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三都幻妖夜話(3)神戸編 26-122 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
26-122 トオル
作者:
椎堂かおる
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26-122 トオル
蔦子
(
つたこ
)
さんがそう
祈
(
いの
)
ると、
真
(
ま
)
っ
暗闇
(
くらやみ
)
やった夜の
天空
(
てんくう
)
に、
突然
(
とつぜん
)
まばゆい光の玉が
現
(
あらわ
)
れた。 最初、小さい玉やったそれは、次の
瞬間
(
しゅんかん
)
、一気に
爆発
(
ばくはつ
)
し、
夜
(
よる
)
の
闇
(
やみ
)
を
押
(
お
)
しのけ、真昼の太陽のような
一条
(
いちじょう
)
の光を、暗黒に落ちた
神戸
(
こうべ
)
に投げかけた。 それは天の
穴
(
あな
)
やった。 あたかも
黒雲
(
くろくも
)
にぽっかり開いた
穴
(
あな
)
から
陽
(
ひ
)
がさすように、夜の空にぽっかりと、
異界
(
いかい
)
への入り口が開いていた。 ただの
虎
(
とら
)
キチのおばちゃんやと思うていた
蔦子
(
つたこ
)
さんが、ほんまにどえらい
巫女
(
みこ
)
さんやった。 さすがは
秋津
(
あきつ
)
の
末裔
(
まつえい
)
や。
蔦子
(
つたこ
)
さんは
祈
(
いの
)
り、そして
真夜中
(
まよなか
)
の
神戸
(
こうべ
)
に、真昼の光を
召喚
(
しょうかん
)
したんや。 それは
大地震
(
だいじいしん
)
で
停電
(
ていでん
)
しているやろう街に、
灯
(
あか
)
りをもたらすためでもあるが、ただそれだけやない。 太陽の光には、強い
魔除
(
まよ
)
けの
効果
(
こうか
)
があるんや。 なんでそんなもんが必要やったんか。 それは前からずうっと、言われてきたことやんか。 死の
舞踏
(
ぶとう
)
や。
地震
(
じしん
)
とともに、死の
舞踏
(
ぶとう
)
が
現
(
あらわ
)
れる。 やつらは
鯰
(
なまず
)
に命をとられた
亡者
(
もうじゃ
)
どもで、
骨
(
ほね
)
になっており、それでも
冥界
(
めいかい
)
へは旅立てず、
迷
(
まよ
)
うて生きている者の命を
奪
(
うば
)
おうとする。 殺すしかない。もう
鬼
(
おに
)
や。 ぶっ殺してやって今度こそ、
冥界
(
めいかい
)
へ。 そして次の一生へと、送り出してやるのが、せめてもの
情
(
なさ
)
け。 明るい光を
正視
(
せいし
)
できずに、思わず顔を
背
(
そむ
)
けている
皆
(
みな
)
の
頭上
(
ずじょう
)
で、
再
(
ふたた
)
び
溢
(
あふ
)
れるような光の
爆発
(
ばくはつ
)
が起きた。 それと同時に、
甘
(
あま
)
く鼻をつく、
百合
(
ゆり
)
と
薔薇
(
ばら
)
との
芳香
(
ほうこう
)
が、温かな白い光とともに、あたりを
包
(
つつ
)
んだ。 これは! この
匂
(
にお
)
いには覚えがあるで。 天使や。天使が
降臨
(
こうりん
)
するときの
匂
(
にお
)
いやで。 トミ子!! 俺は、あのブスの登場を
予感
(
よかん
)
して、
眩
(
まぶ
)
しいのを
堪
(
こら
)
え、
闇
(
やみ
)
と光の
鬩
(
せめ
)
ぎ
合
(
あ
)
う
神戸
(
こうべ
)
の空を、必死で見上げた。 果たしてドブスはそこにいた。 ハープを
抱
(
だ
)
いて、ひらひらの白いローブをまとい、くるっくるに
縦
(
たて
)
ロールした長い
黒髪
(
くろかみ
)
を
靡
(
なび
)
かせ、足
痩
(
や
)
せに大成功した白い
生足
(
なまあし
)
を
晒
(
さら
)
して、ルネッサンス絵の中の天使のように、キメキメで天空に
舞
(
ま
)
っていた。 もちろん顔は見えへん。 まぶしい光に
包
(
つつ
)
まれていて。 「見よ、
異教
(
いきょう
)
の子らよ!」
朗々
(
ろうろう
)
と
響
(
ひび
)
く
神聖
(
しんせい
)
なる声で、トミ子はあたりに
呼
(
よ
)
びかけた。 「
神
(
かみ
)
の
戸
(
と
)
の、
岩戸
(
いわと
)
より、死の
舞踏
(
ぶとう
)
が
現
(
あらわ
)
れた。力ある者は
備
(
そな
)
えよ。
剣
(
けん
)
持て戦い、
悪魔
(
サタン
)
の
僕
(
しもべ
)
どもより人々を守るのだ。神はこの
聖戦
(
せいせん
)
を
祝福
(
しゅくふく
)
しておられる。
御心
(
みこころ
)
に
適
(
かな
)
う者には
栄光
(
えいこう
)
を!
聖霊
(
せいれい
)
の
祝福
(
しゅくふく
)
が
汝
(
なんじ
)
らに
常
(
つね
)
に
倍
(
ばい
)
する
霊力
(
ちから
)
を
与
(
あた
)
えるであろう。
主を誉め讃えよ
(
ハレルヤ
)
!」 トミ子が
女神
(
めがみ
)
のごとくそう
絶叫
(
ぜっきょう
)
すると、それを待っていたように、
神戸
(
こうべ
)
の
全天
(
ぜんてん
)
を取り
囲
(
かこ
)
む
輪
(
わ
)
のように、白く
輝
(
かがや
)
くひらひらした何かが、
激
(
はげ
)
しい光とともに
現
(
あらわ
)
れた。
主を誉め讃えよ
(
ハレルヤ
)
と、そいつらは
合唱
(
がっしょう
)
した。 数知れない、
妙
(
たえ
)
なる
美声
(
びせい
)
で。 あんぐりとして、俺らは空を見た。 天使の
群
(
む
)
れが
現
(
あらわ
)
れていた。 千や二千じゃきかへんで。 ひらひら、
生足
(
なまし
)
、白ローブ。
金髪
(
ブロンド
)
、赤毛に、
暗褐色
(
ブルネット
)
。
直毛
(
ちょくもう
)
、
巻
(
ま
)
き
毛
(
げ
)
に、ドレッドヘアまで。
肌
(
はだ
)
の色かて
様々
(
さまざま
)
な、ヤハウェが集めた
随神
(
ずいじん
)
たちが、
神戸
(
こうべ
)
の空に
舞
(
ま
)
い、ご主人様を
讃
(
たた
)
える
賛美歌
(
ゴスペル
)
を、
声高
(
こえたか
)
らかに歌い上げていた。 どいつもこいつも
呆
(
あき
)
れるような、
美貌
(
びぼう
)
の
若者
(
わかもの
)
やった。 美少年だらけやった。 むしろハーレムみたいやった。 しかもこれ、天国コレクションのごくごく一部ですから。 ヤハウェ。……ぜったい顔で選んでる。
瑞希
(
みずき
)
ちゃんもまさか、あの
合唱団
(
がっしょうだん
)
に入る予定やったん? 俺がそう思い、ついチラリと犬を見ると、すらりと
引
(
ひ
)
き
締
(
し
)
まった体つきの、黒い
猟犬
(
ハウンド
)
は、めっちゃ気まずそうに俺からサッと目を
逸
(
そ
)
らした。 しかしその
恥
(
は
)
ずかしいハレルヤ
唱
(
しょう
)
は、ただの歌やなかった。 それこそがヤハウェの
垂
(
た
)
れる
奇跡
(
きせき
)
や。 天使たちの歌声は、光る粉になって
降
(
ふ
)
り
注
(
そそ
)
ぎ、俺たちは光の雨を浴びた。 それを浴びるとものすごい、
霊力
(
ちから
)
が
漲
(
みなぎ
)
ってくるようやった。 これがスポーツ・バーでトミ子が
予言
(
よげん
)
していたアレや。
正念場
(
しょうねんば
)
につき大サービスで、
霊力
(
れいりょく
)
二倍のお約束や! 「トミ子ぉーーーー!!」 俺は思わず、
天空
(
てんくう
)
に
舞
(
ま
)
うドブスに
呼
(
よ
)
びかけていた。 ほんのちょっと
会
(
お
)
うてないだけやのに、なんやえらい、
懐
(
なつ
)
かしいて。 ブス
恋
(
こい
)
しなってもうて、ついつい
甘
(
あま
)
えたような、
嫁
(
よめ
)
に
逃
(
に
)
げられた
旦那
(
だんな
)
っぽい声になってもうた。 でも俺の声は、あいつのとこまで
届
(
とど
)
くんやろか。 ちょっと見ん
間
(
ま
)
に、またえらい天使っぽくなってもうて、キラキラ
輝
(
かがや
)
きながら空を飛んでる、でかい
一対
(
いっつい
)
の
翼
(
つばさ
)
を生やしたあの女に。 もちろん
届
(
とど
)
いた。 トミ子はキッと、俺のほうを見た。 そして
声高
(
こえたか
)
らかに言うた。 「トミ子やのうて、
聖
(
せい
)
スザンナ。ス・ザ・ン・ナやて言うてるやないの!
何遍
(
なんべん
)
言うたらわかるんや、あんたはぁ!!」 はいすみません。
亨
(
とおる
)
ちゃん、
怒
(
おこ
)
られたわ。 とうとう戦いの
火蓋
(
ひぶた
)
が、切って落とされようとしていた。
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
がすっくと立った。 「
戦
(
いくさ
)
や、
皆
(
みな
)
の
衆
(
しゅう
)
。俺の
太刀
(
たち
)
出せ、
秋尾
(
あきお
)
!」 はい先生と、
狐
(
きつね
)
が答えた。 いざ、
出陣
(
しゅつじん
)
の時やった。 ――第26話 おわり――
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椎堂かおる
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