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26-57 トオル
ほんまにジュニアはもの知らん。誰 か教えてやってえな。
今日 のドレスコードどないなってんの。
全裸 の宇宙人 、服なんでもええって言うてたけど、あかんみたいやで!
教えて誰 か、アキちゃん斎服 なんか持ってへん。着たこともない。どないして着るのかも知らんのやって! やばいよう!
「なんですかって…………お前。秋津 の跡取 りなんやろ?」
髭 、困 ってた。
うわあ、どないしよ。こいつアホな子やって、哀 れむみたいな慌 てた目して、嘘 やろみたいにアキちゃんを見ていた。
「秋津 の跡取 りですけど、でも斎服 なんていうもんは着たことないです。どこで買うかも知りません。ぼんくらなんです俺は。親がなんも教えへんかったのもあるけど、自分も興味 なかったんです。うちの家業 のことは」
「知らんのか」
焦 ったみたいに問 いただす髭 の話に、アキちゃん堂々 と頷 いていた。
「知りません」
男らしくきっぱり断言 する弟子 に、師匠 は本格的 に慌 ててきたみたいやった。
「知らんて……どないすんねんなお前! 祝詞 とか、どないすんねん。もう、今日 明日 のことやで? 神事 なんやで?」
「祝詞 !」
感心 したように、アキちゃんは、ビシッと反復 した。
あまりにも無茶 すぎる話に、感心 したらしかった。
いきなり祝詞 上げろ言われてもなあ。皆 はやれるか?
ただのスピーチとちゃうねんで。祝詞 やで?
しかもアドリブでやで。何の準備 もしてへんねんから。
できるわけない。
俺のツレも、そう確信 したらしかった。
「祝詞 なんかできませんよ。そんなんできるわけないでしょう。俺は神主 とちゃうんやから。ただの美大生 なんですよ?」
「ただの美大生 ってお前……」
髭 は嫁 を抱 いたまま、あわあわしていた。
「のんきに結婚 なんかしとる場合か! そんなん神事 を無事 に完遂 してからの話やろ。他 にもっとやることあったやろ、本間 ぁ!」
がなる髭 に、アキちゃんは、一本とられたという顔やった。
「そうかもしれません」
でももう、がっつり時間を無駄 にした後やから。
今さら言うても意味ないしな。
言われても困 るわな、アキちゃん。
昨夜(ゆうべ)かて、水煙 とエッチしとる場合やなかったんやないか。
一夜漬 けで祝詞 トレーニングとか、しとかなあかんかったんやないんか。
服かてどないすんねんな。
アキちゃん普通 に黒の綿 パンやで。:袴はかま)じゃないです。どう見ても袴 じゃない。
どこにでも居 るような現代 っ子 やから。
神主 ルックやないねんから!
普通 にこれからカラオケとか、ラウンド・ワンいってボーリングでもしよかみたいな、そんな格好 なんやで。
大学の帰りに合 コン行こかみたいな、その程度 やで。
そんなん行ったら半殺 しやけどな。
「親はどないしたんや、お前のおかんは!」
因縁 ありありの秋津 登与 を、あの女どこ行ったんやと探 す目で、髭 師匠 はまるで、アキちゃんのおかんがそこらへんに居 るもんみたいに、辺 りを見回していた。
「うちのおかんはブラジル行ってます。いつ帰ってくんのか分かりません」
じとっと暗い声で、アキちゃんは若干 、ぼそっと教えた。
師匠 はびっくりしたようやった。
「息子 ほったらかして、なにブラジルなんか行っとんのや、お前のおかんは!」
「知りませんよ、そんなん。俺が訊 きたいわ!」
怒鳴 るみたいな銅鑼声 の髭 に向かって、アキちゃんさっそく逆 ギレしていた。
さすがはキレやすい現代 っ子 や。
平成 の子は気が短い。相手が目上 でも関係ないから。てめえの師匠 でも平気で怒鳴 り返せるから。
苑 先生なんか、ゴミっかすみたいなもんやから。ゴミ箱の横におちてるクシャクシャのティッシュみたいなもんやから。
髭 師匠 はそれよかちょっとマシなだけ。
型 どおりの礼儀 は尽 くすけど、それかてただのポーズやから。内心 では対等(タメ)なんや。
アキちゃんお前ちょっと失礼 すぎやで。仮 にも剣 の師匠 に向かってな、その口のきき方はどうかしら。甘 えるにもほどがある。
せやけど髭 は、そんなアキちゃんが可愛 いらしい。
髭 の年ならアキちゃんくらいの息子 がおっても、変やない。
ましてこのオッサン、アキちゃんが小学生のころから知っていて、期待をかけてた。
将来 有望な、可愛 い弟子 やった。
そんなん、実の子がおらんオヤジにとっては、自分の息子 みたいなもんや。
我 が儘 で、慣 れ慣 れしいのも、好印象 のうち。
よしよし、お父 ちゃんが鍛 えてやるからな、覚悟 しとけよみたいな、そんなドツキ合い師弟愛 やないか。
アキちゃんのパパ第何号? もう知らんわ。
「ほんまにわからへんのです、師範 。俺はほったらかされてんのです。おかんが今どこに居 るかも、実はよう分かりません。連絡 のとりようがないんです、俺には。もう一人前 やし、ひとりで頑張 れ言うことやないでしょうか」
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