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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-45 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-45 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-45 アキヒコ
怖
(
こわ
)
ッ。おかん怒ってるわ。 どう見ても怒ってる。マジギレや。 両親の
痴情
(
ちじょう
)
のもつれやで。 そこに、実の子である俺が
居合
(
いあ
)
わせてもええんか。 アキちゃん、マジでおろおろするわ。どないしよ! しかし、さしあたっては、
祭壇
(
さいだん
)
でヘトヘトになったまま
崩
(
くず
)
れ
落
(
お
)
ちてる以外にすることはない。 俺はめちゃめちゃ
押
(
お
)
し
黙
(
だま
)
っていた。 しんどくて口をきかれへんのもあったけど、何も言うたらあかん気がして、言葉が出てきいひんかってん。 おかんは
居住
(
いず
)
まいを正し、つんと
顎
(
あご
)
を上げた
気位高
(
きぐらいたか
)
い
様子
(
ようす
)
を見せた。 「それくらいは
勿論
(
もちろん
)
、わかってます。うちが
水煙
(
すいえん
)
の
連
(
つ
)
れ
合
(
あ
)
いになればええんどすやろ」 「えっ……ちょっと待て。お前は急になにを言い出すんや」 おとんの目が
一瞬
(
いっしゅん
)
ものすご遠いところまでいってた。 「うちではあかんのどすか、
水煙
(
すいえん
)
」 じっと俺の
握
(
にぎ
)
る
水煙
(
すいえん
)
の
刀身
(
とうしん
)
に目を向け、おかんは
真剣
(
しんけん
)
そのものの声で
訊
(
たず
)
ねた。 「えっ……ちょっと待てって、お
登与
(
とよ
)
。
水煙
(
すいえん
)
は、その……男しかあかんのやで?」 何が言いにくかったのか、おとんは言いにくそうやった。 その言いにくさには俺も共感できた。 それでも、おかんの
真剣
(
しんけん
)
さには
揺
(
ゆ
)
らぎがなかった。ただじっと
水煙
(
すいえん
)
を見つめていた。
水煙
(
すいえん
)
の
刀身
(
とうしん
)
が、だらだら
汗
(
あせ
)
をかいていた。たぶん
脂汗
(
あぶらあせ
)
や。 『トヨちゃん……あのな……言いにくいんやけど、その……俺にはもう心に決めた相手がな』 「お
蔦
(
つた
)
姉
(
ねえ
)
ちゃんが、
水煙
(
すいえん
)
と
接吻
(
せっぷん
)
したことがあるて、言うておいやした」
水煙
(
すいえん
)
にそれが
可能
(
かのう
)
やったら、たぶん
吹
(
ふ
)
いてた。 でも
太刀
(
たち
)
やし無理やから、代わりに俺とおとんと
大崎
(
おおさき
)
先生が
吹
(
ふ
)
いといた。 「なんやと
水煙
(
すいえん
)
。どないなっとんのや、それは。お
蔦
(
つた
)
姉
(
ねえ
)
ちゃんは俺の
許嫁
(
いいなずけ
)
やぞ。しかも女子(おなご)やないか。な、な、なんで、そないなことになったんや! 俺は聞いてへん!」 おとんも軽くマジギレしていた。マジギレしてええのか、おとん。何にマジギレしてんのや。 『
人工呼吸
(
じんこうこきゅう
)
やないか。
蔦子
(
つたこ
)
が
時流
(
じりゅう
)
に
溺
(
おぼ
)
れたもんやから、助けなあかんと思て……』
水煙
(
すいえん
)
はなんで、おとんに
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
する
口調
(
くちょう
)
なんや? なんで、おとんに……? 俺にやろ、ここは? 「二回したて言うておいやした! 二回!!」 おとんの
陰
(
かげ
)
から、おかんも
何故
(
なぜ
)
かマジギレしたように
指摘
(
してき
)
していた。 二回!? 『二回て……二回やない。一回や。
息継
(
いきつ
)
ぎしたから二回になっただけや』
水煙
(
すいえん
)
は、
怯
(
ひる
)
んだようになって、
律儀
(
りちぎ
)
に説明していた。 な、なんやそうか。それなら一回でええんやないか? 俺なんかはそう思たんやけど、おかんは
納得
(
なっとく
)
してへんかった。 「二回どす! うちなんか、あんたが
人型
(
ひとがた
)
になったとこを見せてもろたこともあらしまへんえ!
夢
(
ゆめ
)
にも
現
(
うつつ
)
にもあらしまへん!」 『見てどないすんのや、そんなもん……』
水煙
(
すいえん
)
、
若干
(
じゃっかん
)
、おかんに引いてた。 「どないもしまへんけど、うちも見たいんどす! お
蔦
(
つた
)
姉
(
ねえ
)
ちゃんが、
綺麗
(
きれい
)
やったわぁ、て言うてはったもん。お
兄
(
にい
)
ちゃんにかて、
夢枕
(
ゆめまくら
)
には立つんどすやろ? なんでうちだけ仲間はずれなんどすか。ずるい。ずるいわ」 ずるいか。 『それはお前に
位相
(
いそう
)
を
渡
(
わた
)
る力がないせいや。どうも
秋津
(
あきつ
)
の女子(おなご)には、その力より、
時流
(
じりゅう
)
と
関
(
かか
)
わる力のほうが伝わりやすいみたいでな……ずうっと昔からそうやねんから、しょうがないやないか……?』 そういうもんやろと、
諭
(
さと
)
す
口調
(
くちょう
)
でなだめすかす
水煙
(
すいえん
)
に、おかんは、ぷう、とむくれた顔をした。 俺はショックやった。俺のおかん、こんな人やったっけ? なんていうか、こんな……妹キャラみたいな人やった? おかん、俺の前では、ほんまの自分を
隠
(
かく
)
してたんか。ずうっと
隠
(
かく
)
してたん? 俺がずうっと、
子供
(
こども
)
のころから、俺のおかんはこんな女やと思うて信じてきてたものって、実はおかんの、ほんまの
姿
(
すがた
)
とちがうかったんか。 ぽやんと
可愛
(
かわい
)
い、お
姫
(
ひい
)
さんみたいで。
優
(
やさ
)
しくて。でも時々、すごく
怖
(
こわ
)
くて。強い
巫女
(
みこ
)
さんで。 いつもどこか、
捕
(
と
)
らえどころのない
綺麗
(
きれい
)
な
笑
(
え
)
みで、ちんまりと
奥座敷
(
おくざしき
)
の
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
の前に、
座
(
すわ
)
っている。 いつも
綺麗
(
きれい
)
な着物着て。自分の親とは思われへん、
若
(
わか
)
い、
綺麗
(
きれい
)
なままで。 俺はおかんの、ほんの一面しか、知らんで生きてきたんやろうな。 自分にとって、都合のいいところしか、見てへんかった。 『ようそんな、おぼこいことで、
仮
(
かり
)
とはいえ、
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
が
務
(
つと
)
まったもんやなあ、
登与
(
とよ
)
ちゃん』
危
(
あぶ
)
ないところやった、という
響
(
ひび
)
きのある
口調
(
くちょう
)
で、
水煙
(
すいえん
)
はぼやいた。 それにも、おかんはまた
一層
(
いっそう
)
、むかっとしたように、むくれた。 「うちかて
精一杯
(
せいいっぱい
)
頑張
(
がんば
)
ってましたんや。
仮
(
かり
)
やおへんえ。お
兄
(
にい
)
ちゃんが
出征
(
しゅっせい
)
された後、七十
有余
(
ゆうよ
)
年、うちが
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
どした。あんたもそれを
認
(
みと
)
めておくれやす。それを
認
(
みと
)
めておくれやしたら……」 おかんは、ちらっと
一瞬
(
いっしゅん
)
、俺のほうを見た。 そやのに、
視線
(
しせん
)
を合わせようとすると、ふいっと
他所
(
よそ
)
向いて、また
水煙
(
すいえん
)
の
刀身
(
とうしん
)
に目を
戻
(
もど
)
す。
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