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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-93 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-93 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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26-93 トオル
一同
(
いちどう
)
の耳を
憚
(
はばか
)
るような、
一段
(
いちだん
)
落とした声で、
水煙
(
すいえん
)
はアキちゃんに
訊
(
たず
)
ねた。
水煙
(
すいえん
)
にとっては目の前で、
暁彦
(
あきひこ
)
様の話をしたくない
面々
(
めんめん
)
やったらしい。
朧
(
おぼろ
)
も、
蔦子
(
つたこ
)
さんも、ヘタレの
茂
(
しげる
)
もな。 「なんもない」
拗
(
す
)
ねた声を
無表情
(
むひょうじょう
)
で
隠
(
かく
)
し、アキちゃんは
断言
(
だんげん
)
していた。 「そうやろうか。でも俺は、
胸騒
(
むなさわ
)
ぎがするんや」
水煙
(
すいえん
)
はそれを、
確信
(
かくしん
)
してるっぽかった。 アキちゃんのおとんから
何事
(
なにごと
)
かコンタクトがあると、
宇宙人
(
うちゅうじん
)
なりの
勘
(
かん
)
で
察知
(
さっち
)
していたらしい。 UFOからの通信でもあったんか。母星からの電波でもキャッチしたんかな。
鋭
(
するど
)
い。 そしてそれは
水煙
(
すいえん
)
と、アキちゃんのおとんとの、
未
(
いま
)
だに切れてない
縁
(
えん
)
の
作用
(
さよう
)
なんかもしれへん。
皆
(
みな
)
のおかんにも、そういうのないか。家族の
誰
(
だれ
)
かが帰ってくるとか、電話かけてくるのを、その直前で
察知
(
さっち
)
するという、
超能力
(
ちょうのうりょく
)
。 なんか
困
(
こま
)
ったことある時に
限
(
かぎ
)
って、
突然
(
とつぜん
)
電話かけてきたり、今月ピンチ飯も食えへんていう時に、
偶然
(
ぐうぜん
)
宅急便
(
たっきゅうびん
)
で
冷凍
(
れいとう
)
の
煮物
(
にもの
)
送ってくるような、
神通力
(
じんつうりき
)
。 それは本来、人間なら
誰
(
だれ
)
でも持っている力。いわゆる第六感。虫の知らせや。
水煙
(
すいえん
)
の
胸
(
むね
)
に
棲
(
す
)
んでる虫が、知らせたらしい。アキちゃんのおとんから、なにか
連絡
(
れんらく
)
があると。 果たしてそれは、
大正解
(
だいせいかい
)
。ど真ん中。大当たりやった。 まさしく大当たり。
皆
(
みな
)
が
車座
(
くるまざ
)
に
座
(
すわ
)
る、
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
っかなソファセットのど真ん中に、その矢は
突
(
つ
)
き
立
(
た
)
った。 一体どこから飛んできてん。 どこから
射
(
い
)
たんやっていう、ものすごいど真ん中に、ものすごい速さで、
白羽
(
しらは
)
の
矢羽根
(
やばね
)
をつけた矢が、がつーんと
突
(
つ
)
き
刺
(
さ
)
さった。 うわあ、と
一同
(
いちどう
)
は
仰
(
の
)
け
反
(
ぞ
)
った。 その
驚愕
(
きょうがく
)
の真ん真ん中で、
白羽
(
しらは
)
の矢はびいんと、低い
唸
(
うな
)
りをあげて
震
(
ふる
)
え、その
軸
(
じく
)
に
結
(
ゆ
)
わえ
付
(
つ
)
けられている紙人形を、ぶるぶる
振
(
ふ
)
るわせていた。
皆
(
みな
)
があっけにとられる目の前で、紙人形は自分で自分を結びつけている、赤い糸をごそごそ
解
(
と
)
いた。 けっこう
手間取
(
てまど
)
ってから、糸はほどけ、はらりとテーブルの上に
舞
(
ま
)
い
落
(
お
)
ちた白い人型の紙切れは、なんつうかこう、
乗
(
の
)
り
物酔
(
ものよ
)
いした人がゲロってるみたいな、しんどいわあっていう、
四
(
よ
)
つん
這
(
ば
)
いのポーズでふるふるしていた。 その
腹
(
はら
)
んとこに、字が書いてあるのが見えた。
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
、と。 「
酔
(
よ
)
うたわぁ……」 息も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えみたいな声で、おとんが言うた。 いや、その、紙人形が言うたんや。 「おとん!?」 意外にも、この場の
誰
(
だれ
)
よりも早く、アキちゃんが
叫
(
さけ
)
んだ。 「おとんか!? おとんやろ!?」 アキちゃん、ソファから転げ落ちる
勢
(
いきお
)
いで、コーヒーテーブルの上でがっくり来ている紙人形に、すがりつかんばかりに
詰
(
つ
)
め
寄
(
よ
)
っていた。 かなり
異様
(
いよう
)
な
素早
(
すばや
)
い
反応
(
はんのう
)
やった。 「そうや……おとんやけど……ジュニア。俺、
吐
(
は
)
きそうやねん。あかんかったわ、この方法は」 返事しとるで、この紙人形。おかしいなあ。
普通
(
ふつう
)
の手紙はさ。
普通
(
ふつう
)
言うても、
霊能力
(
れいのうりょく
)
便が
普通
(
ふつう
)
とは言いづらいけども、
通常
(
つうじょう
)
、おかんから
届
(
とど
)
いた
奴
(
やつ
)
とかは、まず
伝言
(
でんごん
)
をする。 それがこいつらの
存在
(
そんざい
)
理由なんやしさ、
伝言
(
でんごん
)
を伝えるために力を
与
(
あた
)
えられてるんやもん。 せやけど、おとんから来た
矢文
(
やぶみ
)
の人形は、
伝言
(
でんごん
)
を
滔々
(
とうとう
)
と伝えはじめるような
気配
(
けはい
)
はこれっぽっちもなく、
普通
(
ふつう
)
にアキちゃんと会話していた。 「これやったら
直
(
じか
)
に話せるし、ナイスアイデアやと思うたんやけどな。ものすご
吐
(
は
)
きそうやで……」 「電話すりゃええやん、おとん! なんで
携帯
(
けいたい
)
の
電源
(
でんげん
)
切ってんの!?」 別にでかい声で話す必要ないんやで、アキちゃん。遠い電話やないんやから。 せやのに、うちのツレ、なんかもう必死みたいに、でっかい声で紙人形と話すんやもん。
四
(
よ
)
つん
這
(
ば
)
いでやで。 そんな
姿
(
すがた
)
に
若干
(
じゃっかん
)
、
幻滅
(
げんめつ
)
している俺がいる。 「
圏外
(
けんがい
)
やってん……」 息も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えみたいに、
吐
(
は
)
いている紙人形は言うた。 どこに
居
(
お
)
るのん、おとん。人外
魔境
(
まきょう
)
か。
携帯
(
けいたい
)
の電波
届
(
とど
)
かへんとこに
居
(
お
)
るのん? 「それより
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
かジュニア。ひとりで、あんじょうやってるか」 まだ
吐
(
は
)
きそうな声のまま、おとんは親らしいことを言うた。 「やってへん! やってるわけないやろ! なんやねんこれ!! 俺死ぬらしいで、おとん!」 ぎゃあぎゃあ
喚
(
わめ
)
いているアキちゃんに、おとん紙人形は、ああ、そのことか……と言うた。
気怠
(
けだる
)
そうに。水でも飲んでるみたいな声やった。 「心配せんでええ。おとんがなんとかしたる」 ごほごほ言いつつ、
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
人形は
請
(
う
)
け
合
(
あ
)
った。 そして、よっこらしょみたいに、コーヒーテーブルの上に
胡座
(
あぐら
)
かいた。 「大体なんやねん、男の子が、ちょっと死ぬくらいで、そんな泣きそうな声出すな。
格好悪
(
かっこうわる
)
いと思わへんのかお前は……」 ちょっと死ぬぐらいでか。そうやなあ。
確
(
たし
)
かに
格好悪
(
かっこうわる
)
いねんけどさ。 「えっ。ああ、なんでもない。言葉の
綾
(
あや
)
や。なんもないから心配せんでええよ。
風呂
(
ふろ
)
入るんか。うんうん、かまへん。ゆっくりしとき」
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椎堂かおる
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