fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 26-92 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-92 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
666 / 928
26-92 トオル
実際
(
じっさい
)
それは
他人事
(
たにんごと
)
かもしれへん。
蔦子
(
つたこ
)
さんには。
分家
(
ぶんけ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
とはいえ、
結婚
(
けっこん
)
して力を合わせ、家を
支
(
ささ
)
えていくはずのアキちゃんのおとんは、
許嫁
(
いいなずけ
)
のまま死んでもうて、
蔦子
(
つたこ
)
さんはすでに
他家
(
たけ
)
の
嫁
(
よめ
)
なんや。
普通
(
ふつう
)
やったら知らん顔して、うちはもうヨソもんどすって、ドライにしとってもええはずやった。 これは
秋津
(
あきつ
)
家の問題で、
海道
(
かいどう
)
蔦子
(
つたこ
)
の仕事ではない。 ただアキちゃんのおかんに、
息子
(
むすこ
)
をよろしゅうと
頼
(
たの
)
まれたっていうだけで。 よろしゅうもなにも、そのおかんは、どこで何をやっとんのや。
髭
(
ひげ
)
の
師匠
(
ししょう
)
やないけども、こんな
難儀
(
なんぎ
)
な時に、
可愛
(
かわい
)
いひとり
息子
(
むすこ
)
をほったらかして、ラブラブ世界一周旅行なんか、やってる場合やないよ。 さっさと
旦那
(
だんな
)
を連れて
戻
(
もど
)
って来んかい。 ほんまに一体、なにをやっとんのや。アキちゃんの両親は。 一体、なにを。 遊んでるんやって、思うてた? ブラジルでラブラブ? 七十年ぶりのハネムーンが
嬉
(
うれ
)
しすぎて、
息子
(
むすこ
)
のことなんか
完璧
(
かんぺき
)
忘
(
わす
)
れてもうてた?
鯰
(
なまず
)
が出てきて、さあ大変てなってるとは、これっぽっちも気付いてへんかと、思うてた? ……そんなわけない。なめたらあかん。
秋津
(
あきつ
)
の
直系
(
ちょっけい
)
や。 アキちゃんを別にすれば、この世で最も血の
濃
(
こ
)
い、
秋津
(
あきつ
)
家の
正統
(
せいとう
)
な
世継
(
よつ
)
ぎの兄と、その実の妹なんやで。 おとん
大明神
(
だいみょうじん
)
と
登与
(
とよ
)
姫
(
ひめ
)
は、遊びにいってたわけやないんや。 そのことは、この後、すぐに分かった。俺らの
誰
(
だれ
)
もが思ってもみないような事を、おとんとおかんはやってた。
神戸
(
こうべ
)
から、ちょうど地球の
真裏
(
まうら
)
にあたる、
南米
(
なんべい
)
で。
南米
(
なんべい
)
か……
懐
(
なつ
)
かしいな。
亨
(
とおる
)
ちゃん、
南米
(
なんべい
)
の
蛇
(
へび
)
やったことある。 もう昔すぎて、ようわからへん。 ヤハウェにやられて、命からがら
落
(
お
)
ち
延
(
の
)
びて、この
極東
(
きょくとう
)
の島へたどりつく前のことは、
忘
(
わす
)
れてもうたり、もう
忘
(
わす
)
れたいと思うたりで、よう思い出されへん。 せやけど完全には、
忘
(
わす
)
れ
去
(
さ
)
られへんものや。 かつて
我
(
わ
)
が
身
(
み
)
を生み出し、神と
崇
(
あが
)
めてくれた
民
(
たみ
)
のことは。
信太
(
しんた
)
がかつて中国の、
黄砂
(
こうさ
)
の大地で
世話
(
せわ
)
んなった
民人
(
たみびと
)
のことを、今でも
忘
(
わす
)
れてへんように、俺かて
忘
(
わす
)
れてへん。 この体のどこかでは、今でも深く
憶
(
おぼ
)
えている。 俺のことをエアと
呼
(
よ
)
んだ。 あるいはケツァルコアトルと。ククルカンと
崇
(
あが
)
めた、もうどんな顔やったかも思い出されへん、無数の人々のことを。 今ではもう遠く、
冥界
(
めいかい
)
へと去った、その
愛
(
いと
)
おしい
魂
(
たましい
)
のことを。 「
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
」
突然
(
とつぜん
)
背後
(
はいご
)
から
呼
(
よ
)
ばれて、俺はびっくりした。 びくっと来るような声やった。 それが
水煙
(
すいえん
)
の声やったからや。 俺には
怖
(
こわ
)
いねん、こいつは。いろんな意味でな。
戻
(
もど
)
ってけえへんと
約束
(
やくそく
)
してたくせに、
水煙
(
すいえん
)
は
戻
(
もど
)
ってきた。犬に
車椅子
(
くるまいす
)
押
(
お
)
させて。なんや、
難
(
むずか
)
しい顔をして。 俺はびっくりした顔で、ソファの
背
(
せ
)
もたれにとりついて、
車座
(
くるまざ
)
の外にいる、青い
宇宙人
(
うちゅうじん
)
と向き合っていた。 「なんやねん
水煙
(
すいえん
)
、
約束
(
やくそく
)
違
(
ちが
)
うやないか。なんで
戻
(
もど
)
ってきたんや」 「そういうお前こそ、何をしてるんや。ジュニアとふたりきりで別れを
惜
(
お
)
しむんやなかったんか。なんでこんなとこに
居
(
お
)
るねん」
真顔
(
まがお
)
でつっこまれた。
確
(
たし
)
かにそうやった。 アキちゃんとふたりっきりでラブラブする予定やったのに、なんでか全員いてますみたいなこの席で、なにひとつラブっぽいことはできず
仕舞
(
じま
)
いで、ただ
座
(
すわ
)
ってるだけ。平安コスで。
虚
(
むな
)
しい。時間がもったいない。 俺とアキちゃんのラブラブな時間が、どんどん
無駄
(
むだ
)
に流れていっている。 ヘタレの
茂
(
しげる
)
の話なんか聞いてる場合やないのに。
狐
(
きつね
)
の
踊
(
おど
)
りなんか見てる場合ちゃうのに。
怜司
(
れいじ
)
兄さんの歌なんかいつでも
聴
(
き
)
けるのに。なにをやってんのや俺は。 「なんでやろうな……」
若干
(
じゃっかん
)
かすれ声で、俺は
水煙
(
すいえん
)
様に
尋
(
たず
)
ねた。
水煙
(
すいえん
)
はほとほと
呆
(
あき
)
れたという顔やったような気がする。
表情
(
ひょうじょう
)
ないから、わからへんねんけど、このときちゃんと
人並
(
ひとな
)
みの顔やったら、そういう
表情
(
ひょうじょう
)
してたに
違
(
ちが
)
いないという
確信
(
かくしん
)
がある。 「まあええわ。お前がアキちゃんといちゃいちゃしたないんやったら、俺も別に
遠慮
(
えんりょ
)
せえへん」 いや、
遠慮
(
えんりょ
)
して。
遠慮
(
えんりょ
)
してくれていいのに
水煙
(
すいえん
)
。 いちゃいちゃしたいんですけど。
状況
(
じょうきょう
)
がそれを
許
(
ゆる
)
さへんだけやねん。なんとかして。 「アキちゃん、なんも変わったことはないか」
水煙
(
すいえん
)
は何かそわそわしたような顔で、まじめにそう
訊
(
たず
)
ねてきた。 変わったことなら、いっぱいあったけど。そういう意味じゃないのよね? アキちゃんは目を泳がせ、一度、助けを求めるように俺の顔を見たけど、結局自分で返事していた。 「なにもないと思うけど?」 「そうか? 俺は何か、
胸騒
(
むなさわ
)
ぎがするねん。虫の知らせか……」 虫なんかおるん、
水煙
(
すいえん
)
?
気色悪
(
きしょくわる
)
。虫おるんやって。 虫
湧
(
わ
)
いてますよ、この青い人。
気色悪
(
きしょくわる
)
。 ちなみに水地
亨
(
とおる
)
は虫なんかいません。クリーンです。クリーンな
亨
(
とおる
)
ちゃんです。 それでもまだ
水煙
(
すいえん
)
のほうが
清純
(
せいじゅん
)
派
(
は
)
やというんですか。 虫おるんですよ。俺のほうが
清純
(
せいじゅん
)
です。 「先代からなにか、知らせはなかったか」
前へ
666 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧