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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-12 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-12 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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708 / 928
27-12 アキヒコ
呆
(
あき
)
れたように、
誰
(
だれ
)
かが
喋
(
しゃべ
)
った。 ビリッと
痺
(
しび
)
れるような、
威勢
(
いせい
)
のいい声やった。 それが
誰
(
だれ
)
か、俺は
一瞬
(
いっしゅん
)
悩
(
なや
)
んだけども、
悩
(
なや
)
むまでもない話やった。
雷電
(
らいでん
)
や。
雷電
(
らいでん
)
が、
喋
(
しゃべ
)
ったんや。 そらそうやろな。
水煙
(
すいえん
)
が
喋
(
しゃべ
)
り、
飛燕
(
ひえん
)
が
喋
(
しゃべ
)
るんやから、
雷電
(
らいでん
)
かて
喋
(
しゃべ
)
る。 そういう
剣
(
けん
)
なんや。
魂
(
たましい
)
が宿り、心がある。ただの鉄くずやないんや。
師範
(
しはん
)
の右手に
握
(
にぎ
)
られていた
剣
(
けん
)
が、
一瞬
(
いっしゅん
)
の
稲光
(
いなびかり
)
のような
閃光
(
せんこう
)
とともに、変転した。人型に。 それはそれは気まずいような、
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
に
灼
(
や
)
けた色合いの、すらりと細い
裸体
(
らたい
)
やった。少年の。
剣
(
けん
)
てヌードが
基本
(
きほん
)
なん? なんで
裸
(
はだか
)
なん?
水煙
(
すいえん
)
も、
雷電
(
らいでん
)
も。
一応
(
いちおう
)
言うなら
飛燕
(
ひえん
)
もか。まあどうでもええか
飛燕
(
ひえん
)
は。
水煙
(
すいえん
)
が
青鬼
(
あおおに
)
さんやったら、
雷電
(
らいでん
)
は
赤鬼
(
あかおに
)
さん。 その赤い
肌
(
はだ
)
した、まるで
華奢
(
きゃしゃ
)
なような長く細い
腕
(
うで
)
で、
雷電
(
らいでん
)
は
絡
(
から
)
みつくように
師範
(
しはん
)
に
抱
(
だ
)
きついていた。 体重がないみたいに、
宙
(
ちゅう
)
に
浮
(
う
)
いてる。
触
(
ふ
)
れるとビリビリ
痺
(
しび
)
れそうな、
帯電
(
たいでん
)
した空気をまとって、にやにや笑っている顔は意地悪そうでな。今さら言うまでもないかもしれへんけど、
美貌
(
びぼう
)
やった。 俺はなるべく
雷電
(
らいでん
)
の顔は見ないようにした。 だって、この
土壇場
(
どたんば
)
で何やかんやあるとヤバいから! 「
久
(
ひさ
)
しぶりやなあ、
浩一
(
こういち
)
。なんやねんこの
髭
(
ひげ
)
は。見苦しい」
師範
(
しはん
)
の
髪
(
かみ
)
を
掴
(
つか
)
み、もう
片方
(
かたほう
)
の手の平で、
雷電
(
らいでん
)
は
髭
(
ひげ
)
を
蓄
(
たくわ
)
えた
師範
(
しはん
)
の
頬
(
ほお
)
から
下顎
(
したあご
)
をさわりと
撫
(
な
)
でた。 その指は、
優
(
やさ
)
しく
甘
(
あま
)
いような
仕草
(
しぐさ
)
やったのに、それでも
鋭
(
するど
)
い
刃
(
やいば
)
やったようで、
師範
(
しはん
)
の顔を
覆
(
おお
)
っていた
髭
(
ひげ
)
が
剃
(
す
)
られ、その下にあった顔が
露
(
あら
)
わになった。
師範
(
しはん
)
て案外、色白い。そういいうのが第一印象やったかな。 こんな顔やったんや
師範
(
しはん
)
。
子供
(
こども
)
のころからずっと、
師範
(
しはん
)
は
髭
(
ひげ
)
のおっさんて、そういう
印象
(
いんしょう
)
しかなくてな、どんな顔やか、実はよう見てへんかったんかもしれへんわ。 知らんかった。
師範
(
しはん
)
てけっこう、男前やったんや。 いかにも和風の、切れ長の
一重瞼
(
ひとえまぶた
)
で、色白きりりの、
剣豪
(
けんごう
)
青年みたいやねん。 いや、青年というにはちょっと、トシ食いすぎか。 でもきっと、
若
(
わか
)
い
頃
(
ころ
)
にはほんまに、
格好良
(
かっこよ
)
かったんやないか。 まさか高校生の
頃
(
ころ
)
から
髭面
(
ひげづら
)
ってことはないやろ、そんなん
校則
(
こうそく
)
で
禁止
(
きんし
)
やねんから。
小夜子
(
さよこ
)
さんが
剣道
(
けんどう
)
の大会で
見初
(
みそ
)
めた
頃
(
ころ
)
の
師範
(
しはん
)
て、きっと、
乙女
(
おとめ
)
が
一目惚
(
ひとめぼ
)
れするような、
格好
(
かっこ
)
ええ男やったんやで。 そして
師範
(
しはん
)
はそれからほとんど、変わってへん。 青年というには
老
(
ふ
)
けたかな、という
程度
(
ていど
)
。
実年齢
(
じつねんれい
)
から見ると、
異様
(
いよう
)
に
若
(
わか
)
い。 とても
小夜子
(
さよこ
)
さんの
旦那
(
だんな
)
とは思えへん。
師範
(
しはん
)
のほうが
一応
(
いちおう
)
、年上のはずやけど、ヘタすると
若
(
わか
)
いおかんと、その
息子
(
むすこ
)
みたいに見える。 そうやねん。ありがちな話やけどな、
霊振会
(
れいしんかい
)
では。
通力
(
つうりき
)
の強い
者
(
もん
)
は、
加齢
(
かれい
)
が
遅
(
おそ
)
い場合がある。
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
もそういう
一人
(
ひとり
)
やった。 俺のおかんがめちゃめちゃ
若
(
わか
)
いのと
一緒
(
いっしょ
)
や。 長年
血筋
(
ちすじ
)
に
降
(
ふ
)
り
積
(
つ
)
もった
通力
(
つうりき
)
が、
師範
(
しはん
)
の肉体を
常人
(
じょうじん
)
からかけ
離
(
はな
)
れたモンにしてもうてたわけ。 そして
師範
(
しはん
)
は、それを
隠
(
かく
)
したかった。
奥
(
おく
)
さんには。 自分が
只人
(
ただびと
)
ではないことは、
隠
(
かく
)
しておきたかったんや。 でももうそれも、
限界
(
げんかい
)
なんとちがうの。だってやっぱ、どう見ても変やもん。 向き合って
微
(
かす
)
かに
呆然
(
ぼうぜん
)
としてる、
小夜子
(
さよこ
)
さんの
姿
(
すがた
)
と、
雷電
(
らいでん
)
を
抱
(
だ
)
いて立つ
師範
(
しはん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見比
(
みくら
)
べると、その
二人
(
ふたり
)
の間は、深くて遠い
隔
(
へだ
)
たりがある。 「
浩一
(
こういち
)
さん……?」 あなた
誰
(
だれ
)
、みたいなニュアンスを
含
(
ふく
)
んだ声で、
小夜子
(
さよこ
)
さんは小さく
訊
(
き
)
いた。 それが
常人
(
じょうじん
)
の
反応
(
はんのう
)
か。 俺も
驚
(
おどろ
)
きはしたけども、
師範
(
しはん
)
は俺が思ってるより、強い
通力
(
つうりき
)
があるんやなあて、思った
程度
(
ていど
)
やったわ。 なんで
若
(
わか
)
いのドン引きや、とかは思わんかった。 だって、そんなんもう、
見慣
(
みな
)
れてもうてんのやもん。
外見
(
がいけん
)
とトシが
釣
(
つ
)
り
合
(
あ
)
わんような
奴
(
やつ
)
ばっかりなんやで、俺の
周
(
まわ
)
りには。 「
小夜子
(
さよこ
)
。
戻
(
もど
)
ったら、説明する」 「今さら何を説明するんや、
浩一
(
こういち
)
。これは話して分かるような女やないやろ。西洋かぶれしてもうて、手前(てめえ)の家の
神棚
(
かみだな
)
も、いっぺんも
拝
(
おが
)
んだことがない。
異教
(
いきょう
)
の女やないか」
甘
(
あま
)
く
媚
(
こ
)
びるように言うて、
雷電
(
らいでん
)
は
抱
(
だ
)
きついた
師範
(
しはん
)
の
顎
(
あご
)
にできてた、
微
(
かす
)
かな
剃
(
そ
)
り
傷
(
きず
)
からベロリと、
遠慮
(
えんりょ
)
もなく
滲
(
にじ
)
んだ血を
舐
(
な
)
めた。 赤い
舌
(
した
)
やった。
燃
(
も
)
える火のような。 「お前もおとんの言うこときいて、名だたる
巫女
(
みこ
)
と
縁組
(
えんぐ
)
みすればよかったんや。そしたら
今頃
(
いまごろ
)
、
跡取
(
あとと
)
りもおったやろうし、俺かて何年も
日照
(
ひで
)
りに
喘
(
あえ
)
ぎはせえへんかった」 切なげに、
雷電
(
らいでん
)
は
師範
(
しはん
)
の耳の後ろあたりに顔を
埋
(
う
)
めてキスをした。 じゃれつく
猫
(
ねこ
)
のように。あるいは、まるで、古い古い
恋人
(
こいびと
)
のように。 「何年も
変転
(
へんてん
)
せえへんかったら、俺はやりかた
忘
(
わす
)
れてまうわ。お前は俺に、ずうっと
剣
(
けん
)
のままで
居
(
お
)
れというんか。
神棚
(
かみだな
)
祀
(
まつ
)
って
鬼斬
(
おにき
)
って、それで
終
(
しま
)
いか、
浩一
(
こういち
)
。つれないなあ、お前は……」 それで
終
(
しま
)
いでない時が、あったかのような口ぶりやった。
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椎堂かおる
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