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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-88 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-88 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-88 トオル
嫁
(
よめ
)
に
咎
(
とが
)
められたせいで、自分の
優
(
やさ
)
しさが
恥
(
は
)
ずかしなってきたんやろ。
藤堂
(
とうどう
)
さんは、
悔
(
く
)
やむような顔をして、
照
(
て
)
れていた。 おっさん、
反省
(
はんせい
)
したんか。 今までずっと、
自覚
(
じかく
)
はなかった
天然
(
てんねん
)
の、
誰彼
(
だれかれ
)
かまわぬ
口説
(
くど
)
きビームも、今後は
遥
(
よう
)
ちゃんに
逐一
(
ちくいち
)
チェックされんのやな。
可哀想
(
かわいそう
)
。 まったく、
焼
(
や
)
き
餅
(
もち
)
焼きの
嫁
(
よめ
)
なんか、もらうもんやない。
俺
(
おれ
)
は自分のことは
棚
(
たな
)
あげで、その時、そんなことを思うてた。 「あらまあ、
茂
(
しげる
)
ちゃん。あんたまだお酒飲んでんのか」 そんなニヤケたムードの
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
なソファ席の
車座
(
くるまざ
)
に、外から声をかけてきた、
艶
(
つや
)
っぽい
京都弁
(
きょうとべん
)
の女の
美声
(
びせい
)
があった。
蔦子
(
つたこ
)
さんやった。
水占
(
みずうら
)
の
神事
(
しんじ
)
の時には、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
確
(
たし
)
か、
着物姿
(
きものすがた
)
やったような気がしていたけども、いつのまにやら別の
装束
(
しょうぞく
)
に
着替
(
きが
)
えてきていた。 いつかホテルの
部屋
(
へや
)
で見たような、古代の
巫女
(
みこ
)
さんルックやで。 どうもこれが、
秋津
(
あきつ
)
の女子の
正装
(
せいそう
)
らしいわ。
地模様
(
じもよう
)
のある、
純白
(
じゅんぱく
)
の
筒袖
(
つつそで
)
の着物に、
腰
(
こし
)
から下だけ、目の
醒
(
さ
)
めるような
真
(
ま
)
っ
青
(
さお
)
と金銀の、青海波(せいがいは)の
模様
(
もよう
)
のスカートみたいな
裳
(
も
)
をつけて、真新しい血のように赤い、
透
(
す
)
ける
緋色
(
ひいろ
)
の
領巾
(
ひれ
)
を、ゆったりと長く、
肩
(
かた
)
から
腕
(
うで
)
にまとわりつかせていた。 出たよ、
飛鳥時代
(
あすかじだい
)
ルック。 それにはまた
藤堂
(
とうどう
)
さんが、ぽかんとしていた。 しかしや。お客様がどんなコスプレで
現
(
あらわ
)
れようと、びっくりしたらあかん。失礼やからな。 たとえ
大阪
(
おおさか
)
のオバチャンたちが、ヒョウ
柄
(
がら
)
のスパッツはいて
到着
(
とうちゃく
)
しようとも、ようこそマダム言うて、
礼儀正
(
れいぎただ
)
しく
出迎
(
でむか
)
えなあかん。 たとえそれがどんなに
藤堂
(
とうどう
)
さん的にNGな
格好
(
かっこう
)
でも、
今日
(
きょう
)
も
素敵
(
すてき
)
ですねマダム言うてやらなあかん。 それが客商売のつらいところやで。
藤堂
(
とうどう
)
さんはほとんど
本能的
(
ほんのうてき
)
と思えるさりげなさで、自分の席をあけ、
鬼嫁
(
おによめ
)
・
神楽
(
かぐら
)
遥
(
よう
)
にも席を立たせた。 新しく
現
(
あらわ
)
れた客たちが
座
(
すわ
)
れば満席になりそうな、赤いソファ席の
片側
(
かたがわ
)
を、
海道
(
かいどう
)
蔦子
(
つたこ
)
様とそのお
連
(
つ
)
れ様たちに
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
す
素振
(
そぶ
)
りやった。
蔦子
(
つたこ
)
さんが、
一人
(
ひとり
)
でウロウロするわけはない。 山ほど式(しき)を連れていた。 全部イケメン。
脇
(
わき
)
に
控
(
ひか
)
える
眼鏡
(
めがね
)
の
氷雪
(
ひょうせつ
)
系
(
けい
)
は、すでに
筆頭
(
ひっとう
)
の式(しき)やという面(つら)で、
控
(
ひか
)
え
目
(
め
)
に
侍
(
はべ
)
り、その後に続く
連中
(
れんちゅう
)
も、何事かあれば
姐
(
ねえ
)
さんを、身を
挺
(
てい
)
してでも守るというような、一分の
隙
(
すき
)
もないハーレム
陣形
(
じんけい
)
やった。 そんなムフフな輪の中で、
蔦子
(
つたこ
)
さんは、これまたコッテリ
正装
(
せいそう
)
させた
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の手を引いていた。
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
やアキちゃんと同じ、
衣冠
(
いかん
)
やで。 ちびっ子サイズにわざわざ
誂
(
あつら
)
えたんか、新品ぴかぴかの
漆黒
(
しっこく
)
の
絹
(
きぬ
)
で、ちらりと赤く
鮮明
(
せんめい
)
な、
深紅
(
しんく
)
の
肌着
(
はだぎ
)
が
襟元
(
えりもと
)
に見えていた。 そんな
格好
(
かっこう
)
していると、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の顔立ちの、いかにも
外来
(
がいらい
)
みたいなのが、やけに目立った。 こいつは
確
(
たし
)
かに半分、
秋津
(
あきつ
)
の血をもらったやろけど、それでも父方の血のほうが
濃
(
こ
)
いみたいやで。 おかんの
蔦子
(
つたこ
)
さんや、
又従兄弟
(
またいとこ
)
のアキちゃんとは
違
(
ちが
)
って、
秋津
(
あきつ
)
家
独特
(
どくとく
)
の、なんとはなしにキリッと
硬
(
かた
)
いようなところが全然あらへん。 ちょっと
気後
(
きおく
)
れしたように、おかんに手を引かれ、はにかむ
笑
(
え
)
みで
突
(
つ
)
っ
立
(
た
)
っている様子は、
可愛
(
かわい
)
かった。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は少々、気まずいらしかった。
誰
(
だれ
)
にって、アキちゃんにやで。
意識
(
いしき
)
しとんのやろ。死にかけたところを、
霊力
(
れいりょく
)
人工呼吸
(
じんこうこきゅう
)
で救われちゃって。 アキ兄とキスしちゃったとか思うてんのやろ。 してへん、あれは
人工呼吸
(
じんこうこきゅう
)
やから。
勘違
(
かんちが
)
いすんな中一。 「もう元気なったんか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
」 アキちゃんもなんか気まずいんか、その
裏返
(
うらがえ
)
しみたいに、やけに
優
(
やさ
)
しい
親戚
(
しんせき
)
の
兄
(
にい
)
ちゃんみたいな声で、まず
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に声をかけてやっていた。 「お
陰様
(
かげさま
)
で、どうもないようどす。昨夜はゆっくり休ませましたし、もう心配おへんわ」 もじもじしている
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に代わって、
蔦子
(
つたこ
)
さんが答えた。 そして、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の手を引いたまま、
車座
(
くるまざ
)
の中へしずしずとやってきて、
蔦子
(
つたこ
)
さんはまるでそれが当然みたいに、すとんとアキちゃんのすぐ
隣
(
となり
)
に
座
(
すわ
)
った。
俺
(
おれ
)
にはなんかそれが、
不思議
(
ふしぎ
)
な気がした。
当初
(
とうしょ
)
あんだけアキちゃんを、ビシビシ冷たくあしらっていたオバチャマやのに、なんか急にな、
馴
(
な
)
れ
馴
(
な
)
れしいねん。 近いねん、
座
(
すわ
)
ってくる
距離
(
きょり
)
が。 それはどうも、アキちゃんのコスプレのせいらしい。 おとんコスやろ。
蔦子
(
つたこ
)
さんには、おとんそっくりなアキちゃんが、おとんの服着てんのが、
懐
(
なつ
)
かしかったらしいねん。 「ほんまに、生き写しやわあ、アキちゃんに」 それに
惚
(
ほ
)
れ
惚
(
ぼ
)
れしたように、オバチャマはそう言うてた。 アキちゃん、それに、どないしてええのかリアクションに
詰
(
つ
)
まったのか、
珍
(
めずら
)
しくも
愛想笑
(
あいそわら
)
いを見せて、じわじわ
俺
(
おれ
)
の
居
(
お
)
るほうへと、にじって
逃
(
に
)
げてきていた。 身の
危険
(
きけん
)
を感じたんか。オバチャマに食われるんちゃうかという、そんな
危機感
(
ききかん
)
あったんか。 「なんやねん、お
蔦
(
つた
)
ちゃん。そんな顔して、
小娘
(
こむすめ
)
みたいに。
旦那
(
だんな
)
に言いつけるで!」
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椎堂かおる
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