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27-42 アキヒコ
しかも服なんか燃 えててボロボロや。
なんで燃 えてんのや亨 。
それに鼻の横んとこに、ぐいって擦 ったっぽい黒い煤 のあとがある。
間抜 けやでお前。せっかくの美貌 が台無しやないか。
なんでもっと綺麗 なままで登場できひんかったんや亨 !
そやけど亨 は全然気づいてへんみたいやった。
片方 だけ微妙 にナマズ髭 っぽい煤 汚 れが自分の顔についてもうてることなんて。
そんなこと、これっぽっちも気づかへんで、ものっすごシリアス顔やった。
「お前がしっかりせなあかんところやないか! お前、不死鳥 なんやろ! ツレが死んだぐらいのことでガタガタ言うな!」
亨 は大マジで言うてるみたいやった。
寛太 は俺の首をまだ軽く絞 めたまま、どことなく、ぽかんとして亨 を見下ろしていた。
「亨 ちゃん」
「蘇 らせろ! お前がやりゃあええんや。Do it yourself !!」
英語やった。勿論 、自分でやれという意味や。
それくらいは俺も普通 にわかる。
ただなんで今ここで英語なんやというのが意味わからんだけで。
「信太 もさっき言うとったやないか。俺を探 せて言うとったやろ。案外 どっかそこらへんに落ちとんのやないか、あいつの魂 は」
そんなわけないやん……。
俺は聞きながら青ざめていた。
鯰 に食われたんやで。
地霊 のボスみたいなのんやで。
冥界 の眷属 なんやで。
怖 い怖 い強面 の神さんなんや。
それに命食われたやつの魂 がどこへ逝 くか知らんのか、お前は。
俺も実は知らんかった。この時点では。
行き先はな、冥界 や。
鯰 の体は冥界 に繋 がってるんや。
鯰 は命を食うけども、魂 は食わへん。
それは冥界 の神さんたちのもんで、とりあえず地獄 とか天国とかにいき、ものによっては、そこで終わりやけど、多くの魂 はいずれまた新しい命を与 えられて、現世 に再生 されてくる。
いわゆる輪廻 転生 やな。
そやさかい虎 の魂 も……絵の妖怪 に魂 があるんやったらやけどな、鯰 に命をとられた後は、冥界 にいるはずなんや。
そこらへんとちがうで。
冥界 やで。
冥界 は、そこらへんか?
「そこらへんて……どこらへん?」
寛太 はほんまに気の毒なくらい心細そうに震 えた声で、亨 に訊 いていた。
「知るか! 人を頼 ろうとするな。すぐ人に甘 えんのがお前の一番悪い癖 や。自分でやれ。Do it yourself !!」
また英語や。
「Do it yourself ……?」
寛太 リピートしてるわ。それに亨 はめちゃめちゃ頷 いてる。
「探 したら……見つかるのん?」
「わからへん。でも、探 さへんかったら、見つからへんやないか。他 になにができるんや、寛太 。お前があいつのためにしてやれることが、今、他 にあるんか? あいつは死んで、お前は消えて、それでええんか。それで信太 が喜ぶとでも思うとんのか、このアホ! 無能 ! ただの鳥!」
ただの鳥……。
そう言われて、寛太 はものすご悲しい顔をした。
もう、鬼 のようではなかった。
いつも見ていた、ちょっとぽやんとしたような、癒 し系 の美貌 や。
それが悲しみに窶 れ、疲 れ果 ててはいるけども、もう、誰 かを恨 むようではなかった。
「俺……ただの鳥なん?」
涙目 で、寛太 はまた亨 に訊 いた。
「それはお前が自分で決めればええんや! 信太 はお前が不死鳥 やって信じてた。最後までずっと信じてたやないか。それを何で、お前が信じてやられへんねん。気合いを出せ!」
気合い……? 不死鳥 って、気合いでなれるもんなんか……?
俺は目が泳いだ。
でもこの際 、亨 の話に口を挟 むのはやめた。
挟 みたいような気もしたけど、鳥さんが案外 強く俺の首を絞 めてくれてて、苦しゅうて声が出えへんかった。むしろ息も苦しかった。
「気合い……?」
不可解 そうに、寛太 はうっすらと天を仰 いだ。
理解 しようとするな、亨 の話を。
口から出任 せ、無茶苦茶 言うてるだけや。
「そうや気合いや。好きなんやろ、信太 のことが。あいつが生 け贄 になったのはな、神戸 のためもある。せやけどな、お前のためでもあるんやで。このまま、ただの鳥コースでいったら、お前には将来 がないんや。腹 減 って死ぬか、人食って鬼 んなるかや。その中間でもな、霊力 のある奴 に次々抱 いてもろて生きながらえなあかんのや。そんな皆 さんの妾 のコースでお前はええんか! 信太 はそんなん見たないらしいわ! そんなんな、ずうっと我慢 するくらいやったら、命かけても逆転 満塁 ホームランのコースを狙 いたかったんや」
ええんか、そんな一気にネタバレして。
せっかく信太 はこいつに何も言わんと逝 ったのに。
お前がまとめて全部バラしてええんか。
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