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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-02 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-02 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-02 アキヒコ
水煙
(
すいえん
)
は、うちが
所蔵
(
しょぞう
)
する
刀剣類
(
とうけんるい
)
の中でも、ずば
抜
(
ぬ
)
けた
霊力
(
れいりょく
)
を持つ
名刀
(
めいとう
)
として、
君臨
(
くんりん
)
していたわけや。 何がいいって、
惚気
(
のろけ
)
る
訳
(
わけ
)
ではないけども、
水煙
(
すいえん
)
はバランスがいい。 顔のやないで。顔もええけど、
剣
(
けん
)
として、
太刀
(
たち
)
としてのバランスや。
斬
(
き
)
って良し、
薙
(
な
)
いで良し、
突
(
つ
)
いて良し。 重からず軽からず、
独走
(
どくそう
)
はせず、
振
(
ふ
)
るう
剣士
(
けんし
)
の
技
(
わざ
)
の
限界
(
げんかい
)
の、ちょい先くらいを引き出してくれる、ようできた
剣
(
けん
)
なんや。
水煙
(
すいえん
)
あったら他はいらん。 おとんもそう思うたんやろな。 正式に家を
継
(
つ
)
ぐずっと前から、
老衰
(
ろうすい
)
していた
祖父
(
じい
)
さんの
名代
(
みょうだい
)
で仕事するときに、借りた
水煙
(
すいえん
)
を
振
(
ふ
)
るったことがあったらしいから。
浮気者
(
うわきもの
)
なようでいて、
剣
(
けん
)
については俺のおとんは、
水煙
(
すいえん
)
に
一途
(
いちず
)
であったわけやな。 そんな
状況
(
じょうきょう
)
に、静かにムカついている刀もおった。 それが
飛燕
(
ひえん
)
や。
名刀
(
めいとう
)
ハーレムみたいな
蔵
(
くら
)
に
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
まれて、当主も
若
(
わか
)
も俺には見向きもしいひん。
水煙
(
すいえん
)
ばっかりチヤホヤしよって。 それでも
飛燕
(
ひえん
)
のための
祭祀
(
さいし
)
は欠かさず行われ、
腹
(
はら
)
は空かんものの、
暇
(
ひま
)
で
暇
(
ひま
)
でしょうがない。 もういっぺん
娑婆
(
しゃば
)
に出て、
暴
(
あば
)
れたい。
暴
(
あば
)
れたい。
暴
(
あば
)
れたい……というのが、
飛燕
(
ひえん
)
の
抱
(
かか
)
える
鬱憤
(
うっぷん
)
で、そこへ
現
(
あらわ
)
れたのが当時、まだ
二十歳
(
はたち
)
にもならん
頃
(
ころ
)
のヘタレの
茂
(
しげる
)
や。 その時、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
は
消沈
(
しょうちん
)
していた。 俺のおとんが
出陣
(
しゅつじん
)
し、いずれ死ぬと
予言
(
よげん
)
されていたところに、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
はなんと
兵役
(
へいえき
)
検査
(
けんさ
)
をパスできず、
従軍
(
じゅうぐん
)
すらできひんかった。 したくもなかったけども、したくてもできんという
状況
(
じょうきょう
)
やった。
大崎
(
おおさき
)
先生は体が弱かったし、俺が初対面のときに思ったとおり、目が見えへんのや。
盲目
(
もうもく
)
やねん。
大崎
(
おおさき
)
先生が見てんのは、ありきたりの人間の
視界
(
しかい
)
とはちょっと
違
(
ちが
)
う。
霊的
(
れいてき
)
なものを見るための
眼力
(
がんりき
)
は人一倍あり、その点はずば
抜
(
ぬ
)
けてんのやけども、
視力
(
しりょく
)
検査
(
けんさ
)
の、ほら、あれやん、上とか下とか右
斜
(
なな
)
め上とか、あの記号が見えへんのや。 紙に書いてある字も、そこに
霊力
(
れいりょく
)
のこもる何かでないと見えへん。 それで
企業
(
きぎょう
)
の会長とかやってられんのかって? やってれらる。
優秀
(
ゆうしゅう
)
な
秘書
(
ひしょ
)
が
居
(
お
)
れば。 読むもんは
秋尾
(
あきお
)
さんが読んで聞かせ、書くもんは
秋尾
(
あきお
)
さんが書く。 服も
秋尾
(
あきお
)
さんが着せるし、
他
(
ほか
)
にも何か不足があれば、何もかも
狐
(
きつね
)
がやってくれる。 後は
慣
(
な
)
れがあれば、特に不自由なことないらしい。
霊視
(
れいし
)
のみの、
特殊
(
とくしゅ
)
な目を持って生きててもな。 けど
兵役
(
へいえき
)
検査
(
けんさ
)
はパスできひんかった。 それは
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
の人生最大の
汚点
(
おてん
)
らしい。
現代
(
げんだい
)
っ
子
(
こ
)
の俺にはようわからん感覚やけど、その当時、
従軍
(
じゅうぐん
)
できひんというのは
恥
(
はじ
)
やったらしいわ。
皆
(
みな
)
が命がけで戦う時代に、お前は日本軍の兵士になる
資格
(
しかく
)
がないと言われんのは、
途方
(
とほう
)
もない
恥
(
はじ
)
やった。 ほんま言うたら今は
亡
(
な
)
き、
大崎
(
おおさき
)
先生のご両親が、
一人息子
(
ひとりむすこ
)
を戦争で失いたくない一心で、やったらあかん金を動かしたらしい。
血筋
(
ちすじ
)
が
絶
(
た
)
えんように、当初、
一人
(
ひとり
)
っ
子
(
こ
)
には
兵役
(
へいえき
)
の
減免
(
げんめん
)
があったんや。 しかし、それを言うなら、うちのおとんかて、たったひとりの
跡取
(
あとと
)
り
息子
(
むすこ
)
やった。 そのアキちゃんが行くのに、なんで自分は行かんのかと、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
は
悩
(
なや
)
んだらしい。 おとんはそんな
凹
(
へこ
)
みまくっている
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
に、
蔵
(
くら
)
から一
振
(
ぶ
)
り、どれでも好きなの持っていって、
秋津
(
あきつ
)
の家を出ろと
勧
(
すす
)
めたそうや。 そして
独立
(
どくりつ
)
自営
(
じえい
)
の
覡
(
げき
)
として、自分の家を
興
(
おこ
)
せと、そういうことやな。 もともとお前は
養
(
やしな
)
い子、
秋津
(
あきつ
)
の一族ではないんやし、すでに一通りの
修行
(
しゅぎょう
)
を終えた今、なんでこの家にぐずぐず残ってんのや。
生家
(
せいか
)
に帰って家を
継
(
つ
)
げと、
放
(
ほう
)
り
出
(
だ
)
されて、それっきり。 その時、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
が選んだ、というか、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
を選んだのが、
飛燕
(
ひえん
)
やった。 当時まだ生きていた、うちの
親戚
(
しんせき
)
のオバチャンたちは、
茂
(
しげる
)
に
神刀
(
しんとう
)
をくれてやるなんてと、
否定的
(
ひていてき
)
やったらしいけど、選んだのが
飛燕
(
ひえん
)
やと聞いて、
飛燕
(
ひえん
)
やったらまあええかと思ったらしい。 どうでもええか、と。 つまりな、
飛燕
(
ひえん
)
は
秋津
(
あきつ
)
家から出された、
金属
(
きんぞく
)
ゴミやったんや。
棄
(
す
)
てられた
太刀
(
たち
)
なんや。
飛燕
(
ひえん
)
が
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
のどこを気に入ったかというと、実はどこでもあらへん。 ヘタレの
茂
(
しげる
)
にくっついていけば、
忌々
(
いまいま
)
しい
秋津
(
あきつ
)
の
蔵
(
くら
)
を出られる。それだけのことやったようや。
飛燕
(
ひえん
)
は
秋津
(
あきつ
)
家に
囚
(
とら
)
われていた神で、うちに
居
(
お
)
るのが
嬉
(
うれ
)
しいわけやなかったんやろな。 そんな、なしくずしのタッグやったけども、
大崎
(
おおさき
)
先生にとっては、その
縁組
(
えんぐ
)
みには
救
(
すく
)
いがあった。
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椎堂かおる
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