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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-19 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-19 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-19 アキヒコ
軽快
(
けいかい
)
に走り、
迎
(
むか
)
え
撃
(
う
)
つようやった
骨
(
ほね
)
に、
信太
(
しんた
)
は
鮮
(
あざ
)
やかな
跳
(
と
)
び
蹴
(
げ
)
りを食らわしていた。 その、たったの
一撃
(
いちげき
)
で、
骨
(
ほね
)
は
脆
(
もろ
)
くも
崩
(
くず
)
れ去り、
信太
(
しんた
)
は浴びた
灰
(
はい
)
を
振
(
ふ
)
り
払
(
はら
)
いながら、そこらの
骨
(
ほね
)
を手当たり
次第
(
しだい
)
にぶちのめしはじめた。 まるで
演舞
(
えんぶ
)
のような見事な
武術
(
ぶじゅつ
)
で、
信太
(
しんた
)
はばったばったと
骨
(
ほね
)
を
倒
(
たお
)
した。
一昔前
(
ひとむかしまえ
)
の
香港
(
ホンコン
)
映画
(
えいが
)
でも
観
(
み
)
てるみたいやった。
瑞希
(
みずき
)
は
信太
(
しんた
)
の
呆
(
あき
)
れるほどの強さに、びっくりしてもうたようやったけど、すぐに
任務
(
にんむ
)
を思い出したんか、自分も
骨
(
ほね
)
に飛びかかっていってた。
楽勝
(
らくしょう
)
、というほどではないにしろ、
骨
(
ほね
)
は死ぬほど
手強
(
てごわ
)
いわけではないらしい。 むしろ、あっけないほどに、ばたばたと
倒
(
たお
)
され、
片
(
かた
)
っ
端
(
ぱし
)
からさらさらと飛び散る
灰
(
はい
)
になっていった。
奴
(
やつ
)
らが
厄介
(
やっかい
)
なのは、強さというより、数のほうや。仲間がやられたと
感付
(
かんづ
)
くやいなや、
様子見
(
ようすみ
)
していた
骨
(
ほね
)
どもは、一気に
襲
(
おそ
)
いかかってきた。 辺りは
突然
(
とつぜん
)
に、
乱戦
(
らんせん
)
の
構
(
かま
)
えになった。 「いくで、アキちゃん。気を
引
(
ひ
)
き
締
(
し
)
めてかかれよ」 手の中の
太刀
(
たち
)
に、そう言われ、俺には
頷
(
うなず
)
く
暇
(
ひま
)
もなかった。
水煙
(
すいえん
)
に
操
(
あやつ
)
られるように、俺は
乱戦
(
らんせん
)
の中に
突撃
(
とつげき
)
していた。 それは
合図
(
あいず
)
でもあり、
霊振会
(
れいしんかい
)
の
巫覡
(
ふげき
)
や式は、俺の
背
(
せ
)
を追い
一斉
(
いっせい
)
に
戦闘
(
せんとう
)
を開始していた。
武器
(
ぶき
)
を手に手に、
乱戦
(
らんせん
)
の中で
斬
(
き
)
り
合
(
あ
)
うような、
合戦
(
かっせん
)
映画
(
えいが
)
の一場面やった。 まさか自分がそんなもんの中にいることがあるとは。人生って思いもよらへん。
水煙
(
すいえん
)
は俺にとって
無難
(
ぶなん
)
な
敵
(
てき
)
を選んで
斬
(
き
)
った。
骨
(
ほね
)
は
面白
(
おもしろ
)
いように、よう
斬
(
き
)
れた。 強いのんもいるようやったけど、
水煙
(
すいえん
)
はそういうのは
他
(
ほか
)
のにやらせ、俺には
無難
(
ぶなん
)
な
敵
(
てき
)
ばかりを回してきた。 どんだけ
甘
(
あま
)
いねん。いつもはもっと、もっと強いのを、もっと
凄
(
すご
)
いのをって、熱うなってるくせに、この時ばかりは
無難
(
ぶなん
)
路線
(
ろせん
)
。 それは俺に
万
(
まん
)
が
一
(
いち
)
にも
脱落
(
だつらく
)
があってはならんかったからや。 この戦いは、俺と
信太
(
しんた
)
を
鯰
(
なまず
)
のところまで運ぶために行われている。 俺がヘタってもうたら元も子もない。 それでも
水煙
(
すいえん
)
が
信太
(
しんた
)
を止めへんかったのは、それだけ
奴
(
やつ
)
が強かったからやねん。 なかなかやるなと、
水煙
(
すいえん
)
は戦いながら
感嘆
(
かんたん
)
していた。 俺がやないで。
信太
(
しんた
)
がやで。
確
(
たし
)
かに
信太
(
しんた
)
は
嘘
(
うそ
)
みたいに強かった。 戦いを、
心底
(
しんそこ
)
楽しむふうやった。 いつもの、だるそうな男やのうて、
燦然
(
さんぜん
)
と
輝
(
かがや
)
くような戦場の
虎
(
とら
)
やった。 たぶんこっちが本来の
姿
(
すがた
)
で、
信太
(
しんた
)
はずっと、自分本来の力を
発揮
(
はっき
)
する場を持てずにいたんやろう。 黄金の
残像
(
ざんぞう
)
が、
薄闇
(
うすやみ
)
の中に光って見えた。 それが
信太
(
しんた
)
の
霊威
(
れいい
)
やったやろう。 本気出せば強い、あいつはもともと神やったんやという、
朧
(
おぼろ
)
の話の意味が、俺にはそん時やっとわかった。 あいつを信じてついていけば、
難
(
なん
)
なく
鯰
(
なまず
)
のところまで行けるやろう。 俺にとっては最高の
露払
(
つゆはら
)
いやった。 「
鯰
(
なまず
)
のそばへ行けば行くほど、
骨
(
ほね
)
はどんどん強うなる。強いのんが
居
(
お
)
るほうへ行け」
怒鳴
(
どな
)
る声で、
大崎
(
おおさき
)
先生が俺に教えた。 教えられなくても、
信太
(
しんた
)
はどんどん、
手強
(
てごわ
)
い
敵
(
てき
)
の
居
(
お
)
るほうへと、道を切り開き始めていた。 その一歩ごとに自分の死へと近づいてんのに、
怯
(
ひる
)
む様子も全くなかった。 「
朧
(
おぼろ
)
、近道はまだ見つからへんのか」 自分も
骨
(
ほね
)
と切り結びながら、
大崎
(
おおさき
)
先生が
朧
(
おぼろ
)
に
訊
(
たず
)
ね、
朧
(
おぼろ
)
は全く戦う気配も見せず、
苛立
(
いらだ
)
ったふうに、いつもの
煙草
(
たばこ
)
をふかしてた。
骨
(
ほね
)
は
朧
(
おぼろ
)
を不思議そうに見たが、それはあいつも
骨
(
ほね
)
やったからやろう。 お前は仲間なんかと、
訊
(
たず
)
ねるように見つめ、そうではないと気づいたやつは、もちろん
襲
(
おそ
)
いかかってきた。 しかしそいつらは一
匹
(
ぴき
)
漏
(
も
)
らさず
虎
(
とら
)
に食われた。 見上げるような、でっかい金色の
虎
(
とら
)
が、がおー言うて飛びかかってくんのは、正直俺でも
怖
(
こわ
)
かった。それが味方やってわかっててもびびる。 「もうちょい先へ行けたら、地下へ
伸
(
の
)
びる道がありそうや。
茂
(
しげる
)
ちゃん。全員は無理やけど、
儀式
(
ぎしき
)
をやるのに主要な
面子
(
めんつ
)
は連れて行けるやろう」 ここではないどこかを見つめているような目つきで、
朧
(
おぼろ
)
はそう話し、知らん顔して
信太
(
しんた
)
に守られていた。
信太
(
しんた
)
はそれにも知らん顔して、俺を守り、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
を守り、
皆
(
みな
)
を守っていた。
守護
(
しゅご
)
することが、やつにはほんまに
性
(
しょう
)
に合っているらしかった。 もともとそのために
描
(
えが
)
かれた絵やと言うてた。
都
(
みやこ
)
を、その中心である
王城
(
おうじょう
)
を、そしてその主である
天子様
(
てんしさま
)
を守るための
虎
(
とら
)
やというのが、やつの
誇
(
ほこ
)
りで、一度は
挫
(
くじ
)
かれたそれを、
再
(
ふたた
)
び
取
(
と
)
り
戻
(
もど
)
そうとしていた。 やつが守りたかった都に
比
(
くら
)
べたら、今の
神戸
(
こうべ
)
はちっぽけなもんかもしれへん。 そやけど
全身全霊
(
ぜんしんぜんれい
)
を
尽
(
つ
)
くせば守れるもんが、ここにはあって、そのために死んでくれと命じる
主)
(
あるじ
)
が、今は
居
(
お
)
る。 それがほんまに、
信太
(
しんた
)
には
嬉
(
うれ
)
しいらしかった。 そこはそれ、
守護
(
しゅご
)
せよと命じられて、生まれた神の
性分
(
しょうぶん
)
か。 「音楽かけよか、
茂
(
しげる
)
ちゃん」
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椎堂かおる
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