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26-81 トオル
うっすら、酔 っぱらいモードで話している、目の据 わったヴァチカンの男に、大崎 先生は、真面目 なんか巫山戯 てんのか、ようわからんような相 づちを打ち、狐 を顎 で使って、遥 ちゃんの酒をまた満たしてやっていた。
「変ですか、それは。父は僕 が嘘 つきやと。夜中に、部屋 になんか居 るから怖 いって言うとうのに、ひとりで寝 ろって厳 しいんです。その、なんや知らん怖 いもんが、布団 の中に入ってくんのですよ。そんなの放置 されてですね、どないしてまともな大人 になるんですか」
「苦労したんやなあ、可哀想 に」
そんな猫 なで声 出せるんや、茂 ちゃん。
そう思う俺のジト目を浴 びつつ、大崎 茂 は若干 、デレッとしとった。
確 かに遥 ちゃん、美形 やからな。
きっとこのジジイ、祇園 で舞妓 さん侍 らしてる時も、こういう顔しとんのやで。不潔 だわ!
「気持ちいいんですよ、それが」
酔 ってる勢 いなんか、そんなこと平気 で言うてる嫁 に、藤堂 さん、ブッて酒を吹 いていた。
よっぽどびっくりしたんかな。何やったんや、その、夜中に子供部屋 にいた怖 いモンて。
「やばいなあと思うけど、気持ちいいんですよ。でも怖 いんですよ。そんなの誰 に相談 したらよかったんですか」
僕 には天使 が見えるという話は、幼少期 の神楽 遥 が周りに発していたSOS信号 やったということやな。
いきなり際 どいほうの話は、口にできへんかったもんやから、自分に見えるモンの中で、いちばん無難 なモンについての話を、神楽 はまず話してみたんやろう。
それが天使の話やったんや。
そやけど、それすら信じない奴 のほうが多かった。
そんな奴 には、核心 部分を話す気にもなられへん。
遥 ちゃん、幼 いなりに、悩 んでたんやろう。
まあ、そりゃあ、悩 むよな。夜な夜な気持ちいい怖 いモンが、布団 に潜 り込 んできたらな。
「入ってくるなて、言えば終 いやったんやで、神父さん(ファーザー)。あんたの血は美味 いんやろう、ほんまにな。外道 や妖怪 にも、欲 はあるさかい、美味 そうなモンがあれば、食おうとするわ。せやけど、あんたぐらいの霊力 があれば、来るなと言えば来 んやろう。あんた、ほんまはそれが、嫌 やなかったんとちがうか」
にやにや悪い狐 のように、酒を舐 めつつ、大崎 茂 は教えてやっていた。
それに神楽 遥 は、くっと鋭 い、苦笑 を漏 らした。
「そうかもしれませんね……」
ぼんやり答えて、くすくす笑っている酔眼 の遥 ちゃんは、正直 、凄 みがあった。悪い子みたいやった。
こいつ、ほんまは悪い子やったんやで。そっちが本性 やったんや。
それではまずいと、イイ子の皮 をかぶってただけで、その中で窮屈 で、苦しんでいた。
せやし、一皮剥 けば狼 や。迷 える子羊 みたいにしてても、中身は邪 な、小悪魔 やってんて。
「僕 って霊力 なんか、あるんですか?」
「あるやろう、それは。悪魔 祓 いをしてたんやろう?」
ゆったり頷 きながら、大崎 茂 は狐 の酌 を受けていた。
「でもそれは、神の御技 です。僕 の力やないです」
「解釈 の問題や。特定の神を下 ろして神通力 を使うのんも居 てる。神懸 かりでな。力を振 るう方法論 や流儀 は、人それぞれやけどもや、高い霊力 があるんやったらな、どんな方法でも、自分が納得 できる流儀 でやればええのや」
「そうなんですか」
神楽 遥 は酔 っていたけども、ものすご真剣 に大崎 茂 の話を聞いていた。
そらもう、爺 さんノリノリや。ええ気持ちなってきてはったで。
若 いのんが話聞いてくれるだけでも、実はジジイは嬉 しいんやから。
増 してそれが金髪 碧眼 の、女顔 の美形 やで。
なまじな女より美形 なんや。お肌 真っ白なんや。爺 さんのテンションもそら上がるってもんや。
「なんや。修行 したいんか、神父さん(ファーザー)。ん?」
にこにこご機嫌 の顔で、茂 ちゃん、儂 が教えよかみたいな、心持ち身を乗り出す構 えやった。
それでも狐 はにこにこしていた。そんな先生が可愛 いみたいやった。
どないなっとんねん秋尾 、お前の神経 は。
「今からやと遅 いですかね。僕 もう、二十二歳 なんですけど」
「なんや二十二か。かまへんかまへん、若 いやないか。トシは関係ないんやで、要 は素養 とやる気や。まして、あんたは、全くの素人 ではないんやしな。努力すれば何とでもなる」
よしよしって、遥 ちゃんの手でも握 りそうな勢 いで、ジジイはデレデレ言うとった。
「俺のことは、ぼんくらみたいに言うてたくせに……」
アキちゃん、さすがに引いたんか、思わずそれを口に出してもうてた。
「お前はそうや。秋津 の家に居 りながら、なんの修行 もせんと、遊びほうけて絵ばっかり描 いとったやないか。ヴァチカンで一生懸命 、つらい修行 してはった神父さん(ファーザー)とは話が違 うてるわ」
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