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27-19 アキヒコ

 軽快(けいかい)に走り、迎(むか)え撃(う)つようやった骨(ほね)に、信太(しんた)は鮮(あざ)やかな跳(と)び蹴(げ)りを食らわしていた。  その、たったの一撃(いちげき)で、骨(ほね)は脆(もろ)くも崩(くず)れ去り、信太(しんた)は浴びた灰(はい)を振(ふ)り払(はら)いながら、そこらの骨(ほね)を手当たり次第(しだい)にぶちのめしはじめた。  まるで演舞(えんぶ)のような見事な武術(ぶじゅつ)で、信太(しんた)はばったばったと骨(ほね)を倒(たお)した。  一昔前(ひとむかしまえ)の香港(ホンコン)映画(えいが)でも観(み)てるみたいやった。  瑞希(みずき)は信太(しんた)の呆(あき)れるほどの強さに、びっくりしてもうたようやったけど、すぐに任務(にんむ)を思い出したんか、自分も骨(ほね)に飛びかかっていってた。  楽勝(らくしょう)、というほどではないにしろ、骨(ほね)は死ぬほど手強(てごわ)いわけではないらしい。  むしろ、あっけないほどに、ばたばたと倒(たお)され、片(かた)っ端(ぱし)からさらさらと飛び散る灰(はい)になっていった。  奴(やつ)らが厄介(やっかい)なのは、強さというより、数のほうや。仲間がやられたと感付(かんづ)くやいなや、様子見(ようすみ)していた骨(ほね)どもは、一気に襲(おそ)いかかってきた。  辺りは突然(とつぜん)に、乱戦(らんせん)の構(かま)えになった。 「いくで、アキちゃん。気を引(ひ)き締(し)めてかかれよ」  手の中の太刀(たち)に、そう言われ、俺には頷(うなず)く暇(ひま)もなかった。  水煙(すいえん)に操(あやつ)られるように、俺は乱戦(らんせん)の中に突撃(とつげき)していた。  それは合図(あいず)でもあり、霊振会(れいしんかい)の巫覡(ふげき)や式は、俺の背(せ)を追い一斉(いっせい)に戦闘(せんとう)を開始していた。  武器(ぶき)を手に手に、乱戦(らんせん)の中で斬(き)り合(あ)うような、合戦(かっせん)映画(えいが)の一場面やった。  まさか自分がそんなもんの中にいることがあるとは。人生って思いもよらへん。  水煙(すいえん)は俺にとって無難(ぶなん)な敵(てき)を選んで斬(き)った。  骨(ほね)は面白(おもしろ)いように、よう斬(き)れた。  強いのんもいるようやったけど、水煙(すいえん)はそういうのは他(ほか)のにやらせ、俺には無難(ぶなん)な敵(てき)ばかりを回してきた。  どんだけ甘(あま)いねん。いつもはもっと、もっと強いのを、もっと凄(すご)いのをって、熱うなってるくせに、この時ばかりは無難(ぶなん)路線(ろせん)。  それは俺に万(まん)が一(いち)にも脱落(だつらく)があってはならんかったからや。  この戦いは、俺と信太(しんた)を鯰(なまず)のところまで運ぶために行われている。  俺がヘタってもうたら元も子もない。  それでも水煙(すいえん)が信太(しんた)を止めへんかったのは、それだけ奴(やつ)が強かったからやねん。  なかなかやるなと、水煙(すいえん)は戦いながら感嘆(かんたん)していた。  俺がやないで。信太(しんた)がやで。  確(たし)かに信太(しんた)は嘘(うそ)みたいに強かった。  戦いを、心底(しんそこ)楽しむふうやった。  いつもの、だるそうな男やのうて、燦然(さんぜん)と輝(かがや)くような戦場の虎(とら)やった。  たぶんこっちが本来の姿(すがた)で、信太(しんた)はずっと、自分本来の力を発揮(はっき)する場を持てずにいたんやろう。  黄金の残像(ざんぞう)が、薄闇(うすやみ)の中に光って見えた。  それが信太(しんた)の霊威(れいい)やったやろう。  本気出せば強い、あいつはもともと神やったんやという、朧(おぼろ)の話の意味が、俺にはそん時やっとわかった。  あいつを信じてついていけば、難(なん)なく鯰(なまず)のところまで行けるやろう。  俺にとっては最高の露払(つゆはら)いやった。 「鯰(なまず)のそばへ行けば行くほど、骨(ほね)はどんどん強うなる。強いのんが居(お)るほうへ行け」  怒鳴(どな)る声で、大崎(おおさき)先生が俺に教えた。  教えられなくても、信太(しんた)はどんどん、手強(てごわ)い敵(てき)の居(お)るほうへと、道を切り開き始めていた。  その一歩ごとに自分の死へと近づいてんのに、怯(ひる)む様子も全くなかった。 「朧(おぼろ)、近道はまだ見つからへんのか」  自分も骨(ほね)と切り結びながら、大崎(おおさき)先生が朧(おぼろ)に訊(たず)ね、朧(おぼろ)は全く戦う気配も見せず、苛立(いらだ)ったふうに、いつもの煙草(たばこ)をふかしてた。  骨(ほね)は朧(おぼろ)を不思議そうに見たが、それはあいつも骨(ほね)やったからやろう。  お前は仲間なんかと、訊(たず)ねるように見つめ、そうではないと気づいたやつは、もちろん襲(おそ)いかかってきた。  しかしそいつらは一匹(ぴき)漏(も)らさず虎(とら)に食われた。  見上げるような、でっかい金色の虎(とら)が、がおー言うて飛びかかってくんのは、正直俺でも怖(こわ)かった。それが味方やってわかっててもびびる。 「もうちょい先へ行けたら、地下へ伸(の)びる道がありそうや。茂(しげる)ちゃん。全員は無理やけど、儀式(ぎしき)をやるのに主要な面子(めんつ)は連れて行けるやろう」  ここではないどこかを見つめているような目つきで、朧(おぼろ)はそう話し、知らん顔して信太(しんた)に守られていた。  信太(しんた)はそれにも知らん顔して、俺を守り、湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)を守り、皆(みな)を守っていた。  守護(しゅご)することが、やつにはほんまに性(しょう)に合っているらしかった。  もともとそのために描(えが)かれた絵やと言うてた。都(みやこ)を、その中心である王城(おうじょう)を、そしてその主である天子様(てんしさま)を守るための虎(とら)やというのが、やつの誇(ほこ)りで、一度は挫(くじ)かれたそれを、再(ふたた)び取(と)り戻(もど)そうとしていた。  やつが守りたかった都に比(くら)べたら、今の神戸(こうべ)はちっぽけなもんかもしれへん。  そやけど全身全霊(ぜんしんぜんれい)を尽(つ)くせば守れるもんが、ここにはあって、そのために死んでくれと命じる主)(あるじ)が、今は居(お)る。  それがほんまに、信太(しんた)には嬉(うれ)しいらしかった。  そこはそれ、守護(しゅご)せよと命じられて、生まれた神の性分(しょうぶん)か。 「音楽かけよか、茂(しげる)ちゃん」

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