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26-41 トオル

 その話には、寛太(かんた)もさすがに口ぱくぱくしていたよ。  俺もなんや、目ぇショボショボしてきた。  そんなん言うてええの、信太(しんた)。それはどうやろ。ちょっとどうやろ。  鳥さんちょっと、可哀想(かわいそう)やない?  アキちゃんかてそこまで、鬼(おに)やないで。鬼(おに)やない。……と思う。  鬼(おに)やないと、いいな。違(ちが)うよね? えーと……違(ちが)う、よね? 「い……い、嫌(いや)や。兄貴(あにき)、俺、そんなんしたくない。嫌(いや)や」  嫌(いや)でも寛太(かんた)は、哀(あわ)れっぽく頼(たの)み込(こ)むだけやった。  嫌(いや)やて駄々(だだ)こねてみたら、虎(とら)が折(お)れてくれはしないかと、淡(あわ)い期待(きたい)をかけてるみたいで、その我(わ)が儘(まま)言うてみんのが、精一杯(せいいっぱい)らしいわ。  どんだけ立場弱いんや、お前は。そんなんやから、虎(とら)にええようにされんのや。  せめて叫(さけ)べ。  嫌(いや)やって、叫(さけ)んでもええで。  誰(だれ)でもそれくらいはする。怒鳴(どな)れ鳥さん!  そんな有様(ありさま)を、俺はあんぐり眺(なが)めていたが、寛太(かんた)がもじもじするうちに、また新たなる乱入者(らんにゅうしゃ)が現(あらわ)れて、さらに俺をあんぐりとさせた。  ロビーのエントランスのあるほうから、誰(だれ)かがつかつかと、一直線に歩いてきてた。  真っ白い服着てる奴(やつ)やった。どっかで見たことある。  あるに決まっている。だってそれは、遥(よう)ちゃんやったから。  ただの遥(よう)ちゃんやったら、驚(おどろ)かへんで。  だって遥(よう)ちゃん、ここに住んでんのやもん。藤堂(とうどう)さんの嫁(よめ)なんやしさ。  それにヴァチカンのパシリで、鯰(なまず)退治(たいじ)に来てる、悪魔祓い(エクソシスト)の神父やないか。  元・神父やけどな。だってもう破門(はもん)されてるはず。  そやのになんで、遥(よう)ちゃん、むっちゃ神父みたいな服着てんのやろ。  神父みたいっていうか。ケープつきの純白(じゅんぱく)のコートの、膝上(ひざうえ)までの裾(すそ)から見える脚(あし)には、やっぱり白いブーツを履(は)いてた。  でも、そのブーツ、膝上丈(ニーレングス)やで。  しかも胸(むね)にさげてる十字架(じゅうじか)、黄金ですよ。サファイアと真珠(しんじゅ)ついてますよ。  ほんで金髪(きんぱつ)ですよ。  そして百合(ゆり)の浮(う)き彫(ぼ)りのある、金無垢(きんむく)のクロス・ボウを、背負(せお)っておられましたよ。  なんのコスプレやねん遥(よう)ちゃん! しっかりして!!  頭おかしなったんか、神楽(かぐら)遥(よう)。  藤堂(とうどう)さんにレイプされて、とうとうキレたんか。  それとも外道(げどう)と交(まじ)わってもうて、すでに化け物みたいになってきてんのか。  大丈夫(だいじょうぶ)か遥(よう)ちゃん!!  もちろん大丈夫(だいじょうぶ)やった。その服は、ヴァチカンが遥(よう)ちゃんに送ってよこした、祭壇(さいだん)で聖別(せいべつ)された糸で織(お)ったという、特別誂(あつら)えの聖衣(せいい)やった。  ヴァチカンのデザイナーの人が、遥(よう)ちゃんのためにわざわざデザインしたという、遥(よう)ちゃんルックやで。  お前ちょっと、ヴァチカンの人らに弄(もてあそ)ばれてない?  だってどう見ても萌(も)え萌(も)えみたいなんやで。  しょうもないとこに金かけてるで、ヴァチカン。  だって全身シルクやったんやもん。  それに金糸(きんし)で刺繍(ししゅう)してある。奇(く)しくも薔薇(ばら)の裾模様(すそもよう)やで!  その格好(かっこう)で、ずかずか歩いてくる嫁(よめ)を、藤堂(とうどう)さんはぽかんとして見ていた。  そら、ぽかんとするわな。だってそんな恥(は)ずかしい格好(かっこう)して、てめえのツレが歩いてきたらな。  しかも、ほら。なんていうか。鬼(おに)みたいな形相(ぎょうそう)で。  遥(よう)ちゃん、めっちゃ怒(おこ)ってたで。  控(ひか)え目(め)に言うても、激怒(げきど)やったで。  俺ちょっと逃(に)げようかと思うたもん。  だって十字架(じゅうじか)さげてる人が激怒(げきど)して歩いてきたら、外道(げどう)は引くよ。  特にヨーロッパで苦労したことある、邪悪(じゃあく)系(けい)はさ。怜司(れいじ)兄さんも引いてたもん。  いけない、やられる、みたいな感じするんやもん。  しかし、そういう感じを最も濃厚(のうこう)に感じてたのは、俺やラジオではなく、藤堂(とうどう)さんやったみたい。  なんで。なんで、やられるの。  なんで身構(みがま)えてんの、藤堂(とうどう)さん。ものすご身構(みがま)えてたで。  遥(よう)ちゃんは、そんなツレを睨(にら)みつけ、一直線にやってきた。  どう見てもお取(と)り込(こ)み中の、信太(しんた)寛太(かんた)にも全く気がつかず、それを押(お)しのけ、俺のことも、なんか、意図的(いとてき)ですかこれはみたいな、ものすご乱暴(らんぼう)な手で、あっちいけって押(お)しのけてきやがった。  何をすんねん、この神父。  乱暴(らんぼう)やなあって、俺が文句(もんく)のある目で見返した時。その時やった。  俺は思わず叫(さけ)んだね。  ひいいいいいいいいいっっっっ、て。  だって遥(よう)ちゃん、殴(なぐ)ったで! 藤堂(とうどう)さんを! 俺の藤堂(とうどう)さんを!! 殴(なぐ)った神父が俺の藤堂(とうどう)さんを殴(なぐ)ったんだよう!!!  ボカーッ、て、ちょっと信じられへんほどの早い右フックで、遥(よう)ちゃんは問答無用(もんどうむよう)やった。  藤堂(とうどう)さん、一応(いちおう)避(よ)けたの?  避(よ)けてへんように見えたけど、避(よ)ける間もなかったの?  思いっきりのパンチで殴(なぐ)られて、藤堂(とうどう)さん、さすがに倒(たお)れたで。  黒スーツやのに! ホテルの中庭やのに! 一応(いちおう)仕事中やのに!  みんな見てるのに!  そやのに遥(よう)ちゃん、藤堂(とうどう)さんを殴(なぐ)ったんやで!  信じられへんんんっ、どうしよう俺、頭変になりそうっ。  亨(とおる)ちゃん、思わず助けに行っちゃったよ。  アキちゃん見てんのに、フラッと地面に膝(ひざ)ついたスーツのおっちゃん、助け起こしにいっちゃった。

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