fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 27-21 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-21 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
717 / 928
27-21 アキヒコ
恥
(
は
)
ずかしいのは、そっちのほうで、自分が人とは
違
(
ちが
)
うことではないやんか。 今ここで、
水煙
(
すいえん
)
を
振
(
ふ
)
るうて戦っているのが、俺やのうて、おとんやったら、きっともっと
立派
(
りっぱ
)
に、当主の
務
(
つと
)
めを
果
(
は
)
たしたんやろうな。 俺みたいな、ぼんくらやのうて、おとんがちゃんと生きていて、ここに立ってたら、きっともっと、俺よりずっと何倍もイケてた。 きっとそうやったわって、悲しなってきて、しかもそのBGMがハクション
大魔王
(
だいまおう
)
なんやからな。泣いてええのか笑えてくんのか、もう
訳
(
わけ
)
わからへん。 俺はほんまに
情
(
なさ
)
けない。
情
(
なさ
)
けなすぎて
涙
(
なみだ
)
出てきそう。 「行くで、アキちゃん。
嘆
(
なげ
)
いとらんで進まなあかん。もう
儀式
(
ぎしき
)
は始まったんや。お前が
斎主
(
さいしゅ
)
なんやで」
水煙
(
すいえん
)
に
叱咤激励
(
しったげきれい
)
されて、俺は
頷
(
うなず
)
いた。 「歌は
骨
(
ほね
)
に
利
(
き
)
いているようや。アホみたいやな」 ふん、と皮肉に笑って、
水煙
(
すいえん
)
が
褒
(
ほ
)
めた。
確
(
たし
)
かに
骨
(
ほね
)
たちの多くは
戦意
(
せんい
)
を
喪失
(
そうしつ
)
していた。 ぼうっとして、流れてくる歌を
聴
(
き
)
き、中には
小躍
(
こおど
)
りする
骨
(
ほね
)
もいた。 その中には、まだ小さい
子供
(
こども
)
のような
骨
(
ほね
)
もいるのに、俺は気づいた。 次から次へと、俺の知らんような、どこかで聞いたような、古い歌が流れ、その歌を歌う
様々
(
さまざま
)
な、
綺麗
(
きれい
)
な歌声が、
瓦礫
(
がれき
)
になった街に流れ流れて消えていった。 その中には俺にもよう聞き
覚
(
おぼ
)
えのある、
亨
(
とおる
)
の声もあった。 俺はそれに、心のどこかで泣いた。 俺がもう、二度と会うことがないかもしれん
懐
(
なつ
)
かしい声を聞き、うっとり
酔
(
よ
)
うたようになって
踊
(
おど
)
る
骨
(
ほね
)
たちが、もう
誰
(
だれ
)
も
襲
(
おそ
)
わんのを
眺
(
なが
)
め、同じ歌を
聴
(
き
)
いて美しいと思い、同じように
酔
(
よ
)
えるのに、なんで俺らは
斬
(
き
)
り
合
(
お
)
うてんのやろと、悲しくなった。 たとえ悲しくても、
斬
(
き
)
り
合
(
あ
)
いは
止
(
や
)
みはしいひん。 うっとり立ちつくす
骨
(
ほね
)
のいる横で、
怒
(
いか
)
り
狂
(
くる
)
う別の
骨
(
ほね
)
が、こちらの
喉笛
(
のどぶえ
)
を
狙
(
ねら
)
ってくる。 それを
斬
(
き
)
らねば、こちらが
斬
(
き
)
られる。
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
りまくらなあかん。なんでかそれが、悲しいねん。 そういう
骨
(
ほね
)
には、もう耳がないんやろう。うっとりと心を
蕩
(
とろ
)
かすような、美しい
亨
(
とおる
)
の声も、
迦陵頻伽
(
かりょうびんが
)
も、やつらの心には、もう
響
(
ひび
)
かへんのや。
鬼
(
おに
)
になってる。
斬
(
き
)
るしかないんや。 なんでなんや。なんでもっと、楽しいふうに
歌
(
うた
)
歌
(
うと
)
て、のんびり平和にやっていかれへんの。 なんでこの世には
鬼
(
おに
)
が
居
(
お
)
るんや。なんで俺は戦わなあかんの。 なんでずっと、
亨
(
とおる
)
とのんびり
二人
(
ふたり
)
っきりで、だらっと
暮
(
く
)
らしてられへんのや。 なんで俺は、あいつとずっと
一緒
(
いっしょ
)
に
居
(
お
)
られへんかったんやろう。なんでや。
亨
(
とおる
)
。俺を
許
(
ゆる
)
してくれ。 お前を
捨
(
す
)
ててきてもうた、俺を
許
(
ゆる
)
してくれ。 「あいつら元は人間やないか。
亡者
(
もうじゃ
)
にも
踊
(
おど
)
る
権利
(
けんり
)
はあるやろう。歌を聞いても何も感じへんのは、ほんまもんの
鬼
(
おに
)
になってもうた
奴
(
やつ
)
だけや」
朧
(
おぼろ
)
がそう答えると、
水煙
(
すいえん
)
はますます、ふふんと笑った。 「ほんならお前も
鬼
(
おに
)
やないというわけや。えらい
調子
(
ちょうし
)
のええ話やなあ、
朧
(
おぼろ
)
」 俺を
操
(
あやつ
)
り、
素早
(
すばや
)
い
骨
(
ほね
)
の
眉間
(
みけん
)
をとらえて
討
(
う
)
ち
滅
(
ほろ
)
ぼしながら、
水煙
(
すいえん
)
は
甘
(
あま
)
く
罵
(
ののし
)
る口調で言うた。 それを聞いてる
朧
(
おぼろ
)
のほうは、
手持
(
ても
)
ち
無沙汰
(
ぶさた
)
に立ってるだけや。 「俺は
違
(
ちが
)
うよ。
暁彦
(
あきひこ
)
様がそう言うとったもん」 そう言う
朧
(
おぼろ
)
は
拗
(
す
)
ねたようで、自信なさげやった。 「それがあの子の
手管
(
てくだ
)
やないか。アホやなあ、お前も。
猫
(
ねこ
)
なで
声
(
ごえ
)
で
口説
(
くど
)
かれて、ころっと
参
(
まい
)
ってまうやなんて。それでよう、
四条
(
しじょう
)
河原
(
がわら
)
の人食い
鬼
(
おに
)
が
務
(
つと
)
まったもんやわ」 そう
吐
(
は
)
き
捨
(
す
)
てて、
水煙
(
すいえん
)
はまた戦いに
戻
(
もど
)
りたいようやった。
剣
(
けん
)
のやつらというのんは、どうしてこう、ときどき
痛
(
いた
)
いんやろ。 悪気はないんかもしれへんのやけど、
刃物
(
はもの
)
やからしょうがないんか。 俺には
朧
(
おぼろ
)
がどうにも
可哀想
(
かわいそう
)
に思えて、
水煙
(
すいえん
)
に連れ去られながら、
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
き
様
(
ざま
)
になんとか言うた。 「お前は
違
(
ちが
)
うで。
鬼
(
おに
)
やないで
朧
(
おぼろ
)
……」 すると俺の手を引く
水煙
(
すいえん
)
が、ぷんぷん
怒
(
おこ
)
った
鉄火
(
てっか
)
のように熱くなり、あいつはちょっと
妬
(
や
)
いてたんかもしれへん。 それでも
朧
(
おぼろ
)
が
微
(
かす
)
かな
笑
(
え
)
みで俺を見るのが、少しは元気があるように見えて、ほっとした。
猫
(
ねこ
)
なで
声
(
ごえ
)
で
口説
(
くど
)
くぐらいで、
鬼
(
おに
)
が神さんに変わるんやったら、安いモンやで、そう思わへん? そんなもんで、
誰
(
だれ
)
も死なんでええなら、なんぼでも
口説
(
くど
)
くわ。
鬼
(
おに
)
でも
蛇
(
へび
)
でも、なんぼでも
口説
(
くど
)
く。 ただし、そっから先をどうしていくかが
難儀
(
なんぎ
)
やねんなぁ……。 そやけど、それはまあ、それとしてやな……。 俺はもう、人が死ぬのはいやや。さっきも目の前で人が死ぬのを見た。
一人
(
ひとり
)
二人
(
ふたり
)
やない。いちいち説明する間もないくらい、
霊振会
(
れいしんかい
)
の
巫覡
(
ふげき
)
にも
脱落
(
だつらく
)
は出た。
主
(
あるじ
)
の死を
嘆
(
なげ
)
く
妖鳥
(
ようちょう
)
の
絶叫
(
ぜっきょう
)
が、あたりに
木魂
(
こだま
)
していた。 その
弔
(
とむら
)
いもせずに、俺らは行かなあかんかった。
斬
(
き
)
り
合
(
あ
)
う
骨
(
ほね
)
も元は人やと言われれば、
確
(
たし
)
かにそうで、
斬
(
き
)
り
合
(
あ
)
わんですむなら、アホでもエロでも、なんであろうと俺はかまへん。
前へ
717 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧