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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-01 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-01 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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27-01 アキヒコ
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
先生
所蔵
(
しょぞう
)
の
太刀
(
たち
)
は、名を
飛燕
(
ひえん
)
という。 これまた、うちの
水煙
(
すいえん
)
と同じく、
伊勢
(
いせ
)
の
刀鍛冶
(
かたなかじ
)
の手によるもので、名工の
技
(
わざ
)
により打ち出された、神の
宿
(
やど
)
る
業物
(
わざもの
)
や。 それが
秋尾
(
あきお
)
さんに
次
(
つ
)
ぐ、
大崎
(
おおさき
)
先生の第二の式(しき)で、
秘蔵
(
ひぞう
)
の
懐刀
(
ふところがたな
)
でもある。
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
は
飛燕
(
ひえん
)
を、
秋津
(
あきつ
)
家より
拝領
(
はいりょう
)
した。
大崎
(
おおさき
)
先生が
覡
(
げき
)
として
独
(
ひと
)
り
立
(
だ
)
ちする時に、うちの
蔵
(
くら
)
にあった
幾多
(
いくた
)
の
名刀
(
めいとう
)
の中から選び出し、一
振
(
ぶ
)
りもらってきたという、
曰
(
いわ
)
くつきの
品
(
しな
)
や。 その事からも分かるように、
秋津
(
あきつ
)
の
覡
(
げき
)
は代々、
剣士
(
けんし
)
である。 それはまあ、当然の流れやろう。 なんせ
太刀
(
たち
)
の神である
水煙
(
すいえん
)
が、
若気
(
わかげ
)
の
至
(
いた
)
りでうっかり
興
(
おこ
)
した
血筋
(
ちすじ
)
なんやしな。
秋津
(
あきつ
)
の男子たるもの、
幼少
(
ようしょう
)
の
頃
(
ころ
)
より
木剣
(
ぼっけん
)
と
戯
(
たわむ
)
れ、
長
(
ちょう
)
じれば道場に通って
竹刀
(
しない
)
を
振
(
ふ
)
るい、やがて
一人前
(
いちにんまえ
)
になった
証
(
あかし
)
として、自分と
連
(
つ
)
れ
添
(
そ
)
う
刀剣
(
とうけん
)
を
拝領
(
はいりょう
)
する。
当主
(
とうしゅ
)
である場合は、それが
家宝
(
かほう
)
の
神刀
(
しんとう
)
・
水煙
(
すいえん
)
で、それ以外の男子の場合は、代々
所蔵
(
しょぞう
)
している
名刀
(
めいとう
)
の中から、連れ合いのおらん神さんをもらえる。
確
(
たし
)
かにうちの実家の
蔵
(
くら
)
には、
訳
(
わけ
)
の分からん道具類に
混
(
ま
)
じって、古い刀や
太刀
(
たち
)
がごろごろしていた。 まさかあれ全部に神が
宿
(
やど
)
っているとは、俺は
想像
(
そうぞう
)
もしたことがなかったけども、いるというんやから、いるんやろう。 どえらい
宝
(
たから
)
の山や、うちの
蔵
(
くら
)
。 当主になるということは、
通常
(
つうじょう
)
、その
霊的
(
れいてき
)
な
資産
(
しさん
)
を
受
(
う
)
け
継
(
つ
)
ぐということも意味していたけども、おとん
亡
(
な
)
き後、長らく当主の
座
(
ざ
)
を守っていたのは、
秋津
(
あきつ
)
登与
(
とよ
)
、うちのおかんであり、もちろんおかんは女やった。
他
(
ほか
)
の家ではどうか知らんが、
秋津
(
あきつ
)
では、女に
太刀
(
たち
)
や刀は
握
(
にぎ
)
らせへん。 あくまで
秋津
(
あきつ
)
の
巫女
(
みこ
)
は
豊穣
(
ほうじょう
)
を
祈
(
いの
)
るための
存在
(
そんざい
)
で、
斬
(
き
)
った
貼
(
は
)
ったはしいひんのや。 そやから、俺はおかんが
蔵
(
くら
)
から
刃物
(
はもの
)
を持ち出してきたところなんか、見たことはないし、そこに
眠
(
ねむ
)
っている
刀剣類
(
とうけんるい
)
が、どんなもんかは、よう知らん。
子供
(
こども
)
のころに悪さして、
蔵
(
くら
)
に
閉
(
と
)
じこめられていた時には、なんとはなしに
怖
(
おそ
)
ろしいもんやという気がしていた。
桐
(
きり
)
の箱に
仕舞
(
しま
)
われた、古い刀や
太刀
(
たち
)
の包みを
解
(
と
)
き、こっそり
覗
(
のぞ
)
いてみたことはあるものの、すぐに
蓋
(
ふた
)
閉
(
し
)
めて
逃
(
に
)
げた。 何が
怖
(
こわ
)
かったのか、俺にはさっぱり分かってへんかったけど、たぶん俺はその
武器
(
ぶき
)
たちの持つ
霊威
(
れいい
)
を
恐
(
おそ
)
れたんやろう。
子供
(
こども
)
心にな。
飛燕
(
ひえん
)
は美しい
太刀
(
たち
)
やった。 何とも言えへん
絶妙
(
ぜつみょう
)
の
反
(
そ
)
りに、波打つ海のような
刃紋
(
はもん
)
が
浮
(
う
)
かび、それに
乱
(
みだ
)
れかかるように、
飛
(
と
)
び
交
(
か
)
う
燕
(
つばめ
)
に
似
(
に
)
た
文様
(
もんよう
)
がある。それが名前の
由来
(
ゆらい
)
やろう。
神速
(
しんそく
)
の
太刀
(
たち
)
や。 その
切
(
き
)
っ
先
(
さき
)
は、速さにおいて
水煙
(
すいえん
)
を
凌
(
しの
)
ぐ。 ただし、あまりに速いので、
飛燕
(
ひえん
)
は自分を
振
(
ふ
)
るう
剣士
(
けんし
)
にうるさい。 タイミングや
呼吸
(
こきゅう
)
が合わへんと、キレるらしい。
怖
(
おそ
)
ろしいような
癇癪持
(
かんしゃくも
)
ちで、気が短い。 それゆえ長年、連れ合いがおらず、こう言うたらなんやけど、
業物
(
わざもの
)
とはいえ
難物
(
なんぶつ
)
として、ずうっとうちの
蔵
(
くら
)
で、
埃
(
(ほこり
)
を
被
(
かぶ
)
っていた
逸品
(
いっぴん
)
らしい。 なんでそれが
大崎
(
おおさき
)
先生の持ち物になったんか。 ぶっちゃけ
大崎
(
おおさき
)
先生は、ゴミをもろたんやと思う。 大きな声では言われへんのやけど、そもそも
飛燕
(
ひえん
)
がうちの
蔵
(
くら
)
に
収
(
おさ
)
まったんも、
扱
(
あつか
)
いに
困
(
こま
)
った持ち主が、次から次へと
飛燕
(
ひえん
)
を手放し、あちこちさすらううちに、この
太刀
(
たち
)
は少々、世を
拗
(
す
)
ねた。 本来、
神通力
(
じんつうりき
)
を持つ神の
太刀
(
たち
)
のはずが、
剣士
(
けんし
)
を死ぬまでこき使う
妖刀
(
ようとう
)
みたいになって、あともう一歩で
鬼
(
おに
)
ですよ
的
(
てき
)
なところまで、
煮詰
(
につ
)
まっていたらしい。 それを、うちの何代目かの当主が引き取ってきて
祀
(
まつ
)
り、とりあえず
蔵
(
くら
)
に
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
んだ。 そして
幾星霜
(
いくせいそう
)
。
飛燕
(
ひえん
)
は
延々
(
えんえん
)
、
秋津
(
あきつ
)
家で
死蔵
(
しぞう
)
されてきたというわけや。
生前
(
せいぜん
)
、俺のおとんは
絵師
(
えし
)
やったけど、もちろん
剣士
(
けんし
)
でもあった。 高い
霊力
(
れいりょく
)
を持った
優秀
(
ゆうしゅう
)
な
覡
(
げき
)
でもあった。
若
(
わか
)
い
頃
(
ころ
)
、いずれは神刀・
水煙
(
すいえん
)
と
連
(
つ
)
れ
添
(
そ
)
う定めではあったけども、
祖父
(
じい
)
さんが
存命
(
ぞんめい
)
の
頃
(
ころ
)
には、
水煙
(
すいえん
)
は
祖父
(
じい
)
さんのもんや。 そやから、
普段
(
ふだん
)
使いの
武器
(
ぶき
)
が
要
(
い
)
る。 おとんはモテモテ。
蔵
(
くら
)
で
唸
(
うな
)
っている神刀から、よりどりみどりのご身分で、その日の気分で得物(えもの)を
替
(
か
)
えた。
今日
(
きょう
)
はこの
太刀
(
たち
)
、
明日
(
あした
)
はこの
太刀
(
たち
)
、やっぱりやめて、この刀。 そんな
浮気
(
うわき
)
な、
腰
(
こし
)
のもんの定まらん
剣士
(
けんし
)
やったらしい。 その
背景
(
はいけい
)
には、いずれ自分は
水煙
(
すいえん
)
をモノにすんのやし、これという連れ合いがおらんほうがええというような
配慮
(
はいりょ
)
が、あったとかなかったとか。 どこまでほんまか知らん。 必要にかられて、この
柄
(
つか
)
、あの
柄
(
つか
)
を
握
(
にぎ
)
るものの、おとんの本命は
水煙
(
すいえん
)
と、そういうことになっていた。
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椎堂かおる
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