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27-25 アキヒコ
「ワープっていうんやしワープやろうな」
俺も一応 真面目 に答えた。
冗談 言うてるような精神 的余裕 はないから。ボロボロやねんからさ、こん時のアキちゃんは。
「ワープってあれか、アキちゃん。スタートレックでやっていたやつか」
水煙 が不思議 そうに俺に訊 ね、瑞希 がギクッとしていた。
「スタートレック知ってるんですか」
「知ってる。アキちゃんが見せてくれた」
「うわ……そんな……」
瑞希 がなんやようわからんことでショックを受けている間にも、朧 は信太 をワープ土管 にぐいぐい押 し込 んでいた。
「バリ急がなあかんで信太 。この中、時間の流れが速くなっとうから、もたもたしとったら着くの明日 か明後日 になってまうで」
「それほんまに近道なんか怜司 」
もっともなツッコミやったけども、もう押 し込 まれた後やった。
朧 は長い足でげしげしと虎 を土管 に押 し込 んでいた。手加減 無しやった。
「大丈夫 や、俺がなんとかしとくから、行ってこい。とにかくめちゃめちゃ急げばええねん」
土管 に入って、そして三年後とか、そういうのないよな。
そういう目でいる俺は朧 と目が合い、次お前行け的 なニュアンスを感じとってもうた。
きっと気のせいやろうと思いたかったが、俺の勘 には間違 いがなかった。
「先生、早 う」
早 う早 う、早 うせえて、俺もワープ土管 に突 っ込 まれた。幸 い、足やのうて、手でな。
入った先の感触 は、公園の遊具 って感じではなかった。
コンクリートのはずの土管 の手触 りは、ふかっとしていて落ち葉の積 もった腐葉土 のようで、まるで、でかい地虫 の巣 にでも入ったみたいや。まさしくワーム・ホールということか。
その中をごそごそ這 うていって、ワープできるやなんて、嘘 みたい。
でも、入ってもうたからには、進むしかなかった。
振 り返 ったけど、後ろはもう見えへん。
前に進むしかのうて、しかも先に入ったはずの信太 の姿 は、チラリとも見えへんかった。
前後不覚 のワーム・ホールに一人 っきりや。
いや、厳密 には一人 やない。俺は水煙 と一緒 やったから、まだマシやったろう。
「大丈夫 なんか、これは。あいつの十八番 の神隠 しやないか」
怖気 だったように水煙 が言うので、俺は鞘 もない水煙 をがっちり抱 いて進まなあかんかった。
水煙 は妖怪 のくせに、異界 があんまり好きやないらしい。
自分の作った異界 ならいいが、他人が作ったもんは、自分のテリトリーやないし、怖 いということらしいわ。
まして朧 の作ったワームホールではな。警戒 しまくりやろう。
しかしなあ。亨 を後に置き去りにして、水煙 と抱 き合 い高速ハイハイとは、俺の人生、一体どないなってんのやろ。
でもまあ、そん時は必死やねんからなあ。客観的に自分を見る余裕 はないよ。
なくて良かったな。微妙 に変やから。我 にかえらんで正解 やったよ。
敵 はいないと思ったせいか、それとも落としていかれたら難儀 やと思うたんか、あるいは単に怖 かったからか、水煙 は何となく人型に戻 っていたような気がする。
俺もなるべく深くは考えへんようにしたんやけども、絡 みつくような柔 な手足が俺の体を抱 いてたような。
早 う出なあかんと、それもあって何となく焦 ったな。
そんなお役得 してる場合やないんや。急がなあかん。
もたもたしてて、出たら明日 になってたなんて事になったら、えらいことやで。
急げば急ぐほど、自分が遅 い気がして、俺の気は焦 った。
道はどんどん俺を包 み込 むように狭 く、細くなっていった。
息苦しさと暑さで朦朧 としてきて、それでも必死で進み続けると、土中 にはひそひそ騒 ぐ、ちっさいエノキダケみたいな小人 がおった。
地霊 やと、水煙 は俺に教えたが、それが何なのかはわからん。
神戸 の地下に住んでいる、土地の霊 らしい。日本中どこにでもおるらしい。
白くてヒョロッとしたそいつらは、顔も目もないのっぺらぼうやのに、寄 り集 まってカタカタ震 えてて、怯 えているようやった。
そら怖 いやろう、神戸 は。
こんな度々 の大地震 に襲 われて、鯰 にぐらぐらやられたら、たまらんやろう。
逃 げまどう白い地霊 の群 れを追うように、ひたすら進んでいる間にも、俺はそいつらが可哀想 になってきて、心配いらへん、俺がなんとかするからな、鯰 と話つけてくる、もう何も、怖 いことが起きへんようにしてやるからなと、ずっと呼 びかけていたような気がするわ。
そういうのって、伝わるもんなんか。
やがて地霊 の一群 が、道案内 するように俺の先導 をしてくれた。
とはいえ一本道なんやけど。
そうやって這 い進む有様 は、ちょっとしたガリバー旅行記みたいやったやろなあ。
ちっさい連中に先導 されて、ごそごそ進む大男というのはさ。
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