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27-27 アキヒコ
俺の霊力 はハンパ無い。それがどういう霊力 かというとな。そうやなあ、分かりやすく言うと、めちゃめちゃ、我 が儘 ってことかな。
お願いします、ほんまに心底頼 みますって祈 ると、俺には神々を聞き入らす力がある。天地(あめつち)の神々に、駄々 をこねるための力やな。
祈 りというのは結局 そういうもんやんか。
お願いします、言うこと聞いてって、神さんに駄々 こねてみせる。それをどんだけ押 し通 せるかが、巫覡 の神通力 やないか。
無理が無理でも押 し通 してみせるよ。それが俺の、仕事やねんから。
「そこにおったか、秋津 の坊 」
どっから這 い出 てきてたんか、大崎 先生と秋尾 さんが、俺を追っかけて現 れた。
秋尾 さんはいつの間にか、いつもの眼鏡 の中年男に戻 っていた。
それが白い従者 の狩衣 姿 で、まるでどっかのお祭りの采配 でもしてるスタッフの人みたい。
大崎 先生が神事 をやってる神主 さんで、秋尾 さんはそのアシスタントの人ってとこか。
まあ実際 、そういうことなんやけどな。
「生 け贄 の虎 はどこへいったんや」
慌 てたふうに大崎 先生は辺 りを見回し、そこに信太 がおらんことに、しかめっつらをした。
そういえばおらへん。あいつ、俺より前に行ったはずやのに、一体どこへ行ったんや。
「よもや逃 げたんやないか。今さら怖 じ気 づいて」
疑 う口調で水煙 が、それを口に出していた。
「それはなかろう。その坊 が、逃 がしてやったんでなければ。契約 によって縛 られているはずや」
大崎 先生はじろりと俺を睨 んだ。
逃 がしたっけ、俺は信太 を。そんな覚 えはないけどなあ。
「アキちゃんが逃 がさへんでも、あいつがおるやろ。朧 や。さっきの通路はあいつが作ったもんやったのやろ。あの尻軽 は虎 ともデキとったらしい。今さら急に惜 しなって、どこかへ逃 がすか隠 すかしたんやないか。あいつはそういう性質 の奴 なんや」
朧 の駆 け落 ち未遂 がよっぽど恨 み骨髄 なんかな、水煙 は。
確 かに、言われてみれば怪 しいが、俺がこれっぽっちも思いついてなかった疑惑 を、水煙 が教えてくれた。
そんなことあるやろか。朧 が急に、信太 とよりを戻 すやなんて。
そんなこと、あると思う?
二人 でいきなり逃避行 ?
「そんなことあるわけないやろ! ちょっと居 らん間に、好き勝手なこと言うな!」
ぷんぷん怒 って現 れた朧 本人によって、その疑惑 は否定 された。
朧 はなんでか瑞希 の首根っこを掴 んで引 っ張 ってきていた。
道に迷 いそうな、異界 慣 れしてない瑞希 を、引 っ張 ってくんので時間かかってもうたんやって。
「信太 はあそこや!」
指さす朧 の長い腕 の先に目をやると、そこは鯰 のいる岩壁 を登り切った断崖 の上やった。
信太 は確 かにそこにいた。
人の姿 やのうて、ここから眺 めても大きく見える、金色の虎 の姿 になって。
うろつくような足取りで、虎 はうろうろと岩棚 を歩き、そこから一望できるはずの、神戸 の街を見下ろしていた。
鋭 い金色の視線 が、街を舐 めるのが見えた。
見下ろした街は、火の海やった。海岸線をなぞるように、うねる火の帯が拡 がって、ものすごい黒煙 を上げていた。
あの火の下に、どれだけの人が埋 まっていたやろう。
俺は呆然 とそれを見ていた。黒煙 の上がる空に、燦然 と光る天使たちの輪があり、その下の世界に、死者を狩 り集めてくる冥界 の骨 たちの乱舞 する街があるのを。
ここは、どこやろ。神戸 ……?
それとも、地獄 の一丁目?
「始めましょうか、先生。早 うせんと神戸 が全部燃 えてしまう」
崖 の上の虎 が、咆吼 するような声で、俺にそう怒鳴 った。
そして岩棚 を飛 び降 りた信太 の姿 は、また元の、目の醒 めるような黄色い宮廷 服の男に戻 り、奴 がすとんと着地した足下 には、真っ白な真新しい杉板 の、舞台 のようなもんが組み上げられていた。
それは五角形をしていて、鯰 のほうを向いた頂点 には、真 っ直 ぐ天を突 くような丸太の柱が立てられている。
「当てずっぽうで祭壇 作っといてよかったなぁ」
のんびりした声で、朧 がそう言うた。
「当てずっぽうやないやろ。予知 やないか」
むすっとして大崎 先生が文句 を言うと、朧 は可笑 しそうに笑った。
「当たるも八卦 、当たらぬも八卦 やないか。そんなもん、当てずっぽうと変わらへん。俺はそんなもん、あてにはしいひん。茂 ちゃん……変えられへん未来なんて……そんなもん、ほんまにあるんか」
日々、蔦子 さんが九十九%の確率 で未来予知を的中 させるのを見てきたくせに、朧 はそんなことを言うていた。
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