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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-03 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-03 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-03 アキヒコ
飛燕
(
ひえん
)
はとにかく速い。めちゃめちゃ速い。
神速
(
しんそく
)
とはまさにこのこと。ただの
太刀
(
たち
)
やない。 神が
憑
(
つ
)
いてて、好き勝手に動こうとする
太刀
(
たち
)
やねん。
柄
(
つか
)
を
握
(
にぎ
)
る
剣士
(
けんし
)
は、それについていくのでヒーヒーや。 ついていかれへんかったらキレるしな、
水煙
(
すいえん
)
みたいに
優
(
やさ
)
しくはないんやで。 文字通りキレて、
鎌鼬
(
かまいたち
)
のようなもんを発し、
我
(
わ
)
が
身
(
み
)
を
振
(
ふ
)
るうヘタレ
剣士
(
けんし
)
を血まみれにしてくれるらしい。 ヘタすると死ぬ。 キレた
飛燕
(
ひえん
)
は
風刃
(
ふうじん
)
で、自分の
柄
(
つか
)
を
握
(
にぎ
)
っていた
剣士
(
けんし
)
の首を
吹
(
ふ
)
っ
飛
(
と
)
ばしたこともあったらしい。 ほぼ
鬼
(
おに
)
や。 ぜひ、イタチと
改名
(
かいめい
)
することを
勧
(
すす
)
めたい。 そのほうが
合
(
お
)
うてる。
性悪
(
しょうわる
)
な
剣
(
けん
)
やねん。 俺ならそんな
性悪
(
しょうわる
)
の
太刀
(
たち
)
には
逆
(
ぎゃく
)
ギレ
必至
(
ひっし
)
やけども、
大崎
(
おおさき
)
先生はああ見えて、
辛抱強
(
しんぼうづよ
)
い。 そうでなきゃ、
秋津
(
あきつ
)
家みたいな変な家で、立場の弱い
養
(
やしな
)
い
子
(
ご
)
として
暮
(
く
)
らすのには、
耐
(
た
)
えられへんかったやろ。
水煙
(
すいえん
)
からして
大崎
(
おおさき
)
先生のことを、ヘタレの
茂
(
しげる
)
と
呼
(
よ
)
び
習
(
なら
)
わし、自分ちの子とは身分の
違
(
ちが
)
う
目下
(
めした
)
のモンとして、
一段
(
いちだん
)
低い
扱
(
あつか
)
いにしてきたんや。 それに
耐
(
た
)
え、
鬼道
(
きどう
)
の
修行
(
しゅぎょう
)
を積むうちに、
大崎
(
おおさき
)
先生には
負
(
ま
)
けず
嫌
(
ぎら
)
いの
性格
(
せいかく
)
と、その
性格
(
せいかく
)
には
似合
(
にあ
)
わん
忍耐強
(
にんたいづよ
)
さと
根性
(
こんじょう
)
が、いつしか
備
(
そな
)
わっていた。 キレる
飛燕
(
ひえん
)
にも、
大崎
(
おおさき
)
先生はキレへんかった。 その
太刀
(
たち
)
の持つ
通力
(
つうりき
)
を使いこなせるようになるまで、とにかく
頑張
(
がんば
)
った。 めちゃめちゃ
頑張
(
がんば
)
って、
我
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れるほどに、
剣
(
けん
)
の
修行
(
しゅぎょう
)
に打ちこんだ。 そうやないと、
耐
(
た
)
え
難
(
がた
)
いもんがあった。 日本が戦争に負け、他国の
占領
(
せんりょう
)
を受ける時代となり、自分はそれに手も足も出ず、
頼
(
たの
)
みの
兄貴
(
あにき
)
やったアキちゃんは死んで
戻
(
もど
)
ってきいひん。 戦後
処理
(
しょり
)
で、
秋津
(
あきつ
)
家も
大崎
(
おおさき
)
先生の実家も落ちぶれた。 人々は食うや食わずやった。 道ばたで親のおらん
子供
(
こども
)
が死んだ。 そういう
悲惨
(
ひさん
)
な時代やった。 その
耐
(
た
)
え
難
(
がた
)
きを
耐
(
た
)
え、
忍
(
しの
)
びがたきを
忍
(
しの
)
ぶのに、キレる
飛燕
(
ひえん
)
に付き
合
(
お
)
うて、めちゃくちゃ
頑張
(
がんば
)
るのは
都合
(
つごう
)
がよかった。 人間、体を動かしている
限
(
かぎ
)
り、
無心
(
むしん
)
になれる。 なんも
難
(
むずか
)
しいことは考えんでええし、
太刀
(
たち
)
と
舞
(
ま
)
う
無我
(
むが
)
の
境地
(
きょうち
)
の中で、自分を
支
(
ささ
)
えられるだけの力が
得
(
え
)
られることもあるやろう。
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
はひたすら
飛燕
(
ひえん
)
と
舞
(
ま
)
い、戦後の日本に次から次へ
湧
(
わ
)
く
鬼
(
おに
)
を
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
りまくり、その一方では
生家
(
せいか
)
である商家の
跡取
(
あとと
)
りとして、戦後の
好景気
(
こうけいき
)
に乗ったビジネスを
展開
(
てんかい
)
。 その
財力
(
ざいりょく
)
によって、
秋津
(
あきつ
)
家を
支
(
ささ
)
えた。
秋津
(
あきつ
)
家をやない。
秋津
(
あきつ
)
登与
(
とよ
)
、俺のおかんを。
認
(
みと
)
めたくはないけども。
大崎
(
おおさき
)
先生はうちのおかんと、
婚姻
(
こんいん
)
関係もないし、たぶん肉体関係もないんやろうけども、おかんの夫のようなもんやったんかもしれへん。 少なくとも、家族であったことは
確
(
たし
)
かやろう。
出征
(
しゅっせい
)
前夜
(
ぜんや
)
のおとんに家を出されて以来、
秋津
(
あきつ
)
家の一員ではない
建前
(
たてまえ
)
ではあるけども、それでも
大崎
(
おおさき
)
先生は、うちと
縁
(
えん
)
を切りはしいひんかった。 心では、
秋津
(
あきつ
)
家の家族のままやった。 それも、
秋津
(
あきつ
)
家のではないかもしれへん。アキちゃんと、
登与
(
とよ
)
姫
(
ひめ
)
と、お
蔦
(
つた
)
ちゃんのいる、その家の一員でありたいと、
大崎
(
おおさき
)
先生は願ってたんかもしれへん。 血の
繋
(
つな
)
がった実家の親よりも、
一緒
(
いっしょ
)
に育った
義兄弟
(
ぎきょうだい
)
たちのほうが、
大崎
(
おおさき
)
先生にとっては
親
(
した
)
しい相手やった。 それは言い
換
(
か
)
えると、特にこれといった
神通力
(
じんつうりき
)
など持たない、
一般人
(
パンピー
)
やった実の親や
親類
(
しんるい
)
よりも、同じ
鬼道
(
きどう
)
の世界を
視
(
み
)
ることのできる
秋津
(
あきつ
)
の子らのほうが、心底深く分かり合える相手やったんやろう。 その気持ちは、俺にはなんとなく分かるんや。
幼
(
おさな
)
い
頃
(
ころ
)
から、俺には人には見えへんもんが見えてもうて、苦労した。 正直言うて、
寂
(
さみ
)
しかったわ。 自分だけが
異質
(
いしつ
)
な人間に思えて、心の底から気を
許
(
ゆる
)
せる相手なんて、実は
一人
(
ひとり
)
もいいひんかったんやないか。 そこに同じような
境遇
(
きょうぐう
)
の、ほとんど同い年の兄弟たちが
居
(
お
)
って、
大崎
(
おおさき
)
先生はラッキーやった。 うちの
亡
(
な
)
き
親類
(
しんるい
)
たちは、ヘタレの
茂
(
しげる
)
に冷たかったらしいけど、おとんやおかんや
蔦子
(
つたこ
)
さんは、そうやなかった。
血筋
(
ちすじ
)
の子のひとりのように、
茂
(
しげる
)
ちゃんを受け入れた。 特におとんは、
性格
(
せいかく
)
が悪かったんか、いつも
偉
(
えら
)
そうで、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
をからかい、お
殿様
(
とのさま
)
面
(
づら
)
をし、時に
四条
(
しじょう
)
河原
(
がわら
)
で
酔
(
よ
)
いつぶれさせて
全裸
(
マッパ
)
に
剥
(
む
)
くような、
悲惨
(
ひさん
)
な目にあわせはしたものの、
基本的
(
きほんてき
)
には
優
(
やさ
)
しかったらしい。
友達
(
ともだち
)
か、
兄
(
にい
)
ちゃんとして
意地
(
いじ
)
悪いだけで、
茂
(
しげる
)
は
下賤
(
げせん
)
の
養
(
やしな
)
い
子
(
ご
)
というふうに、冷たくあしらいはしいひんかった。
偉
(
えら
)
い
秋津
(
あきつ
)
の
若殿様
(
わかとのさま
)
やという、
体面
(
たいめん
)
を守らなあかん
都合
(
つごう
)
の中で、ギリギリいっぱい
茂
(
しげる
)
ちゃんを
可愛
(
かわい
)
がっていた。
一緒
(
いっしょ
)
に
飯
(
めし
)
を食わせ、
一緒
(
いっしょ
)
に学ばせ、
凹
(
へこ
)
んでいたら
励
(
はげ
)
ましてやり、
鬼退治
(
おにたいじ
)
にも連れていった。 ええコンビやったと、
朧
(
おぼろ
)
も言うてたやろう。
確
(
たし
)
かにそうで、おとんは自分の
背中
(
せなか
)
を、
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
に守らせていた。 そんなもんは必要がない時でも、それは
茂
(
しげる
)
の受け持ちと、自分の
死角
(
しかく
)
を守らせた。
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