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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-111 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-111 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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26-111 トオル
寛太
(
かんた
)
はただ、
我慢
(
がまん
)
しとんねん。
兄貴
(
あにき
)
に
嫌
(
きら
)
われたくなくて。 自分のこと、好きになってほしくて、俺のほうがええよって、アピールしてんのや。
兄貴
(
あにき
)
好みのアホにもなれるし、
誰
(
だれ
)
かさんみたいに、キレて
怒鳴
(
どな
)
ったりせえへん。 八つ当たりもせえへん。
他
(
ほか
)
の男に死ぬほど
惚
(
ほ
)
れてたりもせえへん。
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
ぐしゃぐしゃにしても
文句
(
もんく
)
言わん。
背
(
せ
)
かて
兄貴
(
あにき
)
より全然小さい。 それでいて見た目は
朧
(
おぼろ
)
様
風味
(
ふうみ
)
。 どうや、俺のほうがええやろ、って、そんな
浅知恵
(
あさぢえ
)
やねん。
健気
(
けなげ
)
というかな。俺に言わせりゃ、それはそれでアホ。 コピーがオリジナルに勝てるわけないやん。 自分のネタで勝負せな。 それやと
結局
(
けっきょく
)
いつまでたっても、お前は
朧
(
おぼろ
)
様の
代用品
(
だいようひん
)
で、
信太
(
しんた
)
の
兄貴
(
あにき
)
は
忘
(
わす
)
れへん。好きやったけど
靡
(
なび
)
いてくれへんかった、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
のことを。
腹
(
はら
)
が立ったら怒ればええねん。
遥
(
よう
)
ちゃんみたいに。殺すぞゴルァ言うたればええねん。 お前にしかない
独自
(
どくじ
)
の
魅力
(
みりょく
)
で
迫
(
せま
)
ればええねん。
他
(
ほか
)
のやつなんか関係あらへん。 別れた
元彼
(
もとかれ
)
なんかな、関係あらへんねん。 ガツーン言ってやれ鳥さん。時には怒れ。 てめえはよくも俺の見てる目の前で、
他
(
ほか
)
のやつといちゃつきやがったな。
許
(
ゆる
)
せへん。 俺の気持ちも考えろ。 そんなもんを
拝
(
おが
)
まされて、俺がどんだけつらかったか、お前にはこの
胸
(
むね
)
の
痛
(
いた
)
みがわからへんのか。 なんでわかってくれへんねん。ひどいわ
兄貴
(
あにき
)
って、
怒
(
いか
)
り
狂
(
くる
)
うか泣きわめくかしてみろ。
一遍
(
いっぺん
)
だけでもええねん。 たぶん
信太
(
しんた
)
はそれを待ってる。 人間もやけど、
外道
(
げどう
)
もそうやねん。無い物ねだりや。
恋愛
(
れんあい
)
なんて
誰
(
だれ
)
でもそうやろ。 愛されてるという、
手応
(
てごた
)
えが
欲
(
ほ
)
しいんや。 好きや好きやだけでは足りへん。 お前が俺に本気やという、
証
(
あかし
)
が
欲
(
ほ
)
しいねん。
激
(
はげ
)
しい
情熱
(
じょうねつ
)
が。 それを見せてくれって、思ってまう時もあるんや。
虎
(
とら
)
はわがまま? まあ、そうや。そうやけど、
虎
(
とら
)
は心配やったんや。
寛太
(
かんた
)
のことが。 いつも、ぼやっとしてて、おかしい時の
朧
(
おぼろ
)
様みたい。 もしかして、鳥がそんなふうなのは、自分のせいやないかって、
鈍
(
にぶ
)
いなりに、
信太
(
しんた
)
も感付いてはいたんや。 そしてそれが、赤い鳥さんの
本性
(
ほんしょう
)
ではないことも、
虎
(
とら
)
は
見抜
(
みぬ
)
いていた。 いわばそれは
幼鳥
(
ようちょう
)
の
頃
(
ころ
)
の、
擬態
(
ぎたい
)
みたいなもん。
和毛
(
にこげ
)
を
脱
(
ぬ
)
いで、鳥はほんまもんの
不死鳥
(
ふしちょう
)
に成長せなあかん。 そうでないと、生きていかれへん。
信太
(
しんた
)
が生きてようが死のうが、それは変わらん。 このまま行くと、鳥さんはいずれ
飢
(
う
)
える。そういう定めなんや。 ここらで一発、
逆転
(
ぎゃくてん
)
しとかんと、
寛太
(
かんた
)
に未来はないんやで。 目覚めるべき時や、
神戸
(
こうべ
)
の
不死鳥
(
ふしちょう
)
として。 「
寛太
(
かんた
)
、しょんぼりしとうわ。
傍
(
そば
)
についててやってもいいでしょうか」
礼儀正
(
れいぎただ
)
しく
信太
(
しんた
)
が
訊
(
き
)
くと、アキちゃんは
頷
(
うなず
)
いた。 かまへん、というか、むしろそうしろみたいな感じで。
一礼
(
いちれい
)
して、立ち去る
信太
(
しんた
)
を見送ってから、やっと声が出たように、
秋尾
(
あきお
)
が言うた。 「
本間
(
ほんま
)
先生……
朧
(
おぼろ
)
ちゃん、おかしいわあ。昔はあんなん、無かったですよ。おかしなってる。
可哀想
(
かわいそう
)
やわ。なんとかしてやってください」
舞妓
(
まいこ
)
姿
(
すがた
)
の
袖
(
そで
)
で、口元を
覆
(
おお
)
って話す
秋尾
(
あきお
)
の顔は、心底
同情
(
どうじょう
)
している
表情
(
ひょうじょう
)
やった。
秋尾
(
あきお
)
はほんまに
朧
(
おぼろ
)
とは、気が
合
(
お
)
うたらしい。 どことなく、
似
(
に
)
たモンどうしやったんやろか。 「あんまりおかしなると、
外道
(
げどう
)
は
人界
(
じんかい
)
に
仇
(
あだ
)
を成すようになることもある。そしたら
斬
(
き
)
って
捨
(
す
)
てなあかんようになるで、
坊
(
ぼん
)
。
朧
(
おぼろ
)
は力をつけただけに、
放置
(
ほうち
)
はできひん」
脅
(
おど
)
すみたいに
膝
(
ひざ
)
詰
(
つ
)
めて、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
が
真剣
(
しんけん
)
そのものの面(つら)で言うていた。 アキちゃんは
素直
(
すなお
)
にそれに、びびったみたいやった。 「そんな
殺生
(
せっしょう
)
な、先生」
涙
(
なみだ
)
ぐみそうな
風情
(
ふぜい
)
で、
秋尾
(
あきお
)
が
哀
(
あわ
)
れっぽい声を出してた。 それがなおいっそう、お気の毒そうなムードを高めた。 「どっ……どないせえ言うんですか」 アキちゃん、どもってる。やっと
喋
(
しゃべ
)
れたのに、力入りすぎやから。 「どないもこないも無いわ。お前が
朧
(
おぼろ
)
の
主
(
あるじ
)
なんやろ。ご
自慢
(
じまん
)
の、
伝家
(
でんか
)
の
通力
(
つうりき
)
で、
朧
(
おぼろ
)
を
芯
(
しん
)
まで
誑
(
たら
)
し
込
(
こ
)
むか、それができひんのやったら、アキちゃんに返せ」
詰
(
つ
)
め
寄
(
よ
)
るアキちゃんに鼻を
寄
(
よ
)
せ、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
は、それしかないというふうに、
断言
(
だんげん
)
していた。 「返すて、返せんの!?」 アキちゃん、びっくりしてた。 そら返せるやろ。
蔦子
(
つたこ
)
さんがお前に
譲
(
ゆず
)
れたんやから。 お前もおんなじことして、おとんに
怜司
(
れいじ
)
兄さんを返せばええんやないか。 おとんは
明日
(
あした
)
、ここへ
戻
(
もど
)
ってくるて言うてんのやから。 というか、返せ。もう
要
(
い
)
らんやろ、
朧
(
おぼろ
)
様。 もともと、
鯰
(
なまず
)
の
餌
(
えさ
)
いるわということで、式(しき)になってもろたんやろ。
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
にはもう
信太
(
しんた
)
が行くんや。
怜司
(
れいじ
)
兄さんキープしとく必要ないやないか。 ちゃんと返してきなさい! 「アキちゃん
次第
(
しだい
)
やけどな。
要
(
い
)
らんもんを
押
(
お
)
しつけることはでけへんのや。
主
(
あるじ
)
が望んで、式(しき)もそれに
応
(
おう
)
じるんでないとな」
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椎堂かおる
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