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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-17 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-17 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
713 / 928
27-17 アキヒコ
拒
(
こば
)
む俺の口ぶりは、少々
意固地
(
いこじ
)
やったかもしれへん。 なんで
皆
(
みんな
)
、おとんの
味方
(
みかた
)
するんや。
皆
(
みんな
)
やないって? そうやろか……。
亨
(
とおる
)
を殺せという
奴
(
やつ
)
を
庇
(
かば
)
う
奴
(
やつ
)
が
居
(
お
)
るなんて、それがたとえ
朧
(
おぼろ
)
でも、俺は
許
(
ゆる
)
せへん。 思わず
恨
(
うら
)
みがましいジト目で
睨
(
にら
)
むと、
朧
(
おぼろ
)
は
悩
(
なや
)
んだような、
難
(
むずか
)
しい
困
(
こま
)
り顔やった。 「そやけど、
龍
(
りゅう
)
の
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
にって、あの子はなんやねん。そこらの
蛇
(
へび
)
と
違
(
ちが
)
うんか? 名のある古い神さんやったんか? そんなら何で、あの子の力を信じてやらへんねん。先生が信じてやらな、あかんやないか。あの子は先生を助けたいんやで」
朧
(
おぼろ
)
にくどくど言われながら、俺は歩いた。 なんて返事をしたもんか、考えてる
暇
(
ひま
)
はなかった。 目の前に
迫
(
せま
)
る
現実
(
げんじつ
)
に、俺は
圧倒
(
あっとう
)
されていた。
真
(
ま
)
っ
暗闇
(
くらやみ
)
の街を照らす、
天空
(
てんくう
)
からの
一条
(
いちじょう
)
の光に
浮
(
う
)
かび
上
(
あ
)
がっていたのは、
崩
(
くず
)
れ
落
(
お
)
ちた
北野
(
きたの
)
の
街並
(
まちな
)
みやった。 ほんの何日か前に、
亨
(
とおる
)
と手
繋
(
つな
)
いで歩いた
北野坂
(
きたのざか
)
。
美形
(
びけい
)
の小説家がやっている、緑のドアの
朝飯屋
(
あさめしや
)
。 ちょっとレトロな
異人館
(
いじんかん
)
。 気持ちいいジャズの流れるカフェも、全部
瓦礫
(
がれき
)
になっていた。 そしてそこには、ぞっとするくらいの数の
骸骨
(
がいこつ
)
が、
群
(
むら
)
がっていた。
角砂糖
(
かくざとう
)
にたかる
蟻
(
あり
)
の
群
(
む
)
れのように。
崩
(
くず
)
れ
落
(
お
)
ちた街の下に
眠
(
ねむ
)
る人らの、死体にたかる
禿鷹
(
はげたか
)
のように。 俺は
呆然
(
ぼうぜん
)
とそれを
眺
(
なが
)
めた。 なんやろ、これは。 こんな
景色
(
けしき
)
は、生まれて初めて見た。 これがほんまに日本やろうか。
昨日
(
きのう
)
までの、お
洒落
(
しゃれ
)
で
綺麗
(
きれい
)
で、安全で
清潔
(
せいけつ
)
やった
神戸
(
こうべ
)
の街やろか。 きっとこれは、悪い
夢
(
ゆめ
)
や。 俺はとっさに、そう思おうとした。 でもこれは、
醒
(
さ
)
めへん
夢
(
ゆめ
)
やった。そう
簡単
(
かんたん
)
には
醒
(
さ
)
めへん。 俺が何とかしいひんかぎりは
醒
(
さ
)
めへん。 もっとひどい
夢
(
ゆめ
)
になる。
龍
(
りゅう
)
がこの街にやってきて、まるごとひと
呑
(
の
)
み。
誰
(
だれ
)
ひとり助からへん。 スッカラカンのがらんどうになって、この土地は海に
呑
(
の
)
まれる。 その事実が急に
胸
(
むね
)
に
迫
(
せま
)
ってきて、体のどこか、ものすご深いところで、
身震
(
みぶる
)
いがした。 俺はたぶん、
恐
(
こわ
)
くて
震
(
ふる
)
えてたんやと思う。
恐
(
こわ
)
くてたまらへん。 こんな力を持ってる神に、ただの人の子が、どないして
太刀打
(
たちう
)
ちできる。 たったの
一瞬
(
いっしゅん
)
でこの街をぶっ
壊
(
こわ
)
してもうた、
鯰
(
なまず
)
とかいう神さんに、俺みたいなひよっ子が、のこのこ出ていって勝てるわけがない。 勝てるわけない。 そう、俺はまだその時点までは、神に勝とうとしてたんかもしれへん。 そして、それがどんだけ
愚
(
おろ
)
かな考えか、やっと気づいた。
崩
(
くず
)
れ
落
(
お
)
ちた街を
目
(
ま
)
の
当
(
あ
)
たりにして、やっと。 そやけど、ブルッてもうてたのは、実は俺だけやったんやないか。 言うても
霊振会
(
れいしんかい
)
の人らはベテランぞろいや。なにしろ十数年前の
震災
(
しんさい
)
の時にも、これと同じことをした。
蔦子
(
つたこ
)
さんは、全然まったく
動揺
(
どうよう
)
してへんように見えた。 白い
狼
(
おおかみ
)
に乗って、先頭をいく
蔦子
(
つたこ
)
さんは、
確
(
たし
)
かにどことなく、うちのおかんに
似
(
に
)
てるところがあった。
毅然
(
きぜん
)
としてて、何があろうがビビらへん。 ほんま言うたらビビってんのやろけど、それを外には出さへん。
秋津
(
あきつ
)
の女や。
皆
(
みんな
)
の先頭に立って、
荒
(
あら
)
ぶる神と
渡
(
わた
)
り
合
(
あ
)
う
巫女
(
みこ
)
が、
恐
(
こわ
)
い言うてたら始まらへん。
蔦子
(
つたこ
)
さんは、俺の目で見ても、まるで
女神
(
めがみ
)
のようやった。 強い
霊力
(
れいりょく
)
を発して
燦然
(
さんぜん
)
と光り、
隊列
(
たいれつ
)
を
率
(
ひき
)
いていた。 何もせんでも、弱い
骨
(
ほね
)
はその光を
恐
(
おそ
)
れて、じわじわと仲間のいるほうへと
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
った。 しかし何と言っても相手は
多勢
(
たぜい
)
や。 やがて、こちらとあちら、二つの
群
(
む
)
れは、
霊力
(
れいりょく
)
と
霊力
(
れいりょく
)
の
押
(
お
)
し
合
(
あ
)
いが
拮抗
(
きっこう
)
し、これより先へは進まれへんようなところまで来た。
手練
(
てだ
)
れらしい
骨
(
ほね
)
たちはこちらを見つめ、暗い
障気
(
しょうき
)
をむらむらと
吐
(
は
)
いた。 それを
睨
(
にら
)
み、さらに進めと命じるふうな
蔦子
(
つたこ
)
さんの命令を、白い
狼
(
おおかみ
)
は
拒
(
こば
)
んでいた。 女主人が
骨
(
ほね
)
の
穢
(
けが
)
れに
触
(
ふ
)
れるのを、
啓太
(
けいた
)
は
拒
(
こば
)
んだんやろう。 しかし
骨
(
ほね
)
は
骨
(
ほね
)
で、
蔦子
(
つたこ
)
さんのふりまく金の粉を、
怖
(
こわ
)
がっているようやった。
日輪
(
にちりん
)
の
加護
(
かご
)
に
触
(
ふ
)
れると、
闇
(
やみ
)
の
眷属
(
けんぞく
)
である
奴
(
やつ
)
らは、ダメージを受ける。 それはもちろん、こっちかて同じや。
闇
(
やみ
)
が
濃
(
こ
)
ければ、人は
蝕
(
むしば
)
まれる。 ゆっくりと
骨
(
ほね
)
まで
染
(
し
)
みこむ、
地獄
(
じごく
)
の毒にあてられて、死へと、
冥界
(
めいかい
)
へと
誘
(
さそ
)
われる。 まず第一の仕事は、その毒を持った
障気
(
しょうき
)
から、
神戸
(
こうべ
)
の街を守ることやった。 そこでまだ生きていて、今まさに死のうとしている人らを、守ること。 「戦わなしかたないようどすなあ。
闇
(
やみ
)
の
障気
(
しょうき
)
が
濃
(
こ
)
すぎて、
押
(
お
)
し
通
(
とお
)
るわけにはいかへんようどす」
悔
(
くや
)
しげに、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
きもせず、
背後
(
はいご
)
に話しかけてきた。 それは俺に言うてんのやなかった。 たぶん俺なんか役に立たへんと、
蔦子
(
つたこ
)
さんは始めから、
割
(
わ
)
り
切
(
き
)
ってたんやないか。 「下がっときや、お
蔦
(
つた
)
ちゃん」 俺のすぐ
傍
(
そば
)
で、
大崎
(
おおさき
)
先生がゆったりと、そう言うた。 その手には
抜
(
ぬ
)
き
身
(
み
)
の
飛燕
(
ひえん
)
が、ぎらぎらと光って見えた。 「行こか、
坊
(
ぼん
)
。ブルってもうて動かれへんか」
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椎堂かおる
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