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26-82 トオル

 ツッコミ入れてきたアキちゃんに、ジジイ、ピシャーンて(そく)ギレして、自信満々(じしんまんまん)反論(はんろん)してはった。  依怙贔屓(えこひいき)やな。どう考えても依怙贔屓(えこひいき)や。  神楽(かぐら)が好み(けい)やったんやな、(しげる)ちゃん。 「(ぼく)子供(こども)のときに、大崎(おおさき)先生みたいな(たよ)れる大人(おとな)の人が、側に()ってくれたらなあ……」  真面目(まじめ)にぼやいてるらしい神楽(かぐら)は、どう見てもマジやった。  そんな美味(うま)いことジジイに言うてやって、ええの?  (すぐる)さん横におんのに、ええの?  さすがの藤堂(とうどう)さんも、びっくりしすぎて声も出てへんで。  引き続きずっと、ポッカーンみたいになってるで。 「ほんまやなあ、神父さん(ファーザー)。そん時に()うてたらなあ。(わし)がきちんと面倒(めんどう)みてやったのに。何なら今から見よか?」  えっへっへって、(しげる)ちゃん、ボルテージ上がりすぎて暑いんか、(ふところ)から出した扇子(せんす)で左うちわやった。  黒地の(きぬ)に、黒檀(こくたん)(ほね)した、金で蜻蛉(とんぼ)の絵が()いてある、(いき)扇子(せんす)やった。  そんなもんまで秋津(あきつ)家グッズかよ、(じじい)。お前もあいつらの仲間なんやな! この色魔(しきま)!! 「見てもらおうかなあ……」  小悪魔(こあくま)が、小悪魔(こあくま)らしい声でぼやいて、神楽(かぐら)(よう)は、ものすご冷たい横目で、(となり)(すわ)っている藤堂(とうどう)さんをチラ見した。  ぐわ。わざと言うてんのや、こいつ。演技(えんぎ)やったんや。  ()かせたろとう思って、そんな話しとんのや。  人は見かけによらへんな。あんなにお(かた)くて、初心(うぶ)な神父やったのに、この短期間でいきなり小悪魔(こあくま)的な才能(さいのう)が開花しすぎや、神楽(かぐら)(よう)。  歌舞伎(かぶき)()()き、早変わりみたいやで。  化けの皮が完全に()がれてきてる。 「なんなら、京都に新しい別邸(べってい)を建てますけども」  にこにこしながら、如才(じょさい)なさ()ぎる(きつね)が、神楽(かぐら)にそんなことを()いていた。  (めかけ)の世話までお前がすんのか。  水煙(すいえん)以下やな。水煙(すいえん)以上というかな。  ほんま、どないなっとんねん秋尾(あきお)健気(けなげ)(とお)()して神すぎる。どんだけ(じじい)()くしとんねん。 「いや……いいです、それはさすがに。神戸(こうべ)が好きやし、この(うそ)つきのおっちゃんと結婚(けっこん)しちゃったんで。ここに居座(いすわ)っときます。また時々、()まりに来てください先生。このホテル、(つぶ)れたら(こま)るから、先生みたいな上客(じょうきゃく)さんに、贔屓(ひいき)にしてもらわないと」  苦笑(くしょう)めいた、(うれ)いのある()みで、神楽(かぐら)(よう)はやんわり(こば)んだ。  (じい)(かこ)われるような、そんな気は毛頭(もうとう)ないみたいやった。  そらそうやろう。こいつは(すぐる)さんにベタ()れなんや。  大崎(おおさき)(しげる)はそれに、気を悪くしたふうもなく、笑っていた。 「よしよし、また来るでえ。こんな美人が()るんやったらな。札束(さつたば)()きに来てやるわ。この神事を()えて、生きてられたらな!」  景気(けいき)よく、左うちわでパタパタしてる、富豪(ふごう)(じい)さんの大笑(たいしょう)を、神楽(かぐら)(よう)(あや)しいような美貌(びぼう)()みで、にんまり見ていた。  すごいでお前、祇園(ぎおん)料亭(りょうてい)女将(おかみ)とかやれんで。男やけどさ。  着物着とったらわからへん。(はるか)ちゃんで通るから。  (じい)キラーで大もうけできるで! 花街(かがい)の星になれるで!! 「(みょう)なこと言うもんやないで、(よう)」  やっと(のど)を言語が通過(つうか)できるようになったらしい、藤堂(とうどう)さんが、(よめ)(とが)めていた。  それにも神楽(かぐら)(よう)は、自嘲(じちょう)したような(にが)(あわ)()みやった。 「いいやないですか別に。もし明後日(あさって)になっても(ぼく)が生きてたら、(すぐる)さん、このホテルにクリニック増設(ぞうせつ)してください。(ぼく)そこで、お医者さんやるから。(さが)してるんでしょう、このホテルの、ホームドクター。(ぼく)やりますよ。神大(しんだい)(かよ)って、日本の医師(いし)免許(めんきょ)とるし……」  それがまるでドライブスルー行ってマックシェイク買うしというのと同程度(どうていど)の話やみたいに、神楽(かぐら)(よう)は話していた。  こいつどんだけ(かしこ)い子なんやろう。実はものすご頭がいいんではないか。  こんなちっさい頭やのに、どこに人より(かしこ)(のう)みそが仕舞(しま)ってあるんや。  まさかこいつも四次元(よじげん)ポケット持ってんのかな? 「あぁ……ほんまにね、明日(あした)はどっちだって感じですよ。明後日(あさって)から先の自分が見当(けんとう)もつかないですもん。この神事(しんじ)で死んでもうたほうがラクやないかと思いますよ。予言書(よげんしょ)さえなければね、代わってあげるんですけど、本間(ほんま)さん」  いきなり話()られて、アキちゃん、ビクッとしてた。  (いじ)らんといて、うちのツレ。  小悪魔(こあくま)なんやから、(よう)ちゃん。話しかけんといてくれ。  アキちゃんも、一体なにを言われるんやろうって、内心ビクビクしてる顔して、また酒飲んでる神楽(かぐら)(よう)のことを、もう飲むなと語りかける目で見てた。 「(ぼく)ねえ、知ってたんですよ。最初に貴方(あなた)にこの話持っていく時からね、この人、死ぬかもしれへんなって、知ってたんですけども、言うのやめといたんですよね」

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