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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-05 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-05 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-05 アキヒコ
大崎
(
おおさき
)
先生がなんで俺に、平安コスなんかさせたんか。 ほんまになんでやねんて思い出すたび
目眩
(
めまい
)
してくんのやけども、
亨
(
とおる
)
はそれは、おとんコスを
朧
(
おぼろ
)
に見せてやって、ちょっと
萌
(
も
)
え
萌
(
もえ
)
えー、
癒
(
い
)
やされるやろ? みたいな話ちゃうんかって言うんや。 でも、ほんまにそうかな。 俺はちらっと思うんやけど。
大崎
(
おおさき
)
先生は単に自分が見たかったんやないか。俺がおとんの服着てるとこ。 つまりは
懐
(
なつ
)
かしいアキちゃんの
幻影
(
げんえい
)
を。 黒い平安服着て
水煙
(
すいえん
)
を
振
(
ふ
)
るう、
秋津
(
あきつ
)
の当主で
三都
(
さんと
)
の
巫覡
(
ふげき
)
の王様の、二十一歳やったアキちゃんの続きを、見たかっただけなんやないかな。 なんでおとんは、そんなにモテモテなんやろう。 俺と同じ顔やのに。 通力なんかたぶん俺のほうが上やのに。 モテモテ度で勝ててないような気がすんねんけど、なんでやろう。 何が足らんの、ジュニアには。 別にモテへんでもかまへんのやけど。俺には
亨
(
とおる
)
が
居
(
お
)
るんやし、
大崎
(
おおさき
)
先生にモテたかて
微妙
(
びみょう
)
すぎ。せやし別にかまへんのやけど。 気になるな。何が
違
(
ちが
)
うんや、俺とおとんは。 いざ
出陣
(
しゅつじん
)
、という
段
(
だん
)
に
至
(
いた
)
り、ヴィラ
北野
(
きたの
)
の中庭に、
水煙
(
すいえん
)
を
携
(
たずさ
)
え平安コスで立つ俺を見て、
大崎
(
おおさき
)
先生はものすご
険
(
けわ
)
しい顔つきやった。じろじろ見られた。 「
違
(
ちが
)
うな。しょせんは
猿真似
(
さるまね
)
か……」 フッ、みたいに笑って言われた。
爺
(
じい
)
さんに。 「おかしいなあ、
本間
(
ほんま
)
の
暁彦
(
あきひこ
)
。顔はそっくり同じみたいやのに、アキちゃんと同じ服着てて、同じ
太刀
(
たち
)
まで持ってんのに、一体なにが
違
(
ちが
)
うんやろか」 あかんなあ、みたいな
批評
(
ひひょう
)
を
垂
(
た
)
れて、
大崎
(
おおさき
)
先生は首を
振
(
ふ
)
っていた。 その手には、
鞘
(
さや
)
から
抜
(
ぬ
)
き
放
(
はな
)
たれた例の
妖刀
(
ようとう
)
・
飛燕
(
ひえん
)
が
握
(
にぎ
)
られていた。 あぜんと
眺
(
なが
)
める俺の目の前で、
大崎
(
おおさき
)
先生の右手に
握
(
にぎ
)
られていた
太刀
(
たち
)
はぐにゃりと
姿
(
すがた
)
を変え、にょろっと細長い、銀色の
滑
(
なめ
)
らかな毛皮をまとった、四つ足の小動物に変身していた。 そいつは
大崎
(
おおさき
)
先生の
黒絹
(
くろきぬ
)
の服を
容赦
(
ようしゃ
)
なく
引
(
ひ
)
っ
掻
(
か
)
いて
肩口
(
かたぐち
)
まで登り、赤い血のような目で、じいっと俺を見た。 「なんやねん、これが
秋津
(
あきつ
)
の
坊
(
ぼん
)
か」 キンキン
甲高
(
かんだか
)
く
響
(
ひび
)
く、
金属質
(
きんぞくしつ
)
の声で、そのイタチみたいな動物が言った。 やっぱりイタチやないかと、俺は思った。 「
貧相
(
ひんそう
)
やなあ、
茂
(
しげる
)
。お前のほうがマシや」 キンキン
嘲
(
あざけ
)
るように、イタチは俺に
嫌
(
いや
)
みを言っていた。 「あのまま
秋津
(
あきつ
)
の
蔵
(
くら
)
に残らんといてよかったわ。こんなんの持ち
物
(
もん
)
になってたんかと思うと、つくづく気が
滅入
(
めい
)
るわあ……」 イッヒッヒッヒッといかにも楽しそうに笑い、イタチはじとっと
嫌
(
いや
)
みったらしく俺のほうを流し見た。 いや、俺やのうて、俺の手に
握
(
にぎ
)
られている、
太刀
(
たち
)
に
戻
(
もど
)
った
水煙
(
すいえん
)
のほうを。 「気の毒やなあ、
水煙
(
すいえん
)
。こんなしょうもない
餓鬼
(
がき
)
んちょの
太刀
(
たち
)
になってもうて。ほんま
可哀想
(
かわいそう
)
やわなあ。イッヒッヒッヒッ」 言いながら笑う、
飛燕
(
ひえん
)
はほんまに
気味
(
きみ
)
が良いらしかった。 それを
淡々
(
たんたん
)
と
眺
(
なが
)
め、
水煙
(
すいえん
)
はちょっと、
失笑
(
しっしょう
)
したっぽかった。 「
久
(
ひさ
)
しぶりやな、
飛燕
(
ひえん
)
。
刃
(
は
)
こぼれもないようで何よりや」 「
刃
(
は
)
こぼれなんぞあるわけあるかい! 俺もさんざん血を
吸
(
す
)
うたからな。お前がどこぞで
寝
(
ね
)
とる
間
(
ま
)
に、俺はずうっとご
活躍
(
かつやく
)
やったんや。今さらのこのこ
戻
(
もど
)
ってきやがって、
偉
(
えら
)
そな面(つら)はさせへんで!」 いきなりブチキレ
口調
(
くちょう
)
になって、イタチは言うてた。 イタチやないわ。
飛燕
(
ひえん
)
。 「何を言うんや、このイタチが」
極
(
きわ
)
めてさらりと、
水煙
(
すいえん
)
は答えた。 その
瞬間
(
しゅんかん
)
、
飛燕
(
ひえん
)
の全身の毛が
逆立
(
さかだ
)
って、ハリネズミみたいになっていた。 「
誰
(
だれ
)
がイタチや、もういっぺん言うてみろ、このグニャグニャ
野郎
(
やろう
)
」 ぷんすか怒っているハリネズミみたいになったイタチが、
大崎
(
おおさき
)
先生の
肩
(
かた
)
の上で、ぴょんぴょん
跳
(
は
)
ねてた。
腹立
(
はらた
)
ってもうて、じっとしてられへんみたいやった。 それを
大崎
(
おおさき
)
先生は
迷惑
(
めいわく
)
そうに首を
倒
(
たお
)
して
斜
(
ななめ
)
に見ていた。
客観的
(
きゃっかんてき
)
に見ても、どうしようもない
懐刀
(
ふところがたな
)
やった。 どうりで
秘密
(
ひみつ
)
にするわけや。 今まで
大崎
(
おおさき
)
先生が
太刀
(
たち
)
を持ち出してきたような事は、いっぺんも無かったが、そらできれば出したくないわ。このイタチはな。 「どう見てもイタチや、お前は」
水煙
(
すいえん
)
は
極
(
きわ
)
めて冷静にそう言うた。 俺もそう思う。イタチに見えるに一票いれる。 「なんやとこの
野郎
(
やろう
)
! イカ! タコ! クラゲ!」
飛燕
(
ひえん
)
はキイキイ言い続けていた。
水煙
(
すいえん
)
はそれを
難
(
なん
)
なくスルー。言われ
慣
(
な
)
れてるようやった。
飛燕
(
ひえん
)
の小うるさい
芸風
(
げいふう
)
は、
水煙
(
すいえん
)
の覚えている
限
(
かぎ
)
り、
室町時代
(
むろまちじだい
)
ぐらいから変わってへんらしい。 まさに時代を
超
(
こ
)
える
小物
(
こもの
)
っぷりやった。 「もう、そのくらいにしとけ、
飛燕
(
ひえん
)
。これは
神事
(
しんじ
)
なんや。
不謹慎
(
ふきんしん
)
やで……」
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椎堂かおる
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