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26-27 トオル

「俺がええって言うてんのや。鳥さん好きなんやろ? もう好きやないんか!?」  アキちゃん、()れてんのかキレてんのか、なんか怒鳴(どな)気味(ぎみ)信太(しんた)()いてた。  それにドッ派手(ぱで)宮廷(きゅうてい)衣装(いしょう)の真っ黄色の男は、ぽかんとしていた。 「好きです」 「ほんなら、いちゃついとけ。俺の目のないところでやっとけ。俺の前ではするな。わかったな」  なんで俺の前ではしたらあかんのや。むかつくアキちゃん。 「わかりました」  素直(すなお)にそう答えて、信太(しんた)はちらりと水煙(すいえん)を見た。  車椅子(くるまいす)から水煙(すいえん)も、ちらりと信太(しんた)を見上げた。 「序列(じょれつ)は?」  何で水煙(すいえん)()くんや信太(しんた)。  そら、しゃあないか。どう見ても水煙(すいえん)様が一番(えら)そうな式神(しきがみ)やった。  それに信太(しんた)は多少なりと、本家(ほんけ)事情(じじょう)には(くわ)しいんやろからな。 「俺が筆頭(ひっとう)(おぼろ)が二位。お前が三位。それから犬。(とおる)別格(べっかく)や」 「三位? なんでやねん。怜司(れいじ)より俺のほうが強いんやで」 「だからや。お前は(おぼろ)未練(みれん)があるようや。序列(じょれつ)高位(こうい)(まか)せて、(とら)(すずめ)を食うようでは(こま)る。うちには風紀(ふうき)があるんや」  いったいどんな風紀(ふうき)があるんや、水煙(すいえん)(にい)さん。  ローテーションのことか。ローテーションのことを言うてんのか。  それを秩序(ちつじょ)やと(にい)さんは思うてはったんですか。  ていうか、信太(しんた)(えら)そうぶって怜司(れいじ)(にい)さんを手込(てご)めにしたら(こま)るということですか。  そんなこと、ありえんの? 「(ねん)のためや。(おぼろ)はアキちゃんのもんやしな。それにお前も気軽(きがる)に手を出すようでは(こま)るんや。理解(りかい)しろ」  じろりと(うたが)わしそうに()め付けて、水煙(すいえん)(こま)り顔の信太(しんた)と、むかむか来てるままらしい(おぼろ)遠目(とおめ)見比(みくら)べていた。  そうか。今や(とら)とラジオはひとつ屋根の下や。  海道(かいどうけ)家では、仲良(なかよ)しこよしで()んずほぐれつやった(みな)さんなんやから、それを秋津(あきつ)でも続投(ぞくとう)しようと、(とら)が思うかもしれんわけやな。 「そんな悪さは、この子はしまへんえ」  苦笑(くしょう)して、蔦子(つたこ)さんが水煙(すいえん)を、たしなめていた。 「わからへん。ちゃんと言うておかんと。それに、はっきり命令しておけば、いくら(おぼろ)性悪(しょうわる)でも、こいつのほうが(こば)むやろ。案外、忠実(ちゅうじつ)なようやから」 「そんなんする必要はない」  アキちゃんが、(あわ)てたみたいに、小声(こごえ)水煙(すいえん)を止めていた。  なんでやと、不思議(ふしぎ)そうな顔で、水煙(すいえん)はアキちゃんを見上げていた。 「ええのか。(おぼろ)がお前以外のやつと気を(かよ)わせても。お前の父は(いや)やったようやで。(いや)なんやったら、はっきり命じて、(しば)ればええんや。式(しき)とはそういうものやろう」 「俺はそんなん、したないねん。もうええよ水煙(すいえん)、そんな話は、後でしよ。(みな)見てるし、この後、俺は、どないしたらええんや?」  まだ納得(なっとく)いかんみたいな顔をしている水煙(すいえん)の、(うで)をやんわりと(にぎ)って、アキちゃんはたしなめていた。  水煙(すいえん)は不満やったようやけど、手をニギニギされちゃうと、内心(ないしん)、ふにゃあってなるらしかった。  何となく()ねたような目はしたが、アキちゃんに(さか)らいはせえへんかった。  そうかジュニアがそれでええなら別にええけどみたいな、うやむやさで、青い人は()(だま)り、そして話を変えた。 「(しげる)宴席(えんせき)()るんやろ?」  (だれ)にともなく水煙(すいえん)()くと、はいはいそうですと、そつのない(きつね)が答えた。  大崎(おおさき)(しげる)式神(しきがみ)(けん)秘書(ひしょ)秋尾(あきお)や。 「これで下準備(したじゅんび)的な神事(しんじ)は全部終わりやし、あとは宴会(えんかい)だけです。中庭を中心にメイン会場です。(みな)さんのお(この)みの酒食(しゅしょく)支度(したく)してもろてますし、(あと)気楽(きらく)に、飲んで食って(さわ)ぎましょ」  そんなんしてる場合かみたいな事を、(きつね)はにこにこ言うていた。  自分も死ぬかもしれへん(くじ)取りに、たったの今まで()ざっていたくせに、けろっと平気なもんやった。  もう死なんでええわと思うてるから、あっさり元気になったんかな。  しかし信太(しんた)も、平気なもんらしかった。  もはや覚悟(かくご)が決まりすぎてんのか、それとも、こいつはアキちゃんの(しき)やからか。  自分が死んで、それでアキちゃん助かるんやったら、それで(うれ)しいと、契約(けいやく)呪縛(じゅばく)(しば)られた心で思えば、普通(ふつう)にそう思えてまうんかな。  以前の俺が、そうやったように。 「結局(けっきょく)秋津(あきつ)()るんやな、お(つた)ちゃん」  水盆(すいぼん)(あらわ)れた、蔦子(つたこ)さんの予言(よげん)のとおりの水占(みずうら)の結果を(にら)み、大崎(おおさき)(しげる)苦々(にがにが)しい顔をしていた。  まさか(きつね)をぶっ殺したかったわけではないやろけど、結果として、この水占(みずうら)は、やってもやらんでも同じな、意味のないもののように思えていた。 「それが天地(あめつち)の(おぼ)()しなら、そういうことどすやろ」 「神人(かむびと)やからか。秋津(あきつ)の連中は神の血筋(ちすじ)を引いていて、(ほか)のは(ちが)う、只人(ただびと)やから、あかんのか。巫覡(ふげき)の王にはなられへん。秋津(あきつ)(げき)とは(かく)(ちが)うて、そういうことになるんか。せっかく公平(こうへい)に、(くじ)取りして決めよと思っても、天地(あめつち)までが秋津(あきつ)肩入(かたい)れするんか」

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