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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-100 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-100 トオル
作者:
椎堂かおる
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674 / 928
26-100 トオル
綺麗
(
きれい
)
な
姉
(
ねえ
)
ちゃん
達
(
たち
)
が
半裸
(
はんら
)
で
踊
(
おど
)
る、そんな祭りやけども、南米のカルナヴァルは、キリスト教の祭りやねん。
民
(
たみ
)
の多くが土着の神を
捨
(
す
)
て、ヤハウェに
帰依
(
きえ
)
した。 アメリカ大陸は南北ともに、
北極海
(
ほっきょくかい
)
から
南氷洋
(
なんぴょうよう
)
まで、ずずずいっと、ヤハウェの
勢力圏
(
せいりょくけん
)
や。
踊
(
おど
)
り
狂
(
くる
)
う
姉
(
ねえ
)
ちゃんたちのエナジーも、
信仰心
(
しんこうしん
)
の一種として、
天界
(
てんかい
)
にいるヤハウェに
徴収
(
ちょうしゅう
)
される。 まるで大農園(プランテーション)から
収穫
(
しゅうかく
)
される、大量生産の
穀物
(
こくもつ
)
のように。 そこにはもう、古い神のための
食
(
く
)
い
扶持
(
ぶち
)
はない。 細々と
語
(
かた
)
り
継
(
つ
)
がれる昔話や、生き残った
呪術師
(
シャーマン
)
たちの
祀
(
まつ
)
る、
微
(
かす
)
かな
信仰
(
しんこう
)
の糸のほかには。 昔は
中南米
(
ちゅうなんべい
)
にも、いろんな神さんが
居
(
お
)
ったんやけどな。 それを
祀
(
まつ
)
る
巫覡
(
ふげき
)
も、
大勢
(
おおぜい
)
おったんやけども。 昔々や。昔の話。
俺
(
おれ
)
はそんな
過去
(
かこ
)
の栄光は、
滅多
(
めった
)
に
振
(
ふ
)
り
返
(
かえ
)
らへんねん。 思い出しても
虚
(
むな
)
しいだけや。今の身の
惨
(
みじ
)
めさが
募
(
つの
)
る。 いつもそう言うてたやろ? 古い名を思い出したのも、それがアキちゃんの役に立てばと思うたからやで。
俺
(
おれ
)
も
偉
(
えら
)
い神さんやったんやでアキちゃん、そこらの
蛇
(
へび
)
とちゃうねんでって、そんな
見栄
(
みえ
)
もあったかもしれへん。
俺
(
おれ
)
を選んで。
俺
(
おれ
)
が
居
(
お
)
れば、
他
(
ほか
)
の神なんか
要
(
い
)
らんやろ。
俺
(
おれ
)
も
偉大
(
いだい
)
な神やったんや。お前と連れ合う神として、不足はないはず。 そうやと思ってもらいとうて、ずっと
忘
(
わす
)
れていたことを、ついつい思い出しちゃったんやんか。
俺
(
おれ
)
ってちょっと、必死すぎ。 そんなん、名前だけ思い出したところで、なんにもならへん。
水煙
(
すいえん
)
には、勝たれへん。 アキちゃんをちっとも、助けてやられへんのやもん。 おとんが発見してきた、
俺
(
おれ
)
の
神格
(
しんかく
)
を上げる方法って、なに? そんなん、あるの? 教えてよおとん、
早
(
はよ
)
う教えてよ! そんなドーピングが
可能
(
かのう
)
なんやったら、
俺
(
おれ
)
にかて
見込
(
みこ
)
みはあるやんか! サンバ
中継
(
ちゅうけい
)
なんか
観
(
み
)
てる場合とちゃうから! と言いかけた
俺
(
おれ
)
の目の前で、テレビの中のレポーター
姉
(
ねえ
)
ちゃんが、あっと悲鳴を上げた。 それは陽気で
派手
(
はで
)
なサンバの曲と、かなりミスマッチな
悲痛
(
ひつう
)
な声やった。 あっ、あっ、あっ、と、お
姉
(
ねえ
)
ちゃんは
徐々
(
じょじょ
)
に
緊迫
(
きんぱく
)
する短い悲鳴を立て続けに上げ、テレビの画面はぐらぐら
揺
(
ゆ
)
れた。 カメラマンが
動揺
(
どうよう
)
したのか、それとも地面が
揺
(
ゆ
)
れているのか。 たぶんその両方やろう。
生中継
(
ライブ
)
と
枠
(
わく
)
取りされた画面の中で、遠い
異国
(
いこく
)
の街が、ぐらぐら
揺
(
ゆ
)
れていた。もうサンバどころやない。
地震
(
じしん
)
ですと、半泣きの声でレポーターが、
叫
(
さけ
)
んでいた。 日本側のスタジオの声が、
鈴木
(
すずき
)
さん、
鈴木
(
すずき
)
さんと、その女の名
呼
(
よ
)
んでいた。 あとは悲鳴。何語ともつかない悲鳴。 そして何かが
崩
(
くず
)
れ
落
(
お
)
ちる音。
地響
(
じひび
)
き。それから暗転。
無音
(
むおん
)
。 後に残された、
生中継
(
ライブ
)
という
枠
(
わく
)
だけが、真っ黒になった画面を
縁取
(
ふちど
)
っている。
動揺
(
どうよう
)
した泳ぐ目の、スタジオの人らの
映像
(
えいぞう
)
に、画面が急に
切
(
き
)
り
替
(
か
)
わった。 なんかの生番組をやってたらしい。四十八時間ずっとやるやつ。 そこのスタジオには同じ色のTシャツを着た、いろんなジャンルの
芸能人
(
げいのうじん
)
やらアナウンサーやらがいて、
皆
(
みな
)
一様に、ぽかんとしていた。なんやこれ、みたいな。
司会進行役
(
しかいしんこうやく
)
やったらしい、男女二人組のアナウンサーが、
鈴木
(
すずき
)
さんとかいう女の名を、まだ
繰
(
く
)
り
返
(
かえ
)
し
呼
(
よ
)
びかけていて、それから、ふと
我
(
われ
)
に返ったように、リオ・デ・ジャネイロで
地震
(
じしん
)
があった
模様
(
もよう
)
ですと、アナウンサーらしい声で
解説
(
かいせつ
)
をした。 「
地震
(
じしん
)
……? 日本やのうて?」
予言
(
よげん
)
が
外
(
はず
)
れたんやないかと、アキちゃんは思ったんやろな。
俺
(
おれ
)
も思った。 アキちゃんは、そう
呟
(
つぶや
)
いて、返事を求める目で、後ろに
座
(
すわ
)
っていた
蔦子
(
つたこ
)
さんを
振
(
ふ
)
り
返
(
かえ
)
った。 「日本だけやおへんのや、
坊
(
ぼん
)
」
険
(
けわ
)
しい
表情
(
ひょうじょう
)
で、
蔦子
(
つたこ
)
さんはアキちゃんの、問いかける目に答えてきた。
蔦子
(
つたこ
)
さんには、
視
(
み
)
えてたらしい。ずうっと前から、これから始まる一連の出来事が。 「この
度
(
たび
)
、天界に
昇
(
のぼ
)
られる
龍
(
りゅう
)
は、
盲目
(
もうもく
)
なんどす。
龍脈
(
りゅうみゃく
)
とかいうそうどすけども、気の流れる
道筋
(
みちすじ
)
に
添
(
そ
)
って、
三千世界
(
さんぜんせかい
)
を
彷徨
(
さまよ
)
っておいでや。あんたも感じたやろう。
行
(
い
)
き
過
(
す
)
ぎる
龍
(
りゅう
)
に
触
(
ふ
)
れたんどすやろ。あんたの
蓋
(
ふた
)
を開いていったんは、その
龍
(
りゅう
)
や」
俺
(
おれ
)
とアキちゃんがベッドで
抱
(
だ
)
き
合
(
お
)
うてるときに、なんか、でっかいモンが
通
(
とお
)
り
過
(
す
)
ぎていった。 それにシバかれてから、アキちゃんは
覡
(
げき
)
として
本格的
(
ほんかくてき
)
に
開眼
(
かいがん
)
してもうたんや。 しかしまさか、
龍
(
りゅう
)
にどつかれていたとは! 「天界へ
昇
(
のぼ
)
るための
扉
(
とびら
)
を
探
(
さが
)
してのたうつうちに、
龍
(
りゅう
)
は
時折
(
ときおり
)
、この
現世
(
げんせ
)
に
顕
(
あらわ
)
れるんどす。それがこうして、
地震
(
じしん
)
やら何やらの、
自然現象
(
しぜんげんしょう
)
として
発露
(
はつろ
)
します。そして最終的にはまた、ここへ
戻
(
もど
)
ってくる。この
神戸
(
こうべ
)
に。
神
(
かみ
)
の
戸
(
と
)
に。ここから天へお
昇
(
のぼ
)
りになるのや。神々のための、いと高き
位相
(
いそう
)
へとな」
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椎堂かおる
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