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27-31 アキヒコ
「落ち着け茂 。あいつはもう覡 やない。神の一種や。そやから、あいつが祈 るというのは無理や。けども、息子 に教えることはできるやろう。あっと言う間に教えられる裏技 があんのや」
えっ。親子フュージョンか? まさかあれを皆 の見ている前でやれと?
いやや俺は、おとんと合体はいやや。あれはちょっと……さすがに皆 の見ている前ではいやや。
なんで今やねん。
もっと前に、結局俺がやらなしゃあないって分かってたら、早めにおとんを喚 んで、こっそり習っといたのに。なんでこの土壇場 でやねん!
霊振会 の皆 さんも見てんのに。朧 も居 てんのに。超 微妙 やないか。
空気読めへん俺でも読めるわ。今ここではまずということが!
そやけど、しゃあないやん。
アキちゃん空気は読めてたんやで。やったらまずいな、ということは、何となくは感じ取っていました。
それでもな、しゃあないやん。他 に方法を思いつかへんかったんや。
だってな。
パターンその1。適当 に話しかけて、失礼ぶっこいて鯰 様を怒らせてしまい、神事 に失敗して三都を壊滅 させる。
パターンその2。初代 様を呼 び出 し乗っ取られてしまい、ダーク・アキちゃんが日本をめちゃくちゃにする。
パターンその3。おとんを喚 び出して合体技 を使い気まずい思いをする。朧 もおとんには会いたくないかもしれへん。しかし神事 には成功するかも?
という、そんな三択 なんやで?
3やろ、普通 。
そうやって言うてくれ、皆 ……。俺が悪いんやない。
大事なんは三都の平和や。そうやろ?
そう、やろ?
そうやということで、ここは話を進めさせてくれ。
俺はおとんを召喚 した。
助けてくれ、おとん。ジュニア若干 ピンチや。助けて~。
鯰 様に生 け贄 を捧 げて三都を救おうと思うんやけど、祈 り方がわかりません!
もうこの際 、ええ格好 はしてられへん。
助けてくれ、おとん!
祈 ったよ。どこに居 るのかもイマイチわからんおとんに。
そやけど親というのは有 り難 いもんや。喚 んだらすぐに駆 けつけてくれたからな。
ズバン! て、ものすごい落雷 というか火柱 というか、何かそういう超常 現象的 なモンが、祭壇 の正面に立てられていた御柱 のてっぺんに、天空のどこからか撃 ち下ろされてきた。
空気の引 き裂 かれるものすごい音と、灼 けた鉄のような臭 いが突然 、爆 ぜて、そして震 える大木の丸太 ん棒 のてっぺんに、おとんが立っていた。
俺のおかんを姫 抱 っこしたまま。
おかん登場という、予想もしなかった展開 に、俺は一瞬 、ポッカーンとした。
たぶん口開いてた。言いたかないけど、マヌケ面 やったんやないか。
おとんの首にしっかり抱 きついていたおかんは、白い腕 をからめたまま、けほけほと小さく咳 をしていた。どことなく、ぐったりもしていた。
「お兄 ちゃん……うちは生身 なんどすから、もうちょっと優 しゅう降 りられまへんのか」
「いやいや、すまん。暁彦 がおとん早 う来てくれ言うさかい、ついつい急いでもうたわ」
見上げるような御柱 のてっぺんで、二人 はそんな呑気 な会話をくり広げていた。
おとんは真っ白な、直衣 のようなもんを着ていた。
なんか、そんなもん着てると、神様みたいやで、おとん。
日本画の教材に出てくる神さんみたいや。
それに、おかんも、神代(かみよ)の昔の美し女 かと見まごうような、白い絹 の衣 を纏 い、色とりどりの勾玉 を、首や手足に巻 き付 けていた。
あのう……。服が若干 、スケスケやから。
透 けてる、までは言わんけど、ほぼ透 けてる、ぐらいの、何かはあるで。
おかんがなんで俺に、秋津 家正装 の巫女 さんルックを見せてくれへんかったんか、よく分かった。
これはな……マザコンすぎる息子 が見るもんやない。見たらあかんもんやった。
しかもその格好 のおかんが、おとんに抱 きしめられてるところは、生で見るもんやない。写真でもやばいくらいや。
俺の中の大切な何かがズタズタになる。
「そ……っ、そんなとこ立つな、アキちゃん! み……御柱 やで! 神々の依 り給 う神聖 な御柱 や!」
ギャーッて慌 てたふうに、俺のすぐ脇 で大崎 先生がオタオタしていた。
大崎 先生も俺と似 たような理由でテンパってもうてるみたいやった。
「しゃあないやろう、茂 。俺ももう神さんやさかいな、うっかり御柱 に依 り憑 いてもおかしないやないか?」
にやにや言うてるおとんは、ものすご意地悪 そうやった。
大崎 先生はさらにアワアワ来ていた。
「か、神て……かか神て……そうかもしれへんけどアキちゃん」
マジで噛 んでる大崎 先生は俺にもちょっぴり面白 かった。
おとんには相当 面白 かったんか、低く笑 うてる声が、柱の上から降 ってきた。
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