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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-30 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-30 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-30 トオル
車椅子
(
くるまいす
)
押
(
お
)
そうかって、
態度
(
たいど
)
で
訊
(
き
)
いてた真っ黄色の
虎
(
とら
)
に、アキちゃんは首を
振
(
ふ
)
って
拒
(
こば
)
みつつ、意外そうに
朧
(
おぼろ
)
様に
訊
(
たず
)
ねた。 そしてそのまま、
水煙
(
すいえん
)
の
車椅子
(
くるまいす
)
を自分で
押
(
お
)
して、
扉
(
とびら
)
を開けて待っている
怜司
(
れいじ
)
兄さんのほうへ、すたすた
迷
(
まよ
)
い無く進んでいった。
信太
(
しんた
)
はそれに
付
(
つ
)
き
従
(
したが
)
って、
迷
(
まよ
)
いのない足取りやった。 ほどほどの
距離
(
きょり
)
をとって
張
(
は
)
り
付
(
つ
)
いて、ご主人様を守っている。その
一足
(
ひとあし
)
ごとに、
信太
(
しんた
)
の
姿
(
すがた
)
はゆらゆら
揺
(
ゆ
)
らめき、身に
纏
(
まと
)
っていた
華麗
(
かれい
)
な
宮廷
(
きゅうてい
)
服は、いつも通りの
派手
(
はで
)
くさいアロハ着た、チャラい
神戸
(
こうべ
)
の
兄
(
にい
)
ちゃんの
格好
(
かっこう
)
へと、もやもや
移
(
うつ
)
り
変
(
か
)
わっていった。
確
(
たし
)
かに今のご
時世
(
じせい
)
、いくら
気高
(
けだか
)
い
宮廷
(
きゅうてい
)
の
虎
(
とら
)
でも、
宮廷服
(
きゅうていふく
)
でうろうろしてたら、
中華街
(
ちゅうかがい
)
でお祭りでもあるんですかって、通りすがりの人らに
訊
(
き
)
かれて
訊
(
き
)
かれて、どうにもしゃあないやろからな。
着替
(
きが
)
えとくのが
無難
(
ぶなん
)
やで。 はっと気付けば、チーム
秋津
(
あきつ
)
は以前とは
比
(
くら
)
べモンにならんような
大所帯
(
おおじょたい
)
やった。 アキちゃんに
水煙
(
すいえん
)
。それに
朧
(
おぼろ
)
と
信太
(
しんた
)
。そしてワンワンもいてる。 俺はその
群
(
む
)
れに、どう
混
(
ま
)
ざったもんか、ふと自分の
居場所
(
いばしょ
)
が見つからんようになった。 もう俺が
居
(
お
)
らんでも、実はアキちゃん、
困
(
こま
)
らんのやないか。
亨
(
とおる
)
抜
(
ぬ
)
きでもやっていける。ほんまいうたら身を引くべきなんは、俺のほうやないかって、
一瞬
(
いっしゅん
)
そんな
痛
(
いた
)
みが走って、俺はどぎまぎしていた。 その時、ドアをくぐろうとしていたアキちゃんが、俺のほうを
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
いた。 「
亨
(
とおる
)
、行くで。お前も来るんやろ、
宴会
(
えんかい
)
」 なんや、ちょっぴり、気を
遣
(
つか
)
ったような、
遠慮
(
えんりょ
)
がちな声やった。 「行ったらあかんの」 来てほしくないのかと、俺は思って、
怒
(
おこ
)
ってええやら、泣いてええやら、どっちつかずな力無い声で
訊
(
たず
)
ねた。 アキちゃん、もう、
寂
(
さび
)
しないやろ。そんだけお付きの
妖怪
(
ようかい
)
が、ずらり
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
いてくれてたら、全然
寂
(
さび
)
しくないんとちがう。
寂
(
さび
)
しい、
亨
(
とおる
)
。
一緒
(
いっしょ
)
にいてくれなんて、もう言わんのやろ。 「あかんことない。……と思う。お前が来たいんやったら。先に京都に帰るんやったら、早いほうがええと思うけど」 アキちゃんはまだ、その
案
(
あん
)
を持ってたらしい。
亨
(
とおる
)
は先に帰っとけ
案
(
あん
)
。 帰るんやったら、ぐずぐずせんと、
地震
(
じしん
)
がやってくるよりずっと前に帰れと、アキちゃんは気が
急
(
せ
)
いてたらしい。 まだ一日あるけども、もし
予言
(
よげん
)
がズレてて、
鯰
(
なまず
)
様が早めにご
出動
(
しゅつどう
)
やったら、
困
(
こま
)
るやろ? 「帰らへんよ。そんなん、さっきもそう言うたやん」 俺が
拗
(
す
)
ねる口調でぐずぐず言うて、立ちつくしていると、
険
(
けわ
)
しい
咎
(
とが
)
めるような目で、
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんがアキちゃんを
睨
(
にら
)
んで言うた。 「帰してどないすんのや先生。こいつは
補給
(
ほきゅう
)
が
要
(
い
)
る子やで。もしも何かの
不都合
(
ふつごう
)
で、先生がすぐには京都に
戻
(
もど
)
られへんかったら、こいつ、ひとりで
飢
(
う
)
え
死
(
じ
)
になんやで」 それにはオヤツの
飴
(
あめ
)
持たす。どうせ、そういう事なんやろアキちゃん。 ワンワンだけやのうて、俺のことも、
飴玉
(
あめだま
)
やって
済
(
す
)
まそうという
腹
(
はら
)
や。 アキちゃんはそうは言わんかったけど、ただ気まずそうに
押
(
お
)
し
黙
(
だま
)
っていた。 「
連
(
つ
)
れていかなあかんで。
蔦子
(
つたこ
)
さんの
予知
(
よち
)
にも、こいつが
居
(
い
)
たやんか。それで
狂
(
くる
)
う運命もあるかもしれへんのやで?」 「ええほうに変わる
可能性
(
かのうせい
)
もあるんやろ?」 うつむきがちなアキちゃんの返事は、どうにも
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
くさかった。 それに
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんは、さらにムッと
不機嫌
(
ふきげん
)
そうな、
眉
(
まゆ
)
をひそめる顔になった。 「
蔦子
(
つたこ
)
さんが
予知
(
よち
)
して、
最善
(
さいぜん
)
のコースがあれやと言うてた。そんなら、あれが
最善
(
さいぜん
)
や。
素人
(
しろうと
)
判断
(
はんだん
)
で勝手に未来変えんといてくれ」 「
蔦子
(
つたこ
)
は不運を
掴
(
つか
)
んでくる女やで」
予言者
(
よげんしゃ
)
・
海道
(
かいどう
)
蔦子
(
つたこ
)
の
肩
(
かた
)
を持つ
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんに、
水煙
(
すいえん
)
は冷たく
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
んでいた。 それにも
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんはご
不快
(
ふかい
)
のようやった。 「そうやろか。俺はそうは思わんけどな。運・不運は気の持ちようやで。
暁彦
(
あきひこ
)
様は
確
(
たし
)
かに戦争で死んだけど、それのお
陰
(
かげ
)
で今や
英霊
(
えいれい
)
なんやろ。そうでなきゃ、いくら
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
い
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
様でも、ただの人間やった。いずれは死ぬ身や。同じ死ぬなら、
戦
(
いくさ
)
で死んで、
英霊
(
えいれい
)
として
神格化
(
しんかくか
)
されたほうが、
末永
(
すえなが
)
くこの世に
在
(
あ
)
り続けられる。ある意味、あいつは
永遠
(
えいえん
)
の命を
得
(
え
)
たんや。もう年もとらん、死にもしいひん。肉体の
限界
(
げんかい
)
にも
縛
(
しば
)
られへん。神としての一生やで? それがお前の、お望みどおりなんやろ。
秋津
(
あきつ
)
の
悲願
(
ひがん
)
や。そういう意味では、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
最善
(
さいぜん
)
の未来を
予知
(
よち
)
していたんやないか?」 そういう
朧
(
おぼろ
)
様の話に、
水煙
(
すいえん
)
は
黙
(
だま
)
りやった。 石のように
沈黙
(
ちんもく
)
して、うんともすんとも言わんかった。 たぶん、
論破
(
ろんぱ
)
できへん気がしたんやろ。
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんの言うとおりやという気がして、返事すんのが
嫌
(
いや
)
やったんや。 つんと
澄
(
す
)
ました
無表情
(
むひょうじょう
)
の、目も合わせへん青白い
美貌
(
びぼう
)
を見下ろして、
朧
(
おぼろ
)
様は、ふん、と言うた。笑ったんかもしれへん。 「そやけど、もう関係あらへんな。あいつも結局、お前に
振
(
ふ
)
られたよ。ええ
気味
(
きみ
)
やわ。俺を
捨
(
す
)
てていった
報
(
むく
)
いや」 「
暁彦
(
あきひこ
)
には
登与
(
とよ
)
ちゃんがおるやろ」
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椎堂かおる
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