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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-50 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-50 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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26-50 トオル
怜司
(
れいじ
)
兄さんて、
普段
(
ふだん
)
めっちゃキツいけど、そういう時には、
可愛
(
かわい
)
い
可愛
(
かわい
)
いなの? デレっとしてんの? 俺、なんか……見たらあかんもん見たような気がする。
朧
(
おぼろ
)
様、おとん
大明神
(
だいみょうじん
)
とデキとった時、どんな人やったん? デレッデレ? デレッデレですか? それは。そう。たとえば、
虎
(
とら
)
といちゃついてる時の、
寛太
(
かんた
)
みたいに。 そう思うと、なんか
怖
(
こわ
)
くて、俺はむすっと立っている、
信太
(
しんた
)
を見つめた。 「おとんがダメなら
息子
(
むすこ
)
でええんか。お前ほんまに
無節操
(
むせっそう
)
やな」 しょんぼりそう言う、
信太
(
しんた
)
はちょっと
悔
(
くや
)
しそうやった。 でも、
朧
(
おぼろ
)
はそれを聞いてなかった。 聞いてないように見えた。でも、ほんまは聞こえてたんかもしれへん。 引いてるアキちゃんにちょっかいかけつつ、ふふんと笑った、
怜司
(
れいじ
)
兄さんの
微笑
(
びしょう
)
は、
邪悪
(
じゃあく
)
に見えた。なんかすごく、
信太
(
しんた
)
が
憎
(
にく
)
そうやった。 「
無節操
(
むせっそう
)
はお前やろ。なんやねん、
寛太
(
かんた
)
。年々、俺にそっくりになってくるわ。
気色悪
(
きしょくわる
)
。あれ、なんでなん? お前がそうしろ言うてんのか? ほんで、お前好みの体位で相手させてんの?
勘弁
(
かんべん
)
しろややで。
肖像権
(
しょうぞうけん
)
の
侵害
(
しんがい
)
や」
朧
(
おぼろ
)
様の言葉には、びしびし冷たい
毒
(
どく
)
があった。
信太
(
しんた
)
はそれに、ますますしょんぼりとしていた。 「知らん。いつのまにか、ああいう見た目になってたんや。俺がやらせとう
訳
(
わけ
)
やない。お前もあいつの親代わりやったんやから、それに
似
(
に
)
たっておかしないやろ……」 「そらそうや。
小虎
(
ことら
)
になるよりマシやで」 ふんって笑って、
怜司
(
れいじ
)
兄さん、もう行くみたいやった。 ここに
居
(
お
)
るのが、
嫌
(
いや
)
んなったらしい。 「先生。俺はあっちに
居
(
お
)
るしな、後でちゃんと来てな。
寂
(
さび
)
しいから。顔見せに来て……」 にっこり
婉然
(
えんぜん
)
と
微笑
(
ほほえ
)
み、
朧
(
おぼろ
)
はアキちゃんの太ももナデナデしてやって、そう
口説
(
くど
)
いてから、ふらっと
去
(
さ
)
った。
颯爽
(
さっそう
)
とした足取りの
後
(
うし
)
ろ
姿
(
すがた
)
は
綺麗
(
きれい
)
やったけど、
刺々
(
とげとげ
)
しかった。 怒ってんのか、冷たく人を
拒
(
こば
)
むようで、それでもなんや、
寂
(
さび
)
しそうやった。本人がそう、言うてるように。
確
(
たし
)
かにあの人、
寂
(
さび
)
しいんやろう。ずっと
一人
(
ひとり
)
で待ってんのが。 俺も
寂
(
さび
)
しい。アキちゃんと出会うまで、ずっと
寂
(
さび
)
しかった。 それを
紛
(
まぎ
)
らわしてくれる
誰
(
だれ
)
かが
欲
(
ほ
)
しくて、いろんな男を
貪
(
むさぼ
)
ったけど、それでも全然、
癒
(
い
)
やされへんかった。 アキちゃんでないとあかん。そういう部分が俺の
魂
(
たましい
)
にはあって、いつも泣いてた。 アキちゃん
恋
(
こい
)
しい、アキちゃん
恋
(
こい
)
しい。 まだ
誰
(
だれ
)
かも分からんかった、運命の相手を
探
(
さが
)
して、泣いてる部分が俺にはあった。
怜司
(
れいじ
)
兄さんにもある。 でも、その
欠乏
(
けつぼう
)
を
埋
(
う
)
めてやれんのは、ひとりだけなんやろ。
代打
(
あいだ
)
はあらへん。代わりの
誰
(
だれ
)
かと
抱
(
だ
)
き
合
(
お
)
うても、その
寂
(
さび
)
しさは
埋
(
う
)
まらへんのや。 何をしようが、
寂
(
さび
)
しいままで、
寂
(
さび
)
しい
寂
(
さび
)
しいと
嘆
(
なげ
)
く、いつも満たされないままの
朧
(
おぼろ
)
の
龍
(
りゅう
)
に
貪
(
むさぼ
)
られるほうは、もっと
寂
(
さび
)
しかったやろか。
信太
(
しんた
)
は強いタイガーで、弱音は
吐
(
は
)
かへん
主義
(
しゅぎ
)
らしいけど、それでも
寂
(
さび
)
しい夜はあったやろ。 そんな夜に、お前の心はかっさらわれたんか。
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
なく
可愛
(
かわい
)
い、赤く
燃
(
も
)
えてる
雛鳥
(
ひなどり
)
に。 好きや好きやって、愛してる目で見つめてくれる、俺の
愛
(
いと
)
しい
不死鳥
(
ふしちょう
)
に、すっかり
参
(
まい
)
ってもうたんか。 でもそれは、やっぱり、ただの
身代
(
みが
)
わりやないんか。
解
(
ほど
)
けきらない赤い糸が、今でもまだ、お前の
後
(
うし
)
ろ
髪
(
がみ
)
を引いている。 そういうふうに、俺には見えるんやけどなあ。 「すみません、先生。お
見苦
(
みぐる
)
しくて。こういうのなあ、
怜司
(
れいじ
)
と俺は、
日常茶飯事
(
にちじょうさはんじ
)
やねん。でも一日だけやから、目を
瞑
(
つぶ
)
ってください」
信太
(
しんた
)
は
殊勝
(
しゅしょう
)
に、アキちゃんに
詫
(
わ
)
びていた。 ご主人様やしな、
醜態
(
しゅうたい
)
晒
(
さら
)
してゴメンナサイやで。 せやけどアキちゃん、怒ってはいなかった。ただもう
困
(
こま
)
ったみたいな、しょんぼり顔やった。 どないしていいか、わからへんよな。この
激
(
はげ
)
しく
縺
(
もつ
)
れ
合
(
あ
)
った
相関図
(
そうかんず
)
を。 「どこも色々あるなあ」 テレビか
芝居
(
しばい
)
でも
観
(
み
)
てたみたいに、
藤堂
(
とうどう
)
さんが
突然
(
とつぜん
)
ぽつりと言うた。
信太
(
しんた
)
はそれに、あははと
快活
(
かいかつ
)
に笑った。 「
支配人
(
しはいにん
)
さんとこよりマシですよ」 ほんまにそうか
信太
(
しんた
)
。
藤堂
(
とうどう
)
さんとこ
嫁
(
よめ
)
が
怖
(
こわ
)
いだけやで。グーで
殴
(
なぐ
)
ってくるだけの話や。 お前のほうが、よっぽど
悲惨
(
ひさん
)
なオーラ出てたで。 「先生、さっきはああ言うたけど、やっぱり
寛太
(
かんた
)
が心配やねん。ちょっと
探
(
さが
)
してきてもいいですか。しばらく席
外
(
はず
)
しますけど、すぐ
戻
(
もど
)
りますから」 「かまへん。なんやったら、俺が
蔦子
(
つたこ
)
さんと
一緒
(
いっしょ
)
にいよか。そしたらお前も
寛太
(
かんた
)
と、
一緒
(
いっしょ
)
に
居
(
お
)
れるんやろ」 気まずそうに
強請
(
ねだ
)
る
信太
(
しんた
)
に、アキちゃんはまた、気を
遣
(
つか
)
ってやっていた。
信太
(
しんた
)
のこと、
嫌
(
きら
)
いやったはずやのにな。 よっぽど
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
やと思うたんか。
同情
(
どうじょう
)
してもうたんか、
虎
(
とら
)
に。 アキちゃん、
根
(
ね
)
はイイ子やねん。 「
優
(
やさ
)
しいご主人様やなあ、
本間
(
ほんま
)
先生は」
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椎堂かおる
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