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27-51 アキヒコ
俺はなんか、とんでもないスイッチ押 してもうたんやろうか。
呆然 としてフラフラやったはずの朧 から、急に魔闘気 みたいなのがモヤモヤ出てきた。
魔闘気 やで。黒いで、オーラが。オーラって言うの?
奴 の体からもやもや出る、ちょっぴり透 けてる霊力 の蜃気楼 みたいなのやで?
見えるやろ? 見えへん? 普通 は?
俺には見えるんやって。
出てる。めちゃめちゃ出てる。なんやろうこれ。
どう見ても神威 や。こいつただの妖怪 やないで。
朧 。お前どんだけ霊力 ためこんでたんや。
なんというか。ほら。神? 神レベル?
それもただの神やのうて、邪神 ?
なんかちょっとな、なんかちょっと……神聖 ではないな、というかな、いい神さんではないな、というか、危 ないな、というか、これほっといたらヤバいんやないかな、という……。
「水煙 」
朧 は急に水煙 を名指 しやった。
なんやろう、怖 いいい。ケンカせんといてくれ。
「なんやラジオ」
水煙 、怖 いいい。頼 むしケンカせんといてくれ。
俺の手の中で、太刀 のまんまの水煙 が、あれって思うくらいドスの利 いた声で答えるのを、俺はビビって聞いてた。
「俺がほんまはどの程度 のもんか、お前に見せたる。お前がついていながら、坊 を死なせよって、お前は腰抜 けや」
確 かに腰 は抜 けてる。
でもアキちゃんとてもそんなボケ言われへんかった。さすがに空気を読めた。
「俺が行けばよかった。俺がついてたら、みすみす坊 を死なせはしいひんかった。命がけでも助けてた。お前はな……水煙 。命が惜 しかったんやろう。そうに決まってる。坊 には跡取 りがおる。その子が居 れば、お家 は残る。お前はそう思って、死ぬのが怖 くなったんや。違 うんか!」
なんで急に今そんなこと言うのん。やめよ。やめてくれ朧 。
水煙 は、黙 っていた。
でも、別に無視 してる訳 ではないようやった。
しばらく押 し黙 る間、水煙 は何かを、考えているようやった。
「そうかもしれへん」
水煙 は急にぼつりと、そう答えた。
それは内容 の割 に、えらくあっさり聞こえた。
「そうかもしれへん。俺はアキちゃんが死んでもええわと思ったんかもしれへん。そういう俺を選んだ時点 で、あいつの死は確定 していた。あいつ自身が選んだんや。自分の死を」
「都合のええこと抜 かすな、このマグロが!」
ものすご怖 い声で朧 が怒鳴 った。
なんの話。なんの話。
口を差 し挟 めへん状況 だけに黙 るしかないねんけども。
なんの話や、言ってええことと悪いことがある、朧 !
俺は内心ジタバタしていた。立ってたら意味無く地団駄 くらい踏 んだかもしれへん。
亨 も、お口 アーンてなってた。
何か言いたいけどタイミングがないんやろ。
ないよな。俺もなかった。
瑞希 も完全に硬直 してた。
意味分からへんかったんやろ。俺も分かりたくはなかった。
「お前が、殺したんや。見殺しにしたんや。なんでお前はそんな……酷 いことができるんや……」
思い返してもつらいんか、朧 は顔を覆 って呻 くように言うたが、むらむら出てる魔闘気 は、いっさい弱まることがなかった。むしろ強くなってた。
「酷 いか? そうでもないわ。人間はみんないつか死ぬんや。それがあいつの場合、たまたまちょっと早かったというだけやろ。俺はな、そういうのは慣 れてるんや」
まるで、けろっとしたふうに、水煙 は朧 に言うてた。
「どんなに目をかけて育ててやっても、秋津 の子はみんな死ぬしな。あいつもそうやった。しょうがない。人には寿命 があんのや。神と違 って。不死 ではない」
「それでも、死なんといてほしいと思うのが……当たり前やないか! なんでお前はそうやなかったんや!」
そう問 われ、水煙 はまた、押 し黙 った。
答えを考えているんか、何も考えてへんのか、俺にもさっぱりわからへん。
そやけど水煙 が、全然動揺 してへんのだけは、わかる。
握 った柄 から伝わる水煙 の気は、まるで静まりかえった水面 のようやった。
「さあ。なんでやろ。俺が大した神やなかったからやないか。俺はな、薄情 やねん。お前もずうっとそう言うてたやないか。俺は、アキちゃんが思うような有 り難 い神やない。ただの、刃物 や。神やない」
「居直 るんか、水煙 」
朧 はたじろいだようやった。
「そうやな。今さらこの土壇場 で、ええ格好 しても始まらんやろ。正直言うてな、朧 、この後どないするか俺にも皆目 見当 がつかへんのや。とりあえず行かなしょうがないから、海までは行くが、策 はない。また秋津 の子が海神 に呑 まれるんやなと、思うてるところや」
さらさら喋 る水煙 の話に、朧 はショックを受けたようやった。
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