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26-101 トオル

 そして(りゅう)神格(しんかく)()びる。  より(えら)い神さんへとレベルアップや。  そしてもう、人界(じんかい)姿(すがた)(あらわ)すことはできんようになる。  霊威(れいい)が高すぎてヤバいんや。  いくつも(となり)位相(いそう)を通りすがっただけで、ぐらぐら地震(じしん)まで起きてまう。  そんなんが現実(げんじつ)にこの世に(あらわ)れ出たら、一体どないなるやろ。  そこが一番の問題点や。  かつて第二次世界大戦で、どないしてやってのけたんかは知らん、米軍は広島と長崎(ながさき)に、古代の神々を召喚(しょうかん)した。  ウラヌスとプルトーや。  どちらも古代ギリシア時代にはすでに天界へと(のぼ)ったハイクラスの神で、本来ならもう人界(じんかい)には姿(すがた)(あらわ)さへん。  それを()んでもうたせいで、あの惨事(さんじ)やないか。  ウラヌスやプルトーが邪神(じゃしん)やという(わけ)やない。  人界(じんかい)には強すぎる力を()(はな)ってもうたんや。  まさに狂気(きょうき)沙汰(さた)と言えよう。  人の身で、強大な神々を(あやつ)ろうというほうが、間違(まちが)っている。  戦争や、殺し合いやとなれば、人はどこまでも(くる)うもんやなんやろなあ。  それだけは、変わらへん。古代の川辺の(ころ)から、今現在(げんざい)(いた)るまで。たぶん未来永劫(みらいえいごう)、決して変わらん人間の(ごう)やろう。  幸いにして、今回降臨(こうりん)する東海(トムへ)の(りゅう)は、ウラヌスやプルトー(なみ)のデカ(ぶつ)ではない。  デカいことには変わりはないけど、原爆(げんばく)()みの惨事(さんじ)(おそ)いかかってくるわけではない。  (りゅう)はただ、未曾有(みぞう)大津波(おおつなみ)を起こすというだけや。  その津波(つなみ)こそが、(りゅう)そのものやねん。  人界(じんかい)(あらわ)れる時、東海(トムへ)の(りゅう)は、津波(つなみ)姿(すがた)をしているんや。  (たし)かに見た。蔦子(つたこ)さんが見せてくれた、水晶(すいしょう)玉の中の未来図には、渦巻(うずま)津波(つなみ)のただなかに、海の色した巨大(きょだい)(りゅう)がのたうっていた。  あれがそう。アキちゃんを食うという(りゅう)。東海(トムへ)の王や。 「神戸(こうべ)より、新たな神がお生まれになるというのは、喜ばしいことどす。(りゅう)()()けて(あらわ)れる龍脈(りゅうみゃく)の出口からは、良い気が(なが)()んで、この地を(うるお)すやろう。そやけど難儀(なんぎ)なんは、その龍神様(りゅうじんさま)が、なんのためかは知らん、よもや空腹(くうふく)ということもないやろに、神戸(こうべ)をまるごと食らうおつもりのようなんどす。それではいくら気が満ちようと、元も子もおへん。神戸(こうべ)を救い、ここから昇竜(しょうりゅう)を生んで、この(わざわ)いを(てん)じて(ふく)()さなあきまへん。それが今回の、あんたの仕事どす、秋津(あきず)(ぼん)」  蔦子(つたこ)さんはこの時はじめて、今回の大仕事の全体像(ぜんたいぞう)を話したやろう。  なんで今まで話さへんかったんや。  そりゃあもちろん、アキちゃんがビビって()げへんようにや。  神楽(かぐら)も言うてたやん。この人死ぬんやなあと思うたけど、(だま)っといたって。  それと同じ。蔦子(つたこ)さんも、肝心(かんじん)なところは、(だま)っといたんや。  それに(はら)が立つというより、(おれ)怖気(おぞけ)が立った。  秋津(あきつ)の人らって、平気なん。  ほんまのほんまに、三都(さんと)を守って命をかけてんのや。  そういう家なんや。ずうっと昔から、そういう家やったんや。  それで(みんな)、お屋敷(やしき)登与(とよ)様や、代々の秋津(あきつ)家のご当主様たちを、(あが)めていたんや。  現実(げんじつ)に、自分らを命がけで救ってきてくれた、鬼道(きどう)の王の家柄(いえがら)として。  おとんはまだその家の、当主のような声で話した。 「失敗すれば、お前も死ぬやろうけど、三都(さんと)甚大(じんだい)被害(ひがい)が出る。この(さい)(おのれ)の生き死にには頓着(とんちゃく)したらあかん。どうせ死ぬんや、暁彦(あきひこ)。成功して死ねれば(おん)()と思うしかない」  おとんの紙人形は、あっさりと話していたけど、その話は(はら)(ひび)いた。  実際(じっさい)そうして死んだ男が言うんやもん。  人身御供(ひとみごくう)として死んだおとんが、死んでも三都(さんと)が救われれば、それで成功やと思えというんや。  アキちゃんの顔つきも、(いま)だかつて無いほど(けわ)しかったよ。 「(こわ)いやろけど、びびったらあかんのやで、ジュニア。気を強く持て。おとんがついてる」  (はげ)ます紙人形を、アキちゃんはじっと、真顔(まがお)で見ていた。 「(こわ)くはない。まだ実感(じっかん)(わか)へんだけやろか。(こわ)くはないけど、おとん。(おれ)はまだ、死にたくないねん」  (けわ)しい目つきのまま、アキちゃんは弱音(よわね)みたいなことを言うてた。  でも何でやろ。それは全然、気弱(きよわ)なふうには聞こえへんかった。 「()げるつもりは毛頭(もうとう)ないねんけどな。でも(おれ)にはまだ、()きたい絵が、いっぱいあるんや。死にたない。死にたくないねん……」  (つぶや)くみたいに、そう言いながら、アキちゃんは(おれ)の手を、(にぎ)ってた。  ぎゅっと強く、()きつく(おれ)()き返すように、ものすごく強い、熱い手やった。 「分かるよ、暁彦(あきひこ)。お前は無念(むねん)なんやろ。心配するな。ただ、覚悟(かくご)は決めておけ」  (おれ)の手を(にぎ)っているアキちゃんの手が、(かす)かに(ふる)えているような気がした。  それでもアキちゃんは、おとんに見えるわけでもないのに、はっきりと強く、(うなず)いてみせていた。  もう覚悟(かくご)は決めてると、言うてるみたいに。

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