748 / 928

27-52 アキヒコ

 (とおる)もガッツン来たらしく、あわあわしながら、俺にぶるんぶるん首を()って何かを否定(ひてい)していた。  その必死のブロックサインを見ながら、ああ、水煙(すいえん)が本気やないて言うてんのやろ、わかってるわかってるって、俺は(うなず)いて見せてた。  何でか知らんけど、俺は全然ショックやなかった。  こんなこと水煙(すいえん)が本気で言うわけあらへんて、(はら)の底から思ってたんやろな。  俺、(あま)い? アキちゃん、(だま)されるタイプ?  そやけど、ほんまにそうやから、しょうがないな。 「どないするんや、それで……どうやって(ぼん)を守るつもりや」 「さあ。俺はもう九割方(きゅうわりがた)(あきら)めてる。お(くに)のためや、しょうがない。それが秋津(あきつ)の子の(さだ)めなんやろう。あとは立派(りっぱ)(つと)めを()たすのを、見届(みとど)けるだけやな……」  しれっと話す水煙(すいえん)の話を、(おぼろ)はワナワナ(ふる)えながら聞いていた。  怒ってる、というより、あいつは(こわ)かったんかもしれへん。  アキちゃんが、また死ぬのが、(いや)やったんやろう。 「(いや)や……俺は、それは(いや)や。我慢(がまん)ならへん。二度目はもう、我慢(がまん)できひんわ」  (おぼろ)は頭を(かか)えんばかりやった。声に苦しみが(にじ)()ていた。 「ちゃちな(やつ)やなあ、お前は。俺なんか何遍(なんべん)()えたか。そんなに(いや)なんやったら、お前が何とかせえ。神なんやろ。アキちゃんがそう言うたんやろ。おだてられて、いい気になりよってからに。(えら)そうに……。神やて言うんやったらな、それ相応(そうおう)(はたら)きを見せてからにせえ」  水煙(すいえん)はむっちゃ(えら)そうやった。  何の根拠(こんきょ)もないのに、ものすご尊大(そんだい)やった。  それがものすご自然に(いた)()いていた。  水煙(すいえん)て、そういえば、なんで(えら)かったんやっけ。  なんかよう分からんけども、秋津(あきつ)主神(しゅしん)で、一番(えら)い神さんなんや。  俺は何の説明もないままそれを信じてたけど、そういえば水煙(すいえん)て、何をした神さんなんやっけ?  俺がそんなことを、ぼんやり思ううちにも、(おぼろ)はよっぽど動揺(どうよう)したんか、ぜえぜえ言うてた。  大丈夫(だいじょうぶ)か、(おぼろ)。  お前ちょっと体弱いんとちゃうか、見かけによらず。  やっぱまだ古傷(ふるきず)が治ってへんのやないか。無理すんな!  しかし(おぼろ)相当(そうとう)に無理をしたようや。 「分かった……」  何か分かったらしい。 「俺が助ける」  (おぼろ)断言(だんげん)した。  (とおる)はあわあわした。 「えっ、ちょっ……と待って。俺やない? それ、俺がやるところやない? ヒロインなんやし……」  今、言っていいですかって気まずそうなノリで、(とおる)が口を(はさ)んだ。 「しっ。(だま)っとれ(へび)(だれ)でもええんや」  水煙(すいえん)がツッコミ入れてた。 「あいつにやらせろ」  人型やったら(あご)で指すような、尊大(そんだい)態度(たいど)で、水煙(すいえん)(おぼろ)のことを言うていた。  (おぼろ)相当(そうとう)余裕(よゆう)がないようやったけど、顔を(おお)って何かぶつぶつ考え()んでいた。  そして、はっと(おどろ)いたように、顔を上げた。 「あかん、来る」  何が。  それはもちろん(りゅう)や。 「もう行かなあかん。海へ。間に合わんようになる」  (おぼろ)はひどく()いていた。  まだこの場の(だれ)も気付いていないような出来事(できごと)が、遠い海の中で起きたのを、こいつだけが分かっていたんや。  それは遠くこの神戸の岸辺(きしべ)(はな)れた、太平洋(たいへいよう)の海の底で起きた。  神戸(こうべ)で起きた地震(じしん)は、連鎖的(れんさてき)にあちこちの土地神(とちがみ)海神(わだつみ)()(うご)かした。  (なまず)の身じろぎが、あっちを()らし、こっちを()らしして、目覚めたらあかん神が、あちらこちらでお目覚めに。  それは運悪く、長いこと(ねむ)っていた海の底の神をも身じろぎさせ、霊的(れいてき)(とびら)を開いてしもた。  そこへ(あらわ)れたのが(りゅう)や。  ずっと、天に(のぼ)るための出口を(さが)して、地球上をのたうっていた青い(りゅう)が、(にわか)に開いた現世(げんせ)への出口を見つけて、一気に()(のぼ)って来たんや。  海神(わだつみ)の一種や。海そのものやねん。  (はげ)しい鳴動(めいどう)とともに隆起(りゅうき)した海。それは、のたうつ巨大(きょだい)(なみ)や。  天界(てんかい)へと登る道を(さが)して、神戸(こうべ)へとまっしぐらに()()せてくる(なみ)。  何物(なにもの)もそれを(はば)むことはできひん。  何もかもを()(つつ)み、()()んでしまう強大な神やからや。  それは未曾有(みぞう)大津波(おおつなみ)やった。  衛星(えいせい)の目が、それを見ていた。  そしてその映像(えいぞう)を、(おぼろ)は見ることができたんや。 「そんな犬っころに乗ってちんたら走ってたら間に合わへん。俺に乗れ、(ぼん)」  犬ころ言われた瑞希(みずき)はショックやったやろうけど、俺はその後に起きた出来事のほうが、もっとずっとショックやった。  (おぼろ)()けたんや。  まさかこいつまで変身(へんしん)するとは。  (れい)の焼けた骸骨(がいこつ)にやないで。(りゅう)にや。  (りゅう)やで。(りゅう)! (りゅう)やで!  うぎゃああああああ。(へび)やったあああああああああ!  また(へび)やったあああああ! なんで俺、(へび)が好きなんやろう!  (おぼろ)()けた。  むらむらドロンと漆黒(しっこく)霊威(れいい)を発して、黒光りする(あで)やかな鏡面(きょうめん)仕上(しあ)げの、長々とのたうつデカい(りゅう)にや。

ともだちにシェアしよう!