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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-32 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-32 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
606 / 928
26-32 トオル
信太
(
しんた
)
に説明されて、アキちゃんは気まずいらしかった。
朧
(
おぼろ
)
様は、
虎
(
とら
)
には口が
軽
(
かる
)
かったらしい。何でもベラベラ話してたらしい。 それは
朧
(
おぼろ
)
が
虎
(
とら
)
とずいぶん深い
仲
(
なか
)
やったことを物語っていたし、そやのに
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、
虎
(
とら
)
には冷たかった。それも気まずい。 おとんのプライバシーが
虎
(
とら
)
にダダ
漏
(
も
)
れなのも気まずい。 いろいろ気まずいことばかり。 「でも、それは、ほら。なんていうか……愛でしょ。
連
(
つ
)
れていきたくなかったんは、
連
(
つ
)
れていったら死ぬからや。
実際
(
じっさい
)
、
暁彦
(
あきひこ
)
様は、
連
(
つ
)
れてった
式
(
しき
)
は全部殺してる。
死闘
(
しとう
)
やったということやろけど、そうなるやろうと分かってて、
連
(
つ
)
れていくというのは、つまり、
引導
(
いんどう
)
渡
(
わた
)
す
式
(
しき
)
を、選ぶということやしな。
怜司
(
れいじ
)
には生きといてもらいたかったんでしょ」 「俺は知らん。おとんに
訊
(
き
)
いてくれ」 アキちゃんはさらに気まずそうに、ぶつぶつ答えた。でも、
信太
(
しんた
)
に
反論
(
はんろん
)
があるようには見えへんかった。 「俺、思うんですけど、先生のお父さんて、
割
(
わり
)
と
怜司
(
れいじ
)
のこと、マジに
好
(
す
)
きやったんと
違
(
ちが
)
います? 気が多い人やったっぽいけど、でも、
怜司
(
れいじ
)
はええ
線
(
せん
)
いってたんやない?」
信太
(
しんた
)
はアキちゃんに話しかけていたけど、もしかしたら、
水煙
(
すいえん
)
に
訊
(
き
)
いてるんやった。 だって、この場の
面子
(
めんつ
)
の中で、そのへんの
事情
(
じじょう
)
が分かってる
可能性
(
かのうせい
)
があるのは、
水煙
(
すいえん
)
くらいのもんやんか? せやけど
水煙
(
すいえん
)
様は、またしても
黙
(
だま
)
りやった。 死んでも
喋
(
しゃべ
)
らんという、
頑固
(
がんこ
)
極
(
きわ
)
まりないオーラが
漏
(
も
)
れてた。 それに
信太
(
しんた
)
は、
可笑
(
おか
)
しそうに
苦笑
(
くしょう
)
していた。 「まあ、ええか。どうせ、昔々の
恋
(
こい
)
バナなんやし、俺ももう正直、
聞
(
き
)
き
飽
(
あ
)
きましたわ。
怜司
(
れいじ
)
もああ見えて、ヘタった時には
湿
(
しめ
)
っぽい
奴
(
やつ
)
やねん。おんなじ話、
何遍
(
なんべん
)
も聞かされた。
再放送
(
さいほうそう
)
に
継
(
つ
)
ぐ
再放送
(
さいほうそう
)
で、もう、しんどいったらないです」
参
(
まい
)
ったなあという顔で、
信太
(
しんた
)
はにやにや俺を
振
(
ふ
)
り
返
(
かえ
)
り、そしてちょっと、
励
(
はげ
)
ますように言うてた。 「
亨
(
とおる
)
ちゃん、京都なんか帰らんと、先生と
一緒
(
いっしょ
)
に
居
(
お
)
ったら?
怜司
(
れいじ
)
みたいになったらウザいでえ。あいつ、ほんまは、
振
(
ふ
)
られてフラフラなんやで。そんなん
亨
(
とおる
)
ちゃんには、
似合
(
にあ
)
わんしな。せっかく
可愛
(
かわい
)
いんやから、そんな暗い顔してへんと、
可愛
(
かわい
)
い顔して笑っといたら?」 でっかくおいでおいでして、
信太
(
しんた
)
は俺を
呼
(
よ
)
んでいた。 そうして
差
(
さ
)
し
招
(
まね
)
かれるのに、ほいほい乗ってええのかどうか、俺はまだちょっと
戸惑
(
とまど
)
っていて、アキちゃんの顔色を、うかがっていた。 「ええやん先生。たとえ
鯰
(
なまず
)
様が出ても、このホテル
居
(
い
)
といたら
無事
(
ぶじ
)
ですよ。
龍
(
りゅう
)
は先生がやっつけんのやろ?
竜太郎
(
りゅうたろう
)
かて、ホテル
居残
(
いのこ
)
りなんやで。守らなあかんと思うモンが
居
(
い
)
てくれたほうが、先生かて何としても
神戸
(
こうべ
)
を
救
(
すく
)
おうという
気合
(
きあ
)
いが出ますよ」 「あかんかった時、どないすんのや」 アキちゃんは
渋々
(
しぶしぶ
)
の顔で、
信太
(
しんた
)
に
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
んでいた。 それにも
信太
(
しんた
)
はにこにこしていた。 「あかんかった時のこと考えたら負けますよ。勝つから、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
」
調子
(
ちょうし
)
のええ
虎
(
とら
)
やった。
絶対
(
ぜったい
)
に勝てるつもりみたいやった。 それは
自信
(
じしん
)
というより、
決意
(
けつい
)
かもしれへん。
愛
(
いと
)
しいモンを、なんとしても
守
(
まも
)
り
抜
(
ぬ
)
くという。 せやけど勝ったところで、
信太
(
しんた
)
は生きては帰ってけえへん。
特攻
(
とっこう
)
係なんやしさ。そんな立場で、よう言うわ。心配いらんなんてさ。 「
宴会
(
えんかい
)
行きましょ。俺も
寛太
(
かんた
)
を中庭で待たせとう。
早
(
はよ
)
う行ってやりたいんです。せっかくの
宴
(
うたげ
)
や。先生も
亨
(
とおる
)
ちゃんと、心ゆくまでいちゃついといたら?」 そうしたいやろ、って、それが当然みたいに言われて、アキちゃんは、むっと
堪
(
こら
)
えた顔をした。ちょっと顔赤いみたいやった。
怖
(
こわ
)
い顔はしてるけど、
図星
(
ずぼし
)
らしかった。 俺はそれに、なんや心が動いた。 アキちゃん冷たい。
腹立
(
はらだ
)
つ。
切
(
せつ
)
ない。ずっとそう思ってたけど、でも、アキちゃんはただ、
我慢
(
がまん
)
してただけなんとちゃうか。 ほんまは俺と、
一緒
(
いっしょ
)
に
居
(
い
)
たいと思うてくれてる。 でも、いろいろあったし、気まずいしで、言うに言われず、
遠慮
(
えんりょ
)
してんのやないか。 そう思うんは、俺の
自惚
(
うぬぼ
)
れやろか。 「アキちゃん……」
我
(
われ
)
ながら、
哀
(
あわ
)
れっぽい声が出た。 その声で
呼
(
よ
)
ばれて、アキちゃんはちょっと、ぎょっとしたようやった。 その
驚
(
おどろ
)
いた顔と目が合って、俺はドギマギ、まるで
初恋
(
はつこい
)
を
告
(
こく
)
る
中坊
(
ちゅうぼう
)
みたいな面(つら)やったかもしれへん。 「俺、アキちゃんと
一緒
(
いっしょ
)
に
居
(
い
)
たいねんけど、
居
(
い
)
たらあかん?」
上目遣
(
うわめづか
)
いの
子猫
(
こねこ
)
ちゃんか俺は。 そんな
荒技
(
あらわざ
)
使えたんやな、俺も! 感動した! 自分の
可愛
(
かわい
)
さに。 言うとくけど
演技
(
えんぎ
)
とちゃうで。マジもんやで。 俺も
案外
(
あんがい
)
、
怖
(
おそ
)
ろしい子やったんや! アキちゃんそれに、
衝撃
(
しょうげき
)
受けちゃったみたい。
萌
(
も
)
えツボど真ん中やったみたい。
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椎堂かおる
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