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三都幻妖夜話(3)神戸編 27-52 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-52 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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27-52 アキヒコ
亨
(
とおる
)
もガッツン来たらしく、あわあわしながら、俺にぶるんぶるん首を
振
(
ふ
)
って何かを
否定
(
ひてい
)
していた。 その必死のブロックサインを見ながら、ああ、
水煙
(
すいえん
)
が本気やないて言うてんのやろ、わかってるわかってるって、俺は
頷
(
うなず
)
いて見せてた。 何でか知らんけど、俺は全然ショックやなかった。 こんなこと
水煙
(
すいえん
)
が本気で言うわけあらへんて、
腹
(
はら
)
の底から思ってたんやろな。 俺、
甘
(
あま
)
い? アキちゃん、
騙
(
だま
)
されるタイプ? そやけど、ほんまにそうやから、しょうがないな。 「どないするんや、それで……どうやって
坊
(
ぼん
)
を守るつもりや」 「さあ。俺はもう
九割方
(
きゅうわりがた
)
諦
(
あきら
)
めてる。お
国
(
くに
)
のためや、しょうがない。それが
秋津
(
あきつ
)
の子の
定
(
さだ
)
めなんやろう。あとは
立派
(
りっぱ
)
に
勤
(
つと
)
めを
果
(
は
)
たすのを、
見届
(
みとど
)
けるだけやな……」 しれっと話す
水煙
(
すいえん
)
の話を、
朧
(
おぼろ
)
はワナワナ
震
(
ふる
)
えながら聞いていた。 怒ってる、というより、あいつは
怖
(
こわ
)
かったんかもしれへん。 アキちゃんが、また死ぬのが、
嫌
(
いや
)
やったんやろう。 「
嫌
(
いや
)
や……俺は、それは
嫌
(
いや
)
や。
我慢
(
がまん
)
ならへん。二度目はもう、
我慢
(
がまん
)
できひんわ」
朧
(
おぼろ
)
は頭を
抱
(
かか
)
えんばかりやった。声に苦しみが
滲
(
にじ
)
み
出
(
で
)
ていた。 「ちゃちな
奴
(
やつ
)
やなあ、お前は。俺なんか
何遍
(
なんべん
)
耐
(
た
)
えたか。そんなに
嫌
(
いや
)
なんやったら、お前が何とかせえ。神なんやろ。アキちゃんがそう言うたんやろ。おだてられて、いい気になりよってからに。
偉
(
えら
)
そうに……。神やて言うんやったらな、それ
相応
(
そうおう
)
の
働
(
はたら
)
きを見せてからにせえ」
水煙
(
すいえん
)
はむっちゃ
偉
(
えら
)
そうやった。 何の
根拠
(
こんきょ
)
もないのに、ものすご
尊大
(
そんだい
)
やった。 それがものすご自然に
板
(
いた
)
に
付
(
つ
)
いていた。
水煙
(
すいえん
)
て、そういえば、なんで
偉
(
えら
)
かったんやっけ。 なんかよう分からんけども、
秋津
(
あきつ
)
の
主神
(
しゅしん
)
で、一番
偉
(
えら
)
い神さんなんや。 俺は何の説明もないままそれを信じてたけど、そういえば
水煙
(
すいえん
)
て、何をした神さんなんやっけ? 俺がそんなことを、ぼんやり思ううちにも、
朧
(
おぼろ
)
はよっぽど
動揺
(
どうよう
)
したんか、ぜえぜえ言うてた。
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
か、
朧
(
おぼろ
)
。 お前ちょっと体弱いんとちゃうか、見かけによらず。 やっぱまだ
古傷
(
ふるきず
)
が治ってへんのやないか。無理すんな! しかし
朧
(
おぼろ
)
は
相当
(
そうとう
)
に無理をしたようや。 「分かった……」 何か分かったらしい。 「俺が助ける」
朧
(
おぼろ
)
は
断言
(
だんげん
)
した。
亨
(
とおる
)
はあわあわした。 「えっ、ちょっ……と待って。俺やない? それ、俺がやるところやない? ヒロインなんやし……」 今、言っていいですかって気まずそうなノリで、
亨
(
とおる
)
が口を
挟
(
はさ
)
んだ。 「しっ。
黙
(
だま
)
っとれ
蛇
(
へび
)
。
誰
(
だれ
)
でもええんや」
水煙
(
すいえん
)
がツッコミ入れてた。 「あいつにやらせろ」 人型やったら
顎
(
あご
)
で指すような、
尊大
(
そんだい
)
な
態度
(
たいど
)
で、
水煙
(
すいえん
)
は
朧
(
おぼろ
)
のことを言うていた。
朧
(
おぼろ
)
は
相当
(
そうとう
)
に
余裕
(
よゆう
)
がないようやったけど、顔を
覆
(
おお
)
って何かぶつぶつ考え
込
(
こ
)
んでいた。 そして、はっと
驚
(
おどろ
)
いたように、顔を上げた。 「あかん、来る」 何が。 それはもちろん
龍
(
りゅう
)
や。 「もう行かなあかん。海へ。間に合わんようになる」
朧
(
おぼろ
)
はひどく
急
(
せ
)
いていた。 まだこの場の
誰
(
だれ
)
も気付いていないような
出来事
(
できごと
)
が、遠い海の中で起きたのを、こいつだけが分かっていたんや。 それは遠くこの神戸の
岸辺
(
きしべ
)
を
離
(
はな
)
れた、
太平洋
(
たいへいよう
)
の海の底で起きた。
神戸
(
こうべ
)
で起きた
地震
(
じしん
)
は、
連鎖的
(
れんさてき
)
にあちこちの
土地神
(
とちがみ
)
や
海神
(
わだつみ
)
を
揺
(
ゆ
)
り
動
(
うご
)
かした。
鯰
(
なまず
)
の身じろぎが、あっちを
揺
(
ゆ
)
らし、こっちを
揺
(
ゆ
)
らしして、目覚めたらあかん神が、あちらこちらでお目覚めに。 それは運悪く、長いこと
眠
(
ねむ
)
っていた海の底の神をも身じろぎさせ、
霊的
(
れいてき
)
な
扉
(
とびら
)
を開いてしもた。 そこへ
現
(
あらわ
)
れたのが
龍
(
りゅう
)
や。 ずっと、天に
昇
(
のぼ
)
るための出口を
探
(
さが
)
して、地球上をのたうっていた青い
龍
(
りゅう
)
が、
俄
(
にわか
)
に開いた
現世
(
げんせ
)
への出口を見つけて、一気に
駆
(
か
)
け
上
(
のぼ
)
って来たんや。 海神(わだつみ)の一種や。海そのものやねん。
激
(
はげ
)
しい
鳴動
(
めいどう
)
とともに
隆起
(
りゅうき
)
した海。それは、のたうつ
巨大
(
きょだい
)
な
波
(
なみ
)
や。
天界
(
てんかい
)
へと登る道を
探
(
さが
)
して、
神戸
(
こうべ
)
へとまっしぐらに
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せてくる
波
(
なみ
)
。
何物
(
なにもの
)
もそれを
阻
(
はば
)
むことはできひん。 何もかもを
押
(
お
)
し
包
(
つつ
)
み、
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んでしまう強大な神やからや。 それは
未曾有
(
みぞう
)
の
大津波
(
おおつなみ
)
やった。
衛星
(
えいせい
)
の目が、それを見ていた。 そしてその
映像
(
えいぞう
)
を、
朧
(
おぼろ
)
は見ることができたんや。 「そんな犬っころに乗ってちんたら走ってたら間に合わへん。俺に乗れ、
坊
(
ぼん
)
」 犬ころ言われた
瑞希
(
みずき
)
はショックやったやろうけど、俺はその後に起きた出来事のほうが、もっとずっとショックやった。
朧
(
おぼろ
)
が
化
(
ば
)
けたんや。 まさかこいつまで
変身
(
へんしん
)
するとは。
例
(
れい
)
の焼けた
骸骨
(
がいこつ
)
にやないで。
龍
(
りゅう
)
にや。
龍
(
りゅう
)
やで。
龍
(
りゅう
)
!
龍
(
りゅう
)
やで! うぎゃああああああ。
蛇
(
へび
)
やったあああああああああ! また
蛇
(
へび
)
やったあああああ! なんで俺、
蛇
(
へび
)
が好きなんやろう!
朧
(
おぼろ
)
は
化
(
ば
)
けた。 むらむらドロンと
漆黒
(
しっこく
)
の
霊威
(
れいい
)
を発して、黒光りする
艶
(
あで
)
やかな
鏡面
(
きょうめん
)
仕上
(
しあ
)
げの、長々とのたうつデカい
龍
(
りゅう
)
にや。
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椎堂かおる
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