張
(
は
)
ってある。
水盆
(
すいぼん
)
や。 かすかに
揺
(
ゆ
)
らめく水面には、
短冊状
(
たんざくじょう
)
の
二枚
(
にまい
)
の紙が
浮
(
う
)
いていて、
盥
(
たらい
)
の底には、
何枚
(
なんまい
)
かの同じような紙が、
沈
(
しず
)
んでいた。
浮
(
う
)
いてる
二枚
(
にまい
)
を、
皆
(
みんな
)
は
眺
(
なが
)
めているようやった。
誰
(
だれ
)
に声かけていいやら。
誰
(
だれ
)
もなんにも、声たててへん。
部屋
(
へや
)
はしいんと静まりかえっていて、
突然
(
とつぜん
)
乱入
(
らんにゅう
)
してきた俺のことを、何人かはちらりと見たものの、
誰
(
だれ
)
も何も声かけてけえへんかった。 どうしよ。俺、入ってきたら、あかんかった? なんかね、空気読めみたいな空気よね。ここ、
遠慮
(
えんりょ
)
するところやった? でも、
水煙
(
すいえん
)
が、来てもええって言うてたんやけど? そんな俺が、ドア前にもじもじ立っていると、
苦笑
(
くしょう
)
顔の
狐
(
きつね
)
の
秋尾
(
あきお
)
が、おいでおいでと
差
(
さ
)
し
招
(
まね
)
いた。
極
(
きわ
)
めて
控
(
ひか
)
え
目
(
め
)
に、ご主人様から三歩さがって
付
(
つ
)
き
従
(
したが
)
っているお
狐
(
きつね
)
様に、俺はこの
際
(
さい
)
、
擦
(
す
)
り
寄
(
よ
)
ることにした。
皆
(
みんな
)
、
真剣
(
しんけん
)
すぎて、俺にかまってくれへん
奴
(
やつ
)
らばっかりみたいやったから。 「
秋尾
(
あきお
)
さん……なにやってんの、これ?」 静かに
訊
(
き
)
いたつもりやったけど、
秋尾
(
あきお
)
は笑った顔のまま、しいっと口元に指をあてる
仕草
(
しぐさ
)
をした。 「
籤占
(
くじうら
)
やで、
亨
(
とおる
)
くん」 ひそひそ
囁
(
ささや
)
く声で、
三十路
(
みそじ
)
スーツの
狐
(
きつね
)
が教えてくれた話では、
水盆
(
すいぼん
)
の中にある
短冊
(
たんざく
)
には、
鯰
(
なまず
)
の
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
に
志願
(
しがん
)
したやつらの、名前が書いてある。 そしてそれを、
一斉
(
いっせい
)
に水に投げ入れ、最後まで
浮
(
う
)
いていた紙の上にある名の持ち主が、
占
(
うらな
)
いに
現
(
あらわ
)
れた天地(あめつち)の
意志
(
いし
)
によって選ばれた、
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
当選者
(
とうせんしゃ
)
や。 俺は水の底のほうに、
秋尾
(
あきお
)
の名のある紙が
沈
(
しず
)
んでいるのを、見つけた。
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椎堂かおる
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