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27-21 アキヒコ

 ()ずかしいのは、そっちのほうで、自分が人とは(ちが)うことではないやんか。  今ここで、水煙(すいえん)()るうて戦っているのが、俺やのうて、おとんやったら、きっともっと立派(りっぱ)に、当主の(つと)めを()たしたんやろうな。  俺みたいな、ぼんくらやのうて、おとんがちゃんと生きていて、ここに立ってたら、きっともっと、俺よりずっと何倍もイケてた。  きっとそうやったわって、悲しなってきて、しかもそのBGMがハクション大魔王(だいまおう)なんやからな。泣いてええのか笑えてくんのか、もう(わけ)わからへん。  俺はほんまに(なさ)けない。(なさ)けなすぎて(なみだ)出てきそう。 「行くで、アキちゃん。(なげ)いとらんで進まなあかん。もう儀式(ぎしき)は始まったんや。お前が斎主(さいしゅ)なんやで」  水煙(すいえん)叱咤激励(しったげきれい)されて、俺は(うなず)いた。 「歌は(ほね)()いているようや。アホみたいやな」  ふん、と皮肉に笑って、水煙(すいえん)()めた。  (たし)かに(ほね)たちの多くは戦意(せんい)喪失(そうしつ)していた。  ぼうっとして、流れてくる歌を()き、中には小躍(こおど)りする(ほね)もいた。  その中には、まだ小さい子供(こども)のような(ほね)もいるのに、俺は気づいた。  次から次へと、俺の知らんような、どこかで聞いたような、古い歌が流れ、その歌を歌う様々(さまざま)な、綺麗(きれい)な歌声が、瓦礫(がれき)になった街に流れ流れて消えていった。  その中には俺にもよう聞き(おぼ)えのある、(とおる)の声もあった。  俺はそれに、心のどこかで泣いた。  俺がもう、二度と会うことがないかもしれん(なつ)かしい声を聞き、うっとり()うたようになって(おど)(ほね)たちが、もう(だれ)(おそ)わんのを(なが)め、同じ歌を()いて美しいと思い、同じように()えるのに、なんで俺らは()()うてんのやろと、悲しくなった。  たとえ悲しくても、()()いは()みはしいひん。  うっとり立ちつくす(ほね)のいる横で、(いか)(くる)う別の(ほね)が、こちらの喉笛(のどぶえ)(ねら)ってくる。  それを()らねば、こちらが()られる。()って()って()りまくらなあかん。なんでかそれが、悲しいねん。  そういう(ほね)には、もう耳がないんやろう。うっとりと心を(とろ)かすような、美しい(とおる)の声も、迦陵頻伽(かりょうびんが)も、やつらの心には、もう(ひび)かへんのや。  (おに)になってる。()るしかないんや。  なんでなんや。なんでもっと、楽しいふうに(うた)(うと)て、のんびり平和にやっていかれへんの。  なんでこの世には(おに)()るんや。なんで俺は戦わなあかんの。  なんでずっと、(とおる)とのんびり二人(ふたり)っきりで、だらっと()らしてられへんのや。  なんで俺は、あいつとずっと一緒(いっしょ)()られへんかったんやろう。なんでや。  (とおる)。俺を(ゆる)してくれ。  お前を()ててきてもうた、俺を(ゆる)してくれ。 「あいつら元は人間やないか。亡者(もうじゃ)にも(おど)権利(けんり)はあるやろう。歌を聞いても何も感じへんのは、ほんまもんの(おに)になってもうた(やつ)だけや」  (おぼろ)がそう答えると、水煙(すいえん)はますます、ふふんと笑った。 「ほんならお前も(おに)やないというわけや。えらい調子(ちょうし)のええ話やなあ、(おぼろ)」  俺を(あやつ)り、素早(すばや)(ほね)眉間(みけん)をとらえて()(ほろ)ぼしながら、水煙(すいえん)(あま)(ののし)る口調で言うた。  それを聞いてる(おぼろ)のほうは、手持(ても)無沙汰(ぶさた)に立ってるだけや。 「俺は(ちが)うよ。暁彦(あきひこ)様がそう言うとったもん」  そう言う(おぼろ)()ねたようで、自信なさげやった。 「それがあの子の手管(てくだ)やないか。アホやなあ、お前も。(ねこ)なで(ごえ)口説(くど)かれて、ころっと(まい)ってまうやなんて。それでよう、四条(しじょう)河原(がわら)の人食い(おに)(つと)まったもんやわ」  そう()()てて、水煙(すいえん)はまた戦いに(もど)りたいようやった。  (けん)のやつらというのんは、どうしてこう、ときどき(いた)いんやろ。  悪気はないんかもしれへんのやけど、刃物(はもの)やからしょうがないんか。  俺には(おぼろ)がどうにも可哀想(かわいそう)に思えて、水煙(すいえん)に連れ去られながら、()()(ざま)になんとか言うた。 「お前は(ちが)うで。(おに)やないで(おぼろ)……」  すると俺の手を引く水煙(すいえん)が、ぷんぷん(おこ)った鉄火(てっか)のように熱くなり、あいつはちょっと()いてたんかもしれへん。  それでも(おぼろ)(かす)かな()みで俺を見るのが、少しは元気があるように見えて、ほっとした。  (ねこ)なで(ごえ)口説(くど)くぐらいで、(おに)が神さんに変わるんやったら、安いモンやで、そう思わへん?  そんなもんで、(だれ)も死なんでええなら、なんぼでも口説(くど)くわ。(おに)でも(へび)でも、なんぼでも口説(くど)く。  ただし、そっから先をどうしていくかが難儀(なんぎ)やねんなぁ……。  そやけど、それはまあ、それとしてやな……。  俺はもう、人が死ぬのはいやや。さっきも目の前で人が死ぬのを見た。  一人(ひとり)二人(ふたり)やない。いちいち説明する間もないくらい、霊振会(れいしんかい)巫覡(ふげき)にも脱落(だつらく)は出た。  (あるじ)の死を(なげ)妖鳥(ようちょう)絶叫(ぜっきょう)が、あたりに木魂(こだま)していた。  その(とむら)いもせずに、俺らは行かなあかんかった。  ()()(ほね)も元は人やと言われれば、(たし)かにそうで、()()わんですむなら、アホでもエロでも、なんであろうと俺はかまへん。

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