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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-54 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-54 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-54 トオル
小夜子
(
さよこ
)
さんは、長身のアキちゃんを見上げて、きっと
若
(
わか
)
い
頃
(
ころ
)
には、もっとお
姫様
(
ひめさま
)
みたいやったんやろなあという、
可愛
(
かわい
)
い顔を、まだ青ざめさせていた。 「教会
辞
(
や
)
めたんです。
正確
(
せいかく
)
には、まだみたいやけど。今回の仕事かぎりで、
辞
(
や
)
めるらしいです。そんな話、してました。
結婚式
(
けっこんしき
)
してくれた夜に」 「
結婚式
(
けっこんしき
)
って、どなたの?」
小夜子
(
さよこ
)
さんは、
穢
(
けが
)
れない
深窓
(
しんそう
)
のお
姫様
(
ひめさま
)
みたいやった。
小夜子
(
さよこ
)
姫
(
ひめ
)
は、初めて付き合うた、
初恋
(
はつこい
)
の男と
結婚
(
けっこん
)
したんやで。 キリスト教徒やった。 今時、
奇跡
(
きせき
)
かと思うけど、
小夜子
(
さよこ
)
さんは
結婚
(
けっこん
)
して、
旦那
(
だんな
)
と
初夜
(
しょや
)
を
迎
(
むか
)
えるまで、ほんまもんのバージンやった。 したらあかんのやもの、
淫行
(
いんこう
)
は。
髭
(
ひげ
)
師匠
(
ししょう
)
としか、したことない。
剣道
(
けんどう
)
の試合を
観
(
み
)
にいって、そこで強くて
格好
(
かっこ
)
よかった、
初見
(
しょけん
)
の男に
一目惚
(
ひとめぼ
)
れ。 それがどんな家の
奴
(
やつ
)
かも全然知らんと、まっしぐらに
乙女
(
おとめ
)
チックな
恋
(
こい
)
をして、
白亜
(
はくあ
)
の教会でウェディングベル。 神と天使に
祝福
(
しゅくふく
)
されて、
子供
(
こども
)
の
頃
(
ころ
)
から
憧
(
あこが
)
れやった、
純白
(
じゅんぱく
)
の
花嫁
(
はなよめ
)
さんに。 そして
新開
(
しんかい
)
道場、当時は
宮本
(
みやもと
)
道場やった、
剣豪
(
けんごう
)
の家の
妻
(
つま
)
に、晴れがましく
収
(
おさ
)
まったんや。 せやけど、その
旦那
(
だんな
)
は、ほんまに
普通
(
ふつう
)
の男やったろうか。
霊振会
(
れいしんかい
)
のメンバーやのに?
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
は、ますます
心苦
(
こころぐる
)
しそうな顔をしていた。 「
誰
(
だれ
)
のでもええやないか、
小夜子
(
さよこ
)
」
窘
(
たしな
)
める声で、また言うてる
師匠
(
ししょう
)
の目は、
抜
(
ぬ
)
かりなく、アキちゃんの手にある指輪を見ていた。
結婚
(
けっこん
)
指輪やで。プラチナにしてん。
憶
(
おぼ
)
えてるやろ? その指輪はアキちゃんの左手の
薬指
(
くすりゆび
)
に、今もある。 俺のにもある。おソロやねん。
結婚
(
けっこん
)
指輪なんやから、それは当たり前やな。 俺もアキちゃんも、どっちも男ということを別にすれば、
至
(
いた
)
って
普通
(
ふつう
)
や。 でも
小夜子
(
さよこ
)
さん、この世の終わりを見ちゃったみたいな顔で、俺とアキちゃんの指を、
見比
(
みくら
)
べていた。 「
結婚
(
けっこん
)
したの?
本間
(
ほんま
)
君。いつの間にしたの。
私
(
わたし
)
、そんなん、聞いてないわあ……」
小夜子
(
さよこ
)
さんは、ちょっと悲しそうに、そう言うた。 「すみません。
急
(
きゅう
)
やったから。
訳
(
わけ
)
あって
急
(
いそ
)
いでたんです。
神楽
(
かぐら
)
さんが
急
(
せ
)
かすし。それに時間もないもんで。
呼
(
よ
)
べなくてすみません」
呼
(
よ
)
んだら来たんかな、
小夜子
(
さよこ
)
さん。
結婚
(
けっこん
)
おめでとう言うてくれた?
誰
(
だれ
)
かに立ち会わせるような
結婚式
(
けっこんしき
)
かよ、アキちゃん。 俺そんなの全く
想像
(
そうぞう
)
だにしてへんかったわ。 一ミリも思いつかへんかったし、
列席
(
れっせき
)
させたいような、
身内
(
みうち
)
や知り合いもおらへん。
強
(
し
)
いて言うなら
藤堂
(
とうどう
)
さんか。 でもあの人も、
餅
(
もち
)
を車で送っていかなあかんかったしな。 第一、あてつけがましいやろ。前の男の見てる前で、
誓
(
ちか
)
います(アイ・ドゥ)言うのは、いかにもあてつけみたいやんか。 俺はそんなん、したくないんや。アキちゃんと
二人
(
ふたり
)
っきりがええねん。
神楽
(
かぐら
)
は
邪魔
(
じゃま
)
やけど、しゃあないやん。
司祭
(
しさい
)
やねんから。 あいつが
儀式
(
ぎしき
)
を取り仕切る
神官
(
しんかん
)
やねんから。 ほんま言うたら
神式
(
しんしき
)
のほうが、よかったんかもしれへんけどな。 なんせアキちゃんの
祖先神
(
そせんしん
)
である、
月読命
(
つくよみのみこと
)
に
誓
(
ちか
)
った
婚姻
(
こんいん
)
や。 それは
一応
(
いちおう
)
、日本では、
神道
(
しんとう
)
の神様なんやしな。 でもまあ、ええやん。月が見ていた。 それに
誓
(
ちか
)
った結びつきを、月読(つくよみ)は見ていたやろう。 それでええねん。月はなにも、
文句
(
もんく
)
言わへん。神やから。 そこに愛があれば、
文句
(
もんく
)
はないやろ。
増
(
ま
)
して
可愛
(
かわい
)
い
秋津
(
あきつ
)
の
末代
(
まつだい
)
、かつて命をくれてやった
血筋
(
ちすじ
)
の
末裔
(
まつえい
)
が、これで幸せやて言うてんのやから。 月は
上機嫌
(
じょうきげん
)
やった。俺にはそう見えた。 「
誰
(
だれ
)
としたの?」
訊
(
き
)
かんでええのに、
小夜子
(
さよこ
)
さんは
訊
(
き
)
いた。 俺はアキちゃん、
適当
(
てきとう
)
に
誤魔化
(
ごまか
)
すのかなあと思うてた。 そんな話、すると思うてへんかったんやもん。 「
亨
(
とおる
)
とです」 「
亨
(
とおる
)
ちゃんて……女の子やったの?」
乳
(
ちち
)
あんの。ド
貧乳
(
ひんにゅう
)
か? みたいな目で、
小夜子
(
さよこ
)
さんは俺の
胸
(
むね
)
らへんを、ちらちら
惑
(
まど
)
う目で
盗
(
ぬす
)
み
見
(
み
)
していた。 いいや。
乳
(
ちち
)
なんかないよ。男やで。
脱
(
ぬ
)
ごか? そう言う
訳
(
わけ
)
にもいかず、俺は
黙
(
だま
)
っといた。 アキちゃんが
嫌
(
いや
)
やと思うような事を、口走りたくなくてさ。 でもアキちゃん、自分でさらっと口走ってたわ。 「いいや。男です。それやと
駄目
(
だめ
)
ですか。
神楽
(
かぐら
)
さんも、ほんまは教会でしんどかったんです。ここでは
一応
(
いちおう
)
幸せみたいやし、
小夜子
(
さよこ
)
さん、あの人の知り合いなんやったら、よかったなあと思ってあげてください。何やったら、後で
挨拶
(
あいさつ
)
でも。おめでとうの一言だけでもええんやけど。……無理ですか」 無理っぽいけど。
真顔
(
まがお
)
のアキちゃんに見下ろされて、
小夜子
(
さよこ
)
姫
(
ひめ
)
は、今から首でも
斬
(
き
)
られるみたいな顔してた。 あたかも
断頭台
(
だんとうだい
)
につれていかれるマリー・アントワネットや。 その、うっすら開いた
唇
(
くちびる
)
が、なんと言うてええやらという
表情
(
ひょうじょう
)
を、
浮
(
う
)
かべていた。
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椎堂かおる
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