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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-13 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-13 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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709 / 928
27-13 アキヒコ
師範
(
しはん
)
はそれにも、
無表情
(
むひょうじょう
)
やった。 まさに鉄の
無表情
(
むひょうじょう
)
。
甘
(
あま
)
く
絡
(
から
)
みついてくる、
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
に
燃
(
も
)
えた
獣
(
けもの
)
のような、長い
巻
(
ま
)
き
毛
(
げ
)
の
剣
(
けん
)
の
精
(
せい
)
なんか、この世に
居
(
お
)
らんかのような、
平静
(
へいせい
)
さやった。
実際
(
じっさい
)
そうかもしれへん。
雷電
(
らいでん
)
は、この世に
居
(
お
)
らん。
一般的
(
いっぱんてき
)
な意味では。
小夜子
(
さよこ
)
さんの住んでいる、
一般的
(
いっぱんてき
)
な
位相
(
いそう
)
では、
剣
(
けん
)
が人型に化けたり、
喋
(
しゃべ
)
ったりすることなんか、ありえへん。 だってただの道具やし、鉄なんやから。 しかし聞くところによると、
雷電
(
らいでん
)
も
出自
(
しゅつじ
)
は
隕
(
いん
)
鉄(いんてつ)らしい。 ただし
雷電
(
らいでん
)
は
水煙
(
すいえん
)
とは
違
(
ちが
)
い、地面に落ちた。
墜落
(
ついらく
)
の
突風
(
とっぷう
)
と熱で、あたりの森林をなぎ
倒
(
たお
)
して
焼
(
や
)
き
払
(
はら
)
い、その時受けた地球の大地との
猛烈
(
もうれつ
)
な
摩擦
(
まさつ
)
によって、
今以
(
いまもっ
)
てなお
帯電
(
たいでん
)
している。びりびり
痺
(
しび
)
れる神さんや。
水煙
(
すいえん
)
よりは
随分
(
ずいぶん
)
若
(
わか
)
いが、それでも人のタイムスケールで見れば、
恐
(
おそ
)
ろしくトシを食っている。 こいつも
宇宙
(
うちゅう
)
から来た神さんやねん。 そして
水煙
(
すいえん
)
より
若
(
わか
)
い分、
水煙
(
すいえん
)
ほどには
堪
(
こら
)
え
性
(
しょう
)
がない。 それともそれは単に、
性格
(
せいかく
)
の問題やろか。
猛烈
(
もうれつ
)
燃
(
も
)
えてる。 「さあ行こう、
浩一
(
こういち
)
。こんな、しょうもない女なんか
放
(
ほ
)
っておいて、俺と
一戦
(
いっせん
)
交
(
まじ
)
えよか」
骨
(
ほね
)
との戦いのことを言うてんのやろうけど、
雷電
(
らいでん
)
の息は
微
(
かす
)
かに
喘
(
あえ
)
いでた。
技
(
わざ
)
を
尽
(
つ
)
くした戦いは、こいつら
剣
(
けん
)
の神にとってはアレや。
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
うて
喘
(
あえ
)
ぐのと同じ。
水煙
(
すいえん
)
かて、思い通りの
技
(
わざ
)
が決まれば、いつも決まって、熱い熱い
溜息
(
ためいき
)
をつく。 「
浩一
(
こういち
)
さん……」
雷電
(
らいでん
)
は、
師範
(
しはん
)
の
顎
(
あご
)
を
引
(
ひ
)
き
寄
(
よ
)
せて、その
唇
(
くちびる
)
に口付けようとした。 それはさすがの
師範
(
しはん
)
も、
無視
(
むし
)
はしいひんかった。
避
(
よ
)
けたんや。顔を
背
(
そむ
)
けて、神の
接吻
(
せっぷん
)
を
拒
(
こば
)
んだ。
雷電
(
らいでん
)
はそれに、
微
(
かす
)
かに顔をしかめ、
師範
(
しはん
)
の名を
呼
(
よ
)
ぶ
小夜子
(
さよこ
)
さんは、それに、さらに
呆然
(
ぼうぜん
)
として見えた。
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
は
雷電
(
らいでん
)
を、
伝家
(
でんか
)
の
宝刀
(
ほうとう
)
として、お
父
(
とう
)
さんから
世襲
(
せしゅう
)
したんやと思う。 そのへん
詳
(
くわ
)
しく
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
んで
訊
(
き
)
いたことはないけども、だいたいの
察
(
さっ
)
しは付くわ。どうせ、
秋津
(
あきつ
)
家と大差ない
事情
(
じじょう
)
なんやろ。
剣豪
(
けんごう
)
の
血筋
(
ちすじ
)
に、
剣
(
けん
)
の神が
憑
(
つ
)
いていて、熱く
燃
(
も
)
えてるその神は、時々
接吻
(
せっぷん
)
を
強請
(
ねだ
)
る。 血もよこせと
強請
(
ねだ
)
る。 そして
他
(
ほか
)
のモンも、時には
強請
(
ねだ
)
る。 それを
拒
(
こば
)
むのは
非礼
(
ひれい
)
やないやろか。 ご
神刀
(
しんとう
)
なんやし、まして
雷電
(
らいでん
)
は
美貌
(
びぼう
)
の神やった。見ているだけで
痺
(
しび
)
れるような。 それと一体になって
舞
(
ま
)
い、その
刃
(
は
)
の
鋭
(
するど
)
さに
震
(
ふる
)
えた後に、熱い
腕
(
うで
)
で
甘
(
あま
)
く
抱
(
だ
)
かれて、
拒
(
こば
)
める
奴
(
やつ
)
がどんだけおるやろ。 それには鉄の
意志
(
いし
)
がいるわ。 そして
師範
(
しはん
)
には、その鉄の
意志
(
いし
)
があったってことやろ。
師範
(
しはん
)
は神として、
雷電
(
らいでん
)
のことは
崇
(
あが
)
めていたけど、でも
小夜子
(
さよこ
)
さんを愛してた。
祀
(
まつ
)
りはしても、それだけやった。 ただ、朝な夕なに
拝
(
おが
)
むだけ。 時には
祝詞
(
のりと
)
も上げてやったかもしれへん。 お前は美しい、
素晴
(
すば
)
らしい神や。心から
崇
(
あが
)
めてる。そう言いはするけど、
師範
(
しはん
)
にとっては
雷電
(
らいでん
)
は、親から
託
(
たく
)
された
重荷
(
おもに
)
でしかなかった。 それを
拒
(
こば
)
み
続
(
つづ
)
ける
限
(
かぎ
)
りはな。 「
因果
(
いんが
)
ななぁ……」
皮肉
(
ひにく
)
とも、
同情
(
どうじょう
)
ともつかん
響
(
ひび
)
きで、
水煙
(
すいえん
)
がぼやいた。 俺も
水煙
(
すいえん
)
を、同じ
境遇
(
きょうぐう
)
に追いやっているとも言える。
師範
(
しはん
)
ほどの鉄の
意志
(
いし
)
がないだけで、
結論
(
けつろん
)
を言えば同じやないか。
水煙
(
すいえん
)
を
蔵
(
くら
)
に
片付
(
かたづ
)
けて、別のとばかり愛し合っている。 それは正しいことか。それとも
間違
(
まちが
)
ってんのか。俺にはもう、ようわからん。 「そんなん、
土壇場
(
どたんば
)
でやらんと、前もって話つけとけ、ドアホ」 ケッと
吐
(
は
)
き
捨
(
す
)
てるように、銀色のイタチが
喋
(
しゃべ
)
った。
太刀
(
たち
)
のままでやけど、もう、
一遍
(
いっぺん
)
正体見てもうたら、こまっしゃくれたイタチしか頭に
浮
(
う
)
かばへんから。何のロマンもない。 「しょうがない……
浩一
(
こいつ
)
が俺とは口きかんのや。
封印
(
ふういん
)
されてもうて、化けることもでけへん。今になってやっと、ここで一息つけた。なんや
今日
(
きょう
)
は、ただならぬ
霊気
(
れいき
)
が、
漲
(
みなぎ
)
っているようやな」 ヤハウェ様の
霊力
(
れいりょく
)
二倍ボーナスエリアやから。 この時ホテルのロビーからでは、見えてへんかったけども、
神戸
(
こうべ
)
の上空には、全天を
覆
(
おお
)
う天使たちが手に手をとった天使の
鎖
(
くさり
)
が、大きな
円環
(
えんかん
)
になって、
巨大
(
きょだい
)
な
結界
(
けっかい
)
を
形作
(
かたちづく
)
っていた。
神戸
(
こうべ
)
から何者も出さず、
神戸
(
こうべ
)
に何者も
侵入
(
しんにゅう
)
させへん、
天使
(
てんし
)
たちの
神戸
(
こうべ
)
封鎖
(
ふうさ
)
や。
鯰
(
なまず
)
や
骨
(
ほね
)
を外へ
漏
(
も
)
らさず、この街の中だけで事を
解決
(
かいけつ
)
できるようにという、ヤハウェ様からの
援助
(
えんじょ
)
やな。 かごめかごめや。
皆
(
みな
)
も
子供
(
こども
)
のころに遊んだことある? 俺はないなあ。あはは。アキちゃん、そんなんしてくれる
友達
(
ともだち
)
おらへんかったから。 せやけどあれには
呪力
(
じゅりょく
)
があるんや。
普通
(
ふつう
)
の人がやるだけやったら、ほんの軽いもんやけど、手を
繋
(
つな
)
いで
環
(
わ
)
になると、その
環
(
わ
)
の内側には、
特殊
(
とくしゅ
)
な
位相
(
いそう
)
が生まれる。
結界
(
けっかい
)
や。 それを
通力
(
つうりき
)
の強い
者
(
もん
)
がやれば、おのずと強い
結界
(
けっかい
)
が
形成
(
けいせい
)
される。 まして
霊力
(
れいりょく
)
の
塊
(
かたまり
)
みたいな天使たちが手を
繋
(
つな
)
ぐんやから、それはそれは強力なかごめかごめや。
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椎堂かおる
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