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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-59 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-59 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-59 トオル
自慢
(
じまん
)
げに言う
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
の
側
(
そば
)
に
控
(
ひか
)
えて、
狐
(
きつね
)
は
糸目
(
いとめ
)
で笑っていた。 「えっ……ちょっと、待って……
秋尾
(
あきお
)
さん? ここで着んの? ここでは、ちょっと……」 すたすた服持って
寄
(
よ
)
ってくる
狐
(
きつね
)
から、アキちゃんはじりじり
逃
(
に
)
げていた。 でも、
背後
(
はいご
)
はトイレで
壁
(
かべ
)
やし、
髭
(
ひげ
)
と
小夜子
(
さよこ
)
姫
(
ひめ
)
もいてるし、
逃
(
に
)
げ
場
(
ば
)
があんまりあらへんかってん。
水干
(
すいかん
)
姿
(
すがた
)
の和顔美少年が、ひょいひょいっと
近寄
(
ちかよ
)
ってきて、
片方
(
かたほう
)
の手でアキちゃんの、現代服を着ている
腕
(
うで
)
に
触
(
ふ
)
れた。 そして、もう
片方
(
かたほう
)
の
腕
(
うで
)
には、アキちゃんのおとんのお下がりやという、黒い
平安服
(
へいあんふく
)
が。 そう思えた次の
瞬間
(
しゅんかん
)
には、どろんと
甘
(
あま
)
い
匂
(
にお
)
いのする
煙
(
けむり
)
が、もわっと
吹
(
ふ
)
き
出
(
で
)
て、アキちゃんは
狐
(
きつね
)
に化かされていた。 ただし化けたんは、アキちゃんのほうやで。
一瞬
(
いっしゅん
)
やったわ。ほんまに一分もかからへん。三秒くらいやったんやないか。 もわもわ立ちこめた
煙
(
けむり
)
から、ケホケホ言いつつ出てきたアキちゃんは、すっかり時代コスやった。
時代祭
(
じだいまつり
)
とか、
葵祭
(
あおいまつり
)
で、こんな人、見たことあるわ。 黒い平安
貴族
(
きぞく
)
の
衣装着
(
いしょうきせ
)
て、馬乗ってるオッチャンとか。
祇園
(
ぎおん
)
祭の時にも、おったで。
八坂
(
やさか
)
神社の
神職
(
しんしょく
)
の人。 でもみんな、オッチャンやった。
若
(
わか
)
い
奴
(
やつ
)
が着てんの、俺は初めて見たな。 アホみたいかと思ったら。アキちゃん。……けっこう
似合
(
にあ
)
うやん。 ええ!? いいかも? イケてるかも? 平安コスプレ。 いいかもこれ、俺けっこう好きかもしれへん。 いやあん、アキちゃん、今度いっとく? 平安プレイいっとく? どないしよ、俺ちょっと
萌
(
も
)
え
萌
(
も
)
えかもよ! なんつって、俺が目をキラキラさせていると、なんでか知らん、つい今まで暗く泣いていたはずの、
小夜子
(
さよこ
)
姫
(
ひめ
)
まで、まだ
涙
(
なみだ
)
汲
(
く
)
んだでっかい目を、キラキラさせていた。 「
本間
(
ほんま
)
君……
宝塚
(
たからづか
)
の人みたい」 鼻声で、うっとり言われ、アキちゃんは、ギャアアアってなってた。 自分の
姿
(
すがた
)
を見てもうたんや。平安コスの自分に
絶叫
(
ぜっきょう
)
。 「
寸法
(
すんぽう
)
ぴったりでしたわ、先生」 にこにこ言うてる
水干
(
すいかん
)
少年の
腕
(
うで
)
には、つい今までアキちゃんが着ていたはずの、
現代
(
げんだい
)
っ
子
(
こ
)
服がかけられていた。 いったいどんな
魔法
(
まほう
)
で、アキちゃんを
着替
(
きが
)
えさせたんや、
秋尾
(
あきお
)
。 それ、
頼
(
たの
)
むし、後で教えて? そんな
技
(
わざ
)
が使えたら、俺とアキちゃんとの楽しい毎日が、もっと楽しくなれると思うのよ。 むろん楽しいのんは、俺だけかもしれへんけどな。 「ついでや。
蛇
(
へび
)
も
着替
(
きが
)
えさせとけ」 じろっと
鋭
(
するど
)
い目で俺を見て、
大崎
(
おおさき
)
先生は
狐
(
きつね
)
に命じていた。 えっ。俺? なんでも着るよ! 「なに着せときましょ?」 「
従者
(
じゅうしゃ
)
や。
狩衣
(
かりぎぬ
)
でいい」
秋尾
(
あきお
)
の
四次元
(
よじげん
)
ポケットには、なんでも入ってるらしい。 はぁいと答えた
狐
(
きつね
)
は、ぼかんぼかんと、
淡
(
あわ
)
い
白煙
(
はくえん
)
とともに、俺に着せてくれる用の服を、どこかの
位相
(
いそう
)
から取り出してきたらしい。 真っ白の
狩衣
(
かりぎぬ
)
に、
秋津
(
あきつ
)
の
蜻蛉
(
とんぼ
)
の
紋
(
もん
)
が入ってて、
裾
(
すそ
)
(すそ)が
括
(
くく
)
ってある
丈
(
たけ
)
短めの
袴
(
はかま
)
は、
青灰色
(
せいかいしょく
)
で、三角形をずらずら
並
(
なら
)
べた、いわゆる
鱗
(
うろこ
)
文様
(
もんよう
)
ってやつやった。 まあ、いうなればこれも、
平安朝
(
へいあんちょう
)
の
蛇
(
へび
)
さんルックやで。 うわあ。
大変身
(
だいへんしん
)
。 どんなもんかなと思って、俺はぴょんぴょん
跳
(
は
)
ねてみた。
案外
(
あんがい
)
、
普通
(
ふつう
)
よ。動きやすいよ。 「
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
短いから、
冠
(
かんむり
)
ずれてきますね」 「まっ、ええわ。形だけやし、今だけやから。
馬子
(
まご
)
にも
衣装
(
いしょう
)
や」
茂
(
しげる
)
ちゃん、とりあえずこの平安コスで満足してくれたっぽかった。 うむうむ、て顔してた。 そんな
爺
(
じじい
)
とは
逆
(
ぎゃく
)
に、
小夜子
(
さよこ
)
さんは、もうヘロヘロみたいな、
困
(
こま
)
った顔をしていた。 「
私
(
わたし
)
、
夢見
(
ゆめみ
)
てんのかしら。それとも、ものすごく
酔
(
よ
)
っぱらっちゃってるのかしら。シャンパン飲みすぎたかしらね、
浩一
(
こういち
)
さん……」 口元を
押
(
お
)
さえて、
小夜子
(
さよこ
)
さんは
旦那
(
だんな
)
の
肩
(
かた
)
に
寄
(
よ
)
りかかっていた。 変なモン見ちゃった。きっと
夢
(
ゆめ
)
よみたいなノリやった。
夢
(
ゆめ
)
かもしれへん。ある意味な。
怜司
(
れいじ
)
兄さん、そう言うてたやん。 ここは半分、
夢
(
ゆめ
)
みたいな
位相
(
いそう
)
やねん。
術法
(
じゅつほう
)
が
発動
(
はつどう
)
しやすい
異世界
(
いせかい
)
や。
小夜子
(
さよこ
)
さんみたいな
一般人
(
パンピー
)
にとっては、
普通
(
ふつう
)
やったら目を
醒
(
さ
)
ましたままでは、来ることのないような
時空
(
じくう
)
やで。 悪い
夢
(
ゆめ
)
やと、思っとくほうがいい。 「なんや、どっかで見たようなと思うたら、
宮本
(
みやもと
)
道場の
倅
(
せがれ
)
か」 平安コスの
茂
(
しげる
)
ちゃんは、やっと今気付いたように、
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
に声をかけていた。
髭
(
ひげ
)
の道場、おかんに
魑魅魍魎
(
ちみもうりょう
)
を差し向けられて
潰
(
つぶ
)
れる前には、
宮本
(
みやもと
)
道場いう名前やった。 ずうっとその名前やったんや。京都にあった時にはな。
髭
(
ひげ
)
はちょっと
恐縮
(
きょうしゅく
)
したように、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
に
会釈
(
えしゃく
)
していた。 そやけど、あんまり、
弄
(
いじ
)
られたくないみたいやった。
小夜子
(
さよこ
)
姫
(
ひめ
)
を
抱
(
だ
)
っこしていて、
恥
(
は
)
ずかしいからか。 いいや。そうやない。
髭
(
ひげ
)
には
秘密
(
ひみつ
)
があったんや。 「知らん
間
(
ま
)
に、お前も
大
(
おっ
)
きゅうなったなあ。それが
嫁
(
よめ
)
か。
跡取
(
あとと
)
りはできたか」 ノー・デリカシー、その二やな。
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椎堂かおる
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