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26-72 トオル
やめとけ、そんなん。
自分が死ぬ方法よりも、相手を永遠 に生かす方法を考えろ。そのほうが前向きや。
たとえそれが世の中の理(ことわり)に反 していてもや。それが何? So What? 文句 あんのかって言うてやれ。
お前ら神の端 くれなんやろ。奇跡 を起こせ、奇跡 を!
何か方法があるはずや!
……って、ないかな? 普通 。
ないなあ。普通 はな。
人間は生まれたら死ぬもんや。どんな偉 い人でも、金持ちでも、王様でもそうや。
通常 、その因果 からは逃 れられへん。
人は死ぬ。そういうもんですわ。
しかし例外 はある。人類は古代から連綿 と、見果てぬ夢 として、不老不死 を求め続けてきた。
その答えの一つが、仙人 になることや。
もとは人間やったもんが、なんやかんや修行 してやな、たとえば特殊 なもん食ったり特殊 なエッチしたりして、人間やめちゃう。神様っぽくなっちゃう。
それは無理でも妖怪 ぐらいにはなっちゃう。
それが仙人 や。
誰 でもなれるわけやないで。
それだけの霊力 を持った、素養 のある奴 だけや。
大崎 茂 にはその素養 があったのか。
あったんやなあ。
生まれつき、強い霊力 を持った子やった。
その上、今や、狐憑 き。
秋尾 がべったりとりついてんのやし、伏見稲荷 の祭神 であるダーキニー様も、大崎 茂 には目をかけていた。
ダーキニー様はこう見えて、強烈 強大 な神さんなんや。
お稲荷 さんやで。
歴史も古いし、稲荷 神社はでっかいのから小さいのまでスタバ並 みにあるしやな、日本中に信徒 がおるわ。
その霊験 をもってすれば、人を仙 にランクアップさせることぐらいは可能 や。
ただし、金があればな。
うんうん。
えっ? やんな。えっ? なんで金? みたいなな。
それについては稲荷 神の個性 について、語らねばなるまい。
お稲荷 さんは、お供 え物 を要求 する神さんや。
供物 と引 き替 えに、願いを叶 えてくれる。
願いが叶 ったら、お礼参 りも要求してくる。
前金 、後金 と、二回払 いシステムやな。
そういう、ビジネスライクなとこある現実的 な神さんで、伏見稲荷大社 にある、あの有名な、真 っ赤 っかの千本鳥居 も、あれは信者さんの寄進 なんやで。
お金を払 って、鳥居 を買うねん。
そしてそれを神社にお供 えする。
ダーキニー様喜ぶ。
願い叶 えてくれる。
信者も喜ぶ。
ありがたい神さんやと、信心を深める。
ダーキニー様さらにパワーアップ。
ますます商売繁盛 。大願成就 で、信者の皆 さんは懐 が暖 かくなってきて、また寄進 する。
ダーキニー様パワーアップ。
その無限 ループ。
そのようにして、ダーキニー様は人々を幸せにしてきたし、自分も幸せになってきた。
供物 はなんでもいいけども、今時 の世 は金や。
ダーキニー様も、お金が大好き。
大崎 茂 は、某 大企業 の会長さんや。
もとは豪商 の息子 でな、お金はいっぱい持ってはるねん。
それを惜 しみなく、ダーキニー様に寄進 してきた。
それが積 もりに積 もって、ものすごい額 になっていた。
そらダーキニー様かて、茂 ちゃん可愛 いわけやわ。
そろそろ仙人 にしてやろかって、思うてはったんやって。
信心 深い茂 ちゃんには、それに足 るだけの霊験 が発揮 できそうやわと。
「あ……あと、たったの25円なんやで、秋尾 ちゃん!!」
ダーキニー様、必死で言うてはった。
秋尾 はそれに、ぽかーんとしていた。
「あと25円?」
「そうや。ほんまはこんなこと、教えられへんのやけど……あんたがそないに思 い詰 めてんのやったら、もう、しゃあないもん。今、死ぬなんて、ドのつくアホのすることえ! 次の寄進 で、大願 成就 やなあって、ウチ思うててんから。金額 にしたら、あと25円くらいえ?」
「それ……今、払 うたら、今、仙人 になれるんやろか」
大崎 茂 が、ダーキニー様にそう聞くと、白毛 ふさふさのオバチャマ、そうえ、って、あっさり言うてた。
そうらしいです。
大崎 先生の大願 成就 まで、残金 あと25円ぽっちやったんやなあ。
そんなん、最後に寄進 したとき言うてやっといたら、先生、あと25円くらい、普通 に払 ったやろに。気のきかへんオバチャマや。
そやけど、いくら庶民 派 の、現実的 な神さんでも、やっぱ神さんやしな、あと25円ですけどって、言いにくかったんやろか。
嗜 (たしな)みやんな、神としての。
お供 え物足りませんとか、もうちょっとくれとか、そういうの言いにくいよな。
俺は言うけど。
「秋尾 、あと25円、ダーキニー様にさしあげてくれ」
大崎 茂 に命じられて、しっぽ少年は、ぎょっとしていた。
「そ、そうですね……でも、すんません先生。僕 いま、お財布 持ってません」
「何で持ってへんのや、アホ! お前の術法 で取 り寄 せろ」
「は、はい……そうですね。なんや動転 してきてもうて。えーと……どこ仕舞 ったんやったかな」
大願 成就 に緊張 してきてもうたらしい、秋尾 はテンパっていた。
テンパっている秋尾 を初めて見た。
なんかこいつまでオタオタしていた。
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