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26-83 トオル

 そんな話、今さらするなやで、テメエ。ぶっ殺す!  でも怖(こわ)いから、とりあえず黙(だま)って見てる!  なんかすごい、邪悪(じゃあく)と神聖(しんせい)さの入り交じった、チョコ&クリームみたいなオーラが、神楽(かぐら)遥(よう)から出てる。  遥(よう)ちゃんは、神聖(しんせい)にして邪悪(じゃあく)。  神父やし、でも外道(げどう)の嫁(よめ)やし、なんでか神聖(ホーリー)系(けい)も使えるけど、邪悪(エヴィル)系(けい)もいける。なんでそんな事になってもうてんのか。  矛盾(むじゅん)ありありやのに、その無茶(むちゃ)な同居(どうきょ)が完成しつつある感じやった。  ヤハウェがな、こいつに未練(みれん)あるらしいねん。  遥(よう)ちゃんイケてる。可愛(かわい)い可愛(かわい)い僕(しもべ)やったのに。やめちゃうの?  やめんといてよ。ホーリー系(けい)使(つこ)うてええから。やめるのやめといてよって、そんな態度(たいど)で居(お)るみたい。  もしかしたら、遠いか近いかわからん将来(しょうらい)、ヤハウェ様突然(とつぜん)言い出すんとちがうか。  やっぱ同性愛(どうせいあい)もアリなんちゃう? みたいな話をさ。  信者(しんじゃ)の皆(みな)さんが幸せならそれでええんやない? ラブ&ピースですよ的な話をさ。  だって、昔は天動説(てんどうせつ)を唱(とな)えただけで、魔女(まじょ)や悪魔(あくま)やいうて火炙(ひあぶ)りにしてたのに、今ではヴァチカンの神父が、電波望遠鏡(でんぱぼうえんきょう)で遠い銀河(ぎんが)を観測(かんそく)してんのやで。  昔、あれはあかんて言うて、宗教(しゅうきょう)裁判(さいばん)とかやっちゃったけど、やっぱ間違(まちが)いやったわ、いじめてゴメンネ~、言うて、ヴァチカンが公式に謝(あやま)ってはるやん。  ゴメンネ~、で済(す)むの? そんなんでええの?  ゴメンで済(す)むなら警察(けいさつ)いらんのとちゃうの?  でも、ええねん。そういう人らやねん。時代に即(そく)して臨機応変(りんきおうへん)やねん。  なんやそれって思うやろけどな、でも、そのほうがええやん。  ずっと永遠(えいえん)に火炙(ひあぶ)りし続けるよりは、さっと頭切(き)り替(か)えて、あんじょう仲良うしていけたほうがええやん。  そんなふうに、時代が動くまでには、まだまだ長い時が必要やろけど、遥(よう)ちゃん案外、ものすごい時代の分岐点(ぶんきてん)に居(お)る神父かもしれへんよ。  だって変やん。明らかに破戒(はかい)しまくってんのに、まだまだ神に愛されてるなんてさ。 「言ったら本間(ほんま)さん、断(ことわ)ってくるやろなあ、と思って。貴方(あなた)に引き受けさせるのが僕(ぼく)の任務(にんむ)やったもんやから。狡(ずる)いなとは思いましたけど、でもそれも仕事やしね。そう割(わ)り切(き)って黙(だま)っておくことにしたんです。……狡(ずる)いと思うでしょう」 「狡(ずる)いけど、普通(ふつう)やないですか、それは。死ぬけど引き受けろて言われてたら、さすがの俺も断(ことわ)りましたよ」  アキちゃん、怖々(こわごわ)やけど、真面目(まじめ)にそう答えてやっていた。  それにも神楽(かぐら)は、くすっと笑っていた。 「そうなってたら困(こま)ったでしょうね、僕(ぼく)も。でも、思うんですけど、その時貴方(あなた)に正直に何もかも話して、断(ことわ)られていたら、僕(ぼく)、今、こんな事にはなってないですよね?」  こんな事というのは、教会を破門(はもん)になって、妖怪(ようかい)ホテルの嫁(よめ)になってるという事やで。  アキちゃんが仕事を蹴(け)って京都に帰っていれば、俺はそれについて一緒(いっしょ)に帰っている。  俺は藤堂(とうどう)さんと会うことはない。  せやし、藤堂(とうどう)さんに神楽(かぐら)を犯(や)れと命じることもなかった。  藤堂(とうどう)さんは、外道(げどう)としては煮(に)え切らん中途半端(ちゅうとはんぱ)なままで、煮(に)え切らん中途半端(ちゅうとはんぱ)な恋愛(れんあい)感情(かんじょう)を腹(はら)に抱(かか)えた神楽(かぐら)遥(よう)としばらくビジネスライクに付き合い、やがて神楽(かぐら)はヴァチカンに戻(もど)ったやろう。  穢(けが)れなき身の、神父様のままでな。 「正直でないとあかんのやなあ」  しみじみと、また新しい酒を飲んで、神楽(かぐら)は後悔(こうかい)してるような事を言っていた。 「嫌(いや)なのか、お前は」  困(こま)ったように、藤堂(とうどう)さんが、愚痴(ぐち)っぽい嫁(よめ)に訊(たず)ねた。 「嫌(いや)ですよ、そりゃあ。結婚(けっこん)までした後でですよ、蛇(へび)と浮気(うわき)はするし、それで懲(こ)りたのかと思ったら、こんどは朝飯屋(あさめしや)の店主(てんしゅ)と浮気(うわき)はするし……」 「してへん。してへんやないか。一緒(いっしょ)に酒飲んでただけやで」 「嘘(うそ)や、どこの世界に一緒(いっしょ)に酒飲むときにケツ触(さわ)る朝飯屋(あさめしや)の店主(てんしゅ)がいとうのや。おかしい。絶対(ぜったい)におかしいです。別れてください。綺麗(きれい)さっぱり別れてください。英国風(ブリティッシュ)な朝飯(さめし)食うのもやめてください。朝は紅茶(こうちゃ)やのうてカフェラッテやから」 「わかったわかった、カフェラッテでええから。そんな話を人前でするな」  ほとほと困(こま)ったみたいに、藤堂(とうどう)さんは弱り、嫁(よめ)の言うなりに頷(うなず)いてやっていた。  それを聞き、遥(よう)ちゃんは無表情(むひょうじょう)に、押(お)し黙(だま)っていた。  酔(よ)いつぶれる寸前(すんぜん)なのかと、俺はその横顔を眺(なが)めたけども、案外、こいつ、酔(よ)うてへんのやないかと思った。  酔(よ)っぱらってるような、ふりしてるだけで、実はものすご酒豪(しゅごう)なんとちゃうか。  神楽(かぐら)遥(よう)はちょっと、しんどいみたいやった。床(ゆか)を見ている青い目が、落(お)ち込(こ)んでいるように見えた。  飲まんとやってられんというのは、ほんまの話みたい。  遥(よう)ちゃん、やっぱ、傷(きず)ついたんかな。  藤堂(とうどう)さんが俺と浮気(うわき)しちゃって。ジョージとも仲良くて。ケツまで触(さわ)られていて。

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